第36話 魔人の刺客
三人の容姿に注目する。
右に立つ長身の男は、捩れた角と尻尾を持っていた。
両腕は赤黒い鱗に覆われている。
衣服は薄い布で軽装だが、体表や筋肉の硬さがあるので防具が不要なのだろう。
左に立つ背の低い男は、牙を剥き出しにして笑う。
脇腹辺りから虫の翅が対になって生えている。
手には草刈り鎌を携えており、刃には紫色の粘液が塗布されていた。
口から垂れる唾液も同じ色だ。
おそらくは毒か何かを分泌できる能力と思われる。
真ん中の男は肌が斑模様で不機嫌そうな顔をしている。
やや筋肉質な点を除くとこれといった特徴がないように見えるが、その目は不気味な光を宿していた。
おそらくは魔族の眼球を移植したのだろう。
光の当たり具合によって虹彩が様々な色合いに変化しており、焦点が微妙に合っていない。
視力自体はかなり悪く、ほとんど見えていないはずだ。
ただし何らかの特殊能力を備えている可能性が高い。
そのような三人を前にして抱いたのは、素直な感心の念だった。
(魔人の成功例は珍しい。技術の進歩で移植手術が安定化したのだろうか)
人間にとって魔族の血肉は猛毒に等しい。
体内に取り込むと拒絶反応で苦しみながら死ぬことになる。
現代の技術ではその難点をある程度は克服しているのかもしれない。
エイダの知り得る範囲ではまだ難しいはずなので、一般的に体系化されていない独自技術だろう。
考察していると、不気味な目を持つ男が話しかけてくる。
「賢者エイダだな。貴様の命を貰う」
殺気を隠さない宣言だった。
エイダが無言で目付きを鋭くする。
そんな彼女に補足説明をした。
「魔爪の導示だ」
「分かっているよ。くそ、ここまで用意周到だとは……」
エイダは悔しげにぼやく。
潤沢な装備を保管した別荘を壊されて、彼女は悔しさを滲ませている。
そこでルナが前に進み出た。
彼女は短剣を回転させながら述べる。
「任せてよ、エイダちゃん。あたしが殺しちゃうから」
「待て、奴らは何かおかしい。慎重に行動しないと――」
「だいじょうぶだよー。一瞬だからさっ」
エイダの忠告を遮り、ルナが勢いよく飛び出した。
そのまま高笑いして魔人達に襲いかかる。
切りかかる彼女を止めたのは、長身の男だ。
鱗に覆われた腕で防御して突進の勢いを受け流す。
初撃を凌がれたルナは嬉しそうに笑う。
「およ、速いねー」
そこからルナは連撃を仕掛けていく。
凄まじい斬撃と刺突により、長身の男の鱗が次々と削れて剥がれた。
反撃の間もないため防戦一方となっている。
無理に動けば、たちまちルナの刃の餌食となるだろう。
長身の男は顔を歪めて舌打ちする。
「チッ、面倒な……」
「埒が明かない。二人でやるぞ」
見かねた背の低い男が参戦するも、ルナの猛攻は止まらない。
圧倒的な手数と殺人技能を以て攻め立てていく。
戦いの中で成長し続ける彼女を対抗するのは至難の業だ。
いくら魔人でも半端な力では通用しない。
このままルナが押し切るかと思われたその時、静観していた斑模様の男が動いた。
彼は自然な動作で横にずれると、ルナの顔を覗き込む。
すると唐突にルナの身体が硬直した。
それに合わせて長身の男が蹴りを放ち、彼女の身体を軽々と吹き飛ばした。




