第34話 エセ賢者の別荘
人目を避けた経路を選んで旅を続ける。
幸いにもこれといった問題は起きていない。
何度か魔物と遭遇することがあったが、ルナが即座に始末するので足を止めることすらなかった。
彼女の見事な短剣捌きは射程内の生物を問答無用で解体する。
そうして現在は、うっすらと雪の積もる鉱山地帯を進んでいた。
辺りにはトロッコや採掘道具が放置されて、寂れた小屋が点々と建っている。
興味本位から羊皮紙を伸ばしてそれらの痕跡に触れる。
すると、幾多もの情報が吸い出されて蓄積されていった。
この地に刻まれた記憶を複製して取り込んだのだ。
それによって何があったのかを理解する。
数年ほど前までは、ここで鉱山開発が行われていたらしい。
ところが魔物の大量発生で労働者の負傷が絶えず、駆除が追いつかないまま捨て置かれたそうだ。
物質から読み取れたのは、概ねそのような過去であった。
本来こういった場合には冒険者が派遣されるはずだが、資金面から割に合わず頓挫したものと思われる。
特定地域から魔物を根絶するのは難しい。
相当な腕利きを雇うか、大勢の冒険者を動員するしかない。
鉱山開発の運営者にはそれだけの経済的な余裕がなかったのだろう。
細かな事情は推測に過ぎないが見当違いではないはずだ。
似たような話はどの時代にもありふれている。
落ちていたツルハシをなぜか担ぐエイダは意気揚々と笑う。
「もうすぐ別荘に到着するぞ。保管してある装備を使えば、君達の足手まといになることもなくなる。いや、むしろ私が最強になってしまうかもしれない」
「本当!? じゃあ、あたしと戦って性能を確かめようよっ!」
「い、いや……それは、ちょっと、うん……やめておこうかな。装備が壊れては困るからね……」
乗り気なルナに対し、エイダは途端に弱気になっている。
実に妥当な判断だ。
仮に十全な装備で武装したところで、エイダに勝ち目はないだろう。
二人の間にはそれだけの実力差がある。
ルナは粗末な武器で魔族を殺すことができる。
彼女の使う光の刃は、勇者の血統だけが発現する能力だ。
半端な魔道具など効果を発揮する前に破壊し、高品質な装備で固めたとしても不十分である。
(人格面が伴えば完璧な英雄なのだが)
ルナを一瞥した後、前方の光景に注目する。
積み上げられた石炭の山の先に建物が見え隠れしていた。
エイダから事前に聞いた情報によれば、あそこが彼女の別荘だ。
しかし何やらおかしい。
近付くにつれて明らかとなる異変を前に、エイダの表情が険しくなっていく。
やがて石炭の山を通り過ぎて別荘の全貌が露わになった。
言葉を失うエイダに淡々と告げる。
「壊れているのは装備どころではないようだ」
目の前にある別荘は半ば以上が焼け落ちた上に破壊されており、辛うじて原型を留めているような有様だった。




