第33話 エイダの判断
己に巣食う怪物性は理解している。
だからこそ、世界の安全のために図書館に引きこもってきた。
無闇に他者と関われば、いずれ知識欲に呑まれかねない。
衝動を抑え込めない可能性があるため、外界との繋がりをなるべく断っていた。
その方針を崩したのは、目の前にいるエイダである。
彼女の覚悟と話術に丸め込まれたのだ。
命懸けで虚言で得た名誉を守ろうとする姿勢に興味を覚えてしまった。
ある程度は本人の計算通りだろう。
術中にはまったことを自覚しながらも、こうして手を貸しているのが現状だった。
(常人の身でありながら、よくやるものだ)
毅然と振る舞うエイダを見てふと思う。
彼女には愚かな一面があるが、決して馬鹿ではない。
蔵書狂を外界に連れ出すという行為が、どれだけ危険なのかを分かっているはずだ。
そして、助手として同行させることで生じる問題や、自分の身に及ぶかもしれない事態も理解しているだろう。
すべてを加味した上で、エイダは茨の道を突き進む覚悟を決めた。
勇者の末裔ルナについても同様である。
彼女が生粋の殺人鬼であるのは言うまでもない。
仲間にする利点よりも、ルナが原因で生じるであろう問題点の方が多そうだ。
それでもエイダが協力関係を結んだのは、自身の目的達成が途方もなく困難だからであった。
無謀な賭けにも近い選択で勝ち続けなければならないと確信したからこそ、この奇妙な三人組を実現したに違いない。
エイダの度胸に改めて感心していると、不意に彼女が話しかけてきた。
「ところでヴィブル」
「何だ」
「脳の改造で私を強くすることはできないかな。周りに頼るだけではなく、自分の能力が覚醒すれば――」
提案を最後まで言わせず、羊皮紙を巻き付けてエイダの口を塞いだ。
そして呆れを隠さずに告げる。
「他力本願は堕落の一歩だ。お前は自力で乗り越えることを学べ」
「わ、っぷあ……わ、分かった。ただの冗談だよ、ははは」
羊皮紙を剥いだエイダは肩をすくめる。
冗談らしいが、こちらが承諾すれば嬉々として乗ってきた気がする。
色々と覚悟を決めたように見えて、未だにこういった提案をするのはなぜなのか。
エイダの真意はよく分からない。
やり取りを聞いていたルナがエイダに尋ねる。
「エイダちゃんは強くなりたいの?」
「そうだね。賢者の名に劣らない実力があれば満足なのだが」
「じゃあ魔族の肉を食べるといいよ! きょぜつはんのーで死ぬかもしれないけど、魔力が強化されるんだって!」
ルナは嬉しそうに説明する。
表情とは裏腹に、言っている内容は禍々しい。
頬を引き攣らせるエイダは、小声でこちらに確認を取る。
「あれは本当か?」
「事実だ。ほぼ確実に死ぬが、適応できれば魔族の力を取得する。試してみるか」
「いや、遠慮しておくよ……こういう賭け事は苦手だからね」
エイダは大人しく引き下がる。
さすがの彼女でも、ここで踏み切る勇気はないらしい。
こういうところはやはり常人だった。




