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エセ賢者と魔導書ゴーストライター  作者: 結城 からく


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第3話 エセ賢者の悩みごと

 図書館にエイダが現れる。

 彼女は銀の刺繍が施されたローブを着込んでいた。

 艶やかな金髪は肩の辺りで切り揃えている。


 この十年でエイダは少女から立派な大人になった。

 細かな立ち振る舞い洗練されて、さぞ充実した日々を送っていることが窺える。


 ところが今日の彼女はやけに弱っていた。

 いつもは自信に満ちた表情だが、明らかに顔色が悪い。

 さすがに看過できずに尋ねる。


「どうした」


「いや、ちょっと問題が起きてしまってね……君に相談したいことがある」


 エイダは神妙な様子で言う。

 彼女がそのように切り出すのは初めてのことだった。

 そこまで深刻な状況に陥っているのか。

 椅子に腰かけたエイダは深呼吸をしてから話し始める。


「ヴィブル。私の仕事を知っているかな」


「商人だろう」


「違う。今は賢者なんだ」


 エイダは意外な告白をする。

 賢者とは、魔術師の中でも最上位の者に与えられる称号だ。

 時代によって定義は様々であるが、いずれにしても優れた魔術師を指す。

 だからこそ、エイダが賢者を名乗ることに違和感があった。


「お前に魔術的な才能はない。魔力量も平凡だ。知識も受け売りばかりだろう」


「うっ……はっきり言うね」


「事実だ」


 風貌は魔術師に近いがそれだけである。

 エイダは魔術を使えない。

 修練を重ねたところで、何かが芽吹くこともないだろう。

 育つとしても見習い程度が限界である。


 そんな彼女が魔導書ばかりを要求することを不思議に思っていた。

 才能で諦め切れない部分があり、密かに練習をしているのかと勘ぐっていた。

 もしくは魔術への憧れから、書物を収集している可能性を想定していた。


 今まであえて触れなかったが、何かやましいことがあるらしい。

 話が不穏な方向へ流れていくのを感じながら、重要な部分についてエイダに問う。


「なぜ賢者と呼ばれるようになった?」


「君から授かった魔導書を複製販売していたんだ。私が著者であると騙ってね。その評判が良すぎて五年前から賢者と呼ばれているのさ」


 エイダは打ち明ける。

 これまでに抱いた疑問が繋がり、一つの答えとして形となった。

 大きな驚きはなく、むしろ納得する。


 エイダは筋金入りの商人なのだ。

 知識を授けるこの図書館を上手く利用してきたのである。


「十年前、最初に訪れた時から販売が目的だったのか」


「そうだとも。蔵書狂ならば、世界一の魔導書を作ってくれるのではないかと思った。目論見は見事に成功したよ。いや、成功しすぎたと言えるね」


 エイダは苦笑気味に嘆く。

 開き直ったのか、もう本音を隠さなくなっていた。

 それだけの余裕も残っていないのかもしれない。


「君の魔導書は本当によく売れた。だから私は何度も来訪し、そのたびに新しい魔導書を作ってもらった。顧客の需要は理解しているから、それに沿って要求していたわけさ」


「魔導書を売るだけでは賢者と呼ばれないだろう。すぐに素性を暴かれるはずだ」


「そこは虚勢と話術で乗り切ったよ。私の得意分野だからね。人々を騙すのは大して難しくなかった」


 エイダは簡単に言ってのけるが、並大抵のことではない。

 彼女自身に魔術的な力はない。

 それにも関わらず、さも本物であるかのように振る舞うのは至難の業だろう。

 十年もの間、それを続けられたのだとすれば大したものである。

 血の滲むような努力と執念が持ってやり通したに違いない。


 遠い目をするエイダは両手を広げて語る。


「すべては順調だった。私は莫大な富と名声を得て、何も不自由のない生活を送っている。しかし、最近になって問題が起きた」


「何だ」


「魔族の動きが活発になり始めたんだよ。魔王が降臨したという噂も出ている。おかげで国家間の軍備も拡大して、緊張状態が続いている。そう遠くないうちに戦争が始まるかもしれない」


 ここまで事情を聞いて、エイダの置かれた状況が分かった。

 落ち着きなく襟元を触る彼女に言葉を投げかける。


「賢者のお前は、魔族討伐の役割を期待されているわけか」


「さすがヴィブル。察しが早くて助かるよ」


 エイダは乾いた笑いを洩らした。

 そして、彼女は椅子から立ち上がって歩き出す。


「いやぁ、参ったね。私は非力な商人だというのに、世界の命運を託されようとしているんだ。魔導書を売ったり、講義をするだけでは成り立たない世の中になってしまった」


「自業自得だろう。真実を伝えればいい」


「それができれば苦労はしないよ。金も地位も名誉も捨てたくないし、人々はきっと私を許さないと思う。期待の分だけ憎悪を向けられるね」


 本棚の前に立つエイダは堂々と言い放つ。

 あまりにも正直すぎて反論する気も起きなかった。


 別に彼女に対する怒りや失望はない。

 騙されてしまったのはこちらの洞察力が足りなかったからだ。

 そもそも授けた知識をどう使おうが自由である。

 後ろ向きな感情を覚えるほど人間性を残していない。


 だからこそ、彼女の悩みを放棄して本題に入る。


「用件を言え。偽りの賢者は魔導書以外に何を求める?」


「蔵書狂ヴィブル――君という知識のすべてが欲しい。助手として雇わせてくれないか」


 エイダは即座に答える。

 彼女の双眸は強靭な意志の力が宿っていた。

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