第29話 偽賢者の本領発揮
真剣な顔付きのエイダは、辛うじて残った人型の羊皮紙に向けて懇願する。
「ヴィブル、もう十分だ。彼女を殺さないでほしい」
「なぜだ」
「ルナを仲間にしたいからだ」
エイダの告白に驚きは少ない。
ルナを庇った時点で予想はしていた。
合理主義のエイダが温情から止めるとは考えにくく、そうなると人材の有効活用が妥当だろう。
一旦、ルナへの攻撃を止める。
ただし拘束は解かない。
また反撃に移る可能性がある以上、無力化したままにしておいた方がいい。
一つ咳払いをしたエイダは、逆さまのルナと向き合って話しかける。
「勇者の末裔ルナ。君に頼みがある」
「なに?」
「私の用心棒になってくれないか。そして、一緒に魔族と戦ってほしい」
エイダは真摯な雰囲気で持ちかける。
これまでの焦りや負傷による苦痛は微塵も感じられない。
余計な要素を排除した態度は、商人として培った話術の一環だろう。
揺るぎない信念を演出するエイダは、ルナに対して語る。
「我々は世界の平和を目指している。君も英雄の血を引くのなら、そんな偉業に興味があるのではないかな」
「うーん、別にどうでもいいや」
「ふむ」
投げやりなルナの返答を受けても、エイダが動揺することはなかった。
きっと想定内の反応だったに違いない。
エイダは間を置かずに誘い文句を紡いでいく。
「……我々に同行すれば、強者との殺し合いがたくさんできるぞ。魔王だって倒せるかもしれない」
「えっ、面白そう!」
「うんうん、そうだろう。ここで意地を張ってヴィブルに殺されるより有意義だと思うよ」
エイダは穏やかに頷く。
そこから畳みかけるようにルナの意思確認をした。
「さて、どうする? 共に修羅の道を歩もうじゃないか」
「仲間に入れてほしいけど、本当にいいの? あたしってどこでも嫌われてるから邪魔になっちゃうかもよ」
ルナが寂しげに呟く。
狂気の裏に人間らしさが垣間見えた。
彼女の経歴は定かではないが、その性格故に苦悩したことは少なくないはずだ。
人間関係に対する諦めが感じられた。
漂う不安を嗅ぎ取ったエイダは、ルナの頬に手を添えて告げる。
「私はルナの力を借りたい。君でなければ駄目なんだ」
「嘘じゃない?」
「もちろんさ。私は正直者で有名なんだ」
エイダは白々しく即答する。
その姿だけで判断すれば聖職者と言われても信じるほどだが、彼女の本質は強欲な商人だ。
偽りの賢者は、ここに来てさらなる虚構を重ねつつあった。




