第27話 現代の勇者の力
凄まじい速度で斬撃が迫る。
半身になって躱すも、僅かに胴体を切り裂かれた。
そこから踏み込んで片手を伸ばす。
一瞬でも触れれば勝敗は決するのだ。
ところがルナは器用に回避し、石を蹴り飛ばしてきた。
命中した顔面が陥没して仰け反ってしまう。
その隙を逃さず、ルナは追撃を繰り出してくる。
「やほっ」
大胆かつ精密な連撃を最小限の動きでやり過ごしていく。
人間なら肉を薄く削がれ続けているような状態だが、当然ながら羊皮紙の身体は痛みを感じない。
多少の損壊には怯まずに接触を狙う。
攻防を展開するうちに、ルナが不思議そうに首を傾げた。
「あれ、さっきよりも速くなった?」
「お前の動きを知識として記録し、それに応じた立ち回りをしているだけだ」
羊皮紙の身体はあらゆる情報を吸収する。
切られるたびにルナの力や癖を学習して、それを言語化して己の糧にできるのだ。
過去に記録した数多の戦士の動きも併用すれば、この程度の回避は容易であった。
普段はそもそも躱す必要性がないので披露しないが、論理の積み重ねによる演算戦闘術は蔵書狂の専売特許と言えよう。
「戦えば戦うほどお前の動きが読める。いずれ完璧な予測も可能になる」
「へぇ……すごいね」
感心するルナの動きが急変し、攻撃が読めなくなった。
こちらの予測を裏切り、抜け目なく短剣を振るう。
根本から切断された左腕を一瞥し、ルナが何をしたのか理解する。
(太刀筋をわざと不規則にしたのか。まるで別人と戦っているかのようだ)
思ったよりも器用なことをしてくる。
熟練の戦士ほど、積み重ねてきた技の流れや癖を変えられない。
無理に崩そうとすれば本来の実力を発揮できないだろう。
ルナはその常識を打ち破り、己の培った技術をあっさりと放棄した。
そうしなければ勝てないと確信し、無理を押し通して適応してみせたのである。
こと戦いにおいて、ルナは天性の才能を持っているようだ。
勇者の末裔であるのも納得せざるを得ない。
変幻自在の剣術で攻め立てるルナは、目を見開いて高笑いした。
彼女は徐々に加速しながら、凶暴な攻撃性を露わにしていく。
「どんどんいくよっ」
閃く短剣が次々と身体を削り取る。
知識が蓄積されない。
ルナは常に太刀筋を切り替えているようだった。
こちらの回避も踏まえて動きを変えている。
(正攻法では凌駕するのは不可能だな)
考えが甘かった。
ルナはとてつもなく強い。
人類でも最高峰の実力者である。
彼女に打ち勝つためには、手段を選んではいられない。
少々卑怯だが、強引な戦法で終結させるべきだろう。




