第26話 勇者の末裔は視る
互いに名乗り合った後、街の外へと移動する。
周囲への被害を懸念したエイダが提案し、それを少女――勇者の末裔ルナが承諾したのだ。
現在は鬱蒼とした林の中を黙々と歩いている。
ルナは短剣を回しながらついてくる。
(やけに大人しい。こちらを探っているのか)
たまに口笛を吹いているくらいで、これといった行動は起こさない。
表情からは心境を読めなかった。
ただしルナの双眸には濃密な殺気が宿っており、穏便な会話で済ませるのは難しいことを示している。
それにしても、ルナが移動の提案に従ったのはなぜなのか。
性格的に街への被害を気にするとは思えない。
単純にこちらへの興味関心が深まったからだろうか。
ただの戦闘狂ではなく頭も回るようだ。
緊迫した移動が続く中、エイダは片腕にしがみ付いていた。
力強く握り締められているせいで、羊皮紙の表面に皺が寄って破れている。
それには気付かず、エイダは小声で尋ねてくる。
「ヴィブル。彼女が勇者の末裔というのは本当なのか?」
「間違いない。あの光の刃が何よりの証拠だ。勇者の血統でなければ発現しない力だろう」
「ううむ……しかし人格がとても見合っていないと思うのだがね」
「それは同感だ」
勇者とは、かつて魔王を討伐した英雄の呼び名である。
歴史上ではその血筋の者が何度も登場しており、そのたびに偉業を成し遂げていた。
彼らは例外なく光の力を有し、その特性で魔の存在を打ち払うのだ。
ルナの短剣が帯びる光は紛れもなく勇者のそれだが、彼女の人物像はお世辞にも英雄とは呼び難いものだった。
攻撃性や好戦的な面から判断すると、むしろ魔族に近いのではないか。
実態はどうあれ、勇者の名に相応しくないのは確かだろう。
しばらくするとルナが足を止めた。
彼女は落ち葉を蹴って笑う。
「この辺りでいいんじゃない? 他の人に迷惑もかからないだろうし。早く殺し合おうよ」
「断る。我々に争う理由が存在しない」
「理由なんてどうでもいいじゃん。魔族はすぐに死んじゃったから物足りないの」
ルナは舌を見せて笑みを深める。
よく見ると舌先が蛇のように割れていた。
彼女が獣を彷彿とさせるぎらついた眼差しを向けてくる。
怯んだエイダが素早く背中に隠れる。
「勝ち目があると思っているのか」
「どうだろうねー。正直ちょっと厳しいかも。お兄さん、明らかに人じゃないもんね。いくら斬っても手応えがないし、そもそも生きてるのか怪しそう」
肩をすくめたルナは探るような視線を以て嘆く。
的確な感想だった。
あの短時間の戦いでこちらの本質に気付きつつあるらしい。
やはり並々ならぬ知性と考察力……それに鋭い勘を持ち合わせているようだ。
その上で警告をする。
「本気で殺し合えばお前は死ぬ。それでも止めないか」
「うん。ここで我慢できるほど良い子じゃないんだよね、あたし」
気楽そうにルナは答える。
その直後、彼女は前触れもなく跳びかかってきた。




