第23話 危険な少女の刃
ミノタウロスの生首が地面を転がる。
切断面から迸る鮮血が雨のように降り、少女の身体を濡らしていく。
少女は両手を広げて気持ちよさそうに血を浴びていた。
その光景を眺めるエイダは怪訝な顔付きになる。
「あれは誰だろう? 私達を助けてくれたのかな」
「まだ判断できない」
少女の佇まいを観察しながら述べる。
装備はごく普通の衣服で、短剣もあまり上等な代物ではない。
履いているのは潰れた蔦の靴だ。
総じて貧相な印象を受ける風貌である。
しかし、だからこそ異常だ。
瀕死だったとは言え、装備による恩恵を一切受けずに魔族を殺すのは困難だろう。
あの斬撃だけで少女の力の片鱗を感じざるを得ない。
(光属性を使う剣士か)
やがて血を浴び終えた少女がこちらを向く。
そして満面の笑みで手を振ってきた。
「こんにちはーっ!」
屈託のない表情にエイダの気が緩む。
一切の敵意が感じられないので尚更だろう。
砂埃を払い落としたエイダは少女のもとへ歩き出そうとする。
「元気な女の子だね。挨拶に行こうか」
「下がれ。危険だ」
「え?」
エイダが足を止めた瞬間、少女が猛然と突進してきた。
両者の間に割って入り、躊躇いなく振るわれた短剣を受ける。
刃は身体を真っ二つに切断した。
返す二撃目が四肢を切り裂く。
羊皮紙の残骸が散り、血に濡れた少女が目を輝かせた。
「へー、面白い身体だね」
「…………」
返答せずに修復した両腕を伸ばす。
ところが指先から丁寧に切り開かれて接触することができない。
触手状に分裂させて殺到させるも同じだった。
少女は巧みな短剣捌きで防いでみせる。
それどころか、合間で刺突による反撃まで見舞ってくる始末だった。
高速の攻防を展開する中、背後に立つエイダが焦った様子で名を呼ぶ。
「ヴィブル!」
「問題ない。離れていろ」
羊皮紙の一部で彼女をさらに後ろへと追いやる。
守りながら戦うのは苦手だ。
狙いをエイダに絞られた場合、護衛にも限界がある。
少女は変幻自在な斬撃で攻め立ててくる。
修復させた身体が端から破壊された。
あのミノタウロスにも劣らない……いや、攻撃速度だけなら凌駕している。
踊るように連撃を繰り出す少女は、無邪気な笑顔で話しかけてくる。
「ふふっ、余裕そうだねー」
「これで死ぬことはない」
「そう? じゃあもっと速くしちゃおうっと!」
嬉しそうに言った少女の姿が霞む。
刹那、視界が完全に暗転する。
それは器である身体が粉々に崩壊したことを意味した。




