第21話 決死の一手
ミノタウロスによる全力の光線が羊皮紙と焼き飛ばしていく。
端から一気に消滅しているのが分かる。
もし痛みを感じる肉体ならば、途方もない苦しみに苛まれていることだろう。
羊皮紙で構成された身体では推測することしかできない。
光線は放出され続けていた。
ミノタウロスはこちらが完全に死ぬまで止めないつもりらしい。
相当な負担をものともせずに放っている。
身体の修復速度を少し上げてみるも、光線の破壊速度と拮抗した。
一方、エイダがミノタウロスにしがみ付いた。
彼女は懸命に手足を動かしてよじ登る。
「さすがヴィブルだっ!」
異変に気付いたミノタウロスが目を見開く。
しかし攻撃は止めない。
エイダよりもこちらの抹殺を優先すると決めたようだ。
中途半端に光線を中断すれば、無駄に消耗するだけだと理解しているのである。
ミノタウロスの肩に掴まるエイダの片手には、霊魂の衣が巻き付けられていた。
彼女は威勢よく叫ぶと、その片手を素早く動かす。
光線に焼かれながら、薄水色の生地が口内へと押し込まれていった。
エイダは霊魂の衣を栓にするつもりなのだ。
放出直前ではなく放出中を選んだのは、ミノタウロスが後戻りできない瞬間を狙ったからだった。
ただの防具なら光線を塞ぐことはできないが、優れた防御性能を持つ霊魂の衣は最適解である。
「うおおおおおおおおぉぉぉォォォッ!」
霊魂の衣がミノタウロスが完全に詰め込まれる。
隙間から光線が漏れ出ていたが、すぐに障壁が蓋をして閉じ込めた。
エイダは霊魂の衣に水晶の魔道具を忍ばせていたのだ。
本来は防御壁として使われる機能が、光線を留める第二の栓として活用されていた。
ミノタウロスが苦悶し始める。
行き場を失った光線が暴走しつつあるのだろう。
目や鼻から光が漏れて湯気を発していた。
振り回された腕がエイダに衝突し、彼女の身体が宙を舞う。
「ぐあっ」
エイダが地面を跳ねて転がる。
次の瞬間、ミノタウロスの頭部が爆発した。
蓄積された光線の破壊力が拡散し、周囲を焼き焦がしながら巨大な火柱を上げる。
衝撃波が周囲を襲う中、身体の修復を進める。
飛んできた瓦礫や熱で羊皮紙が破れるも、このくらいならまったく問題ない。
エイダを庇う位置に立ちつつ、彼女の状態を確かめる。
「生きているか」
「うぅ……な、なんとかね……骨は折れていそうだが」
仰向けになったエイダは血を吐く。
全身が傷と痣で埋め尽くされて無事な箇所がない。
特に光線を塞ぐのに使った片手は酷い。
肘から先が半ば炭化しており、骨も見え隠れしていた。
血も蒸発したのかあまり流れていない。
脂汗を掻くエイダは、それでも弱音は吐かずに感謝を述べる。
「君のおかげで成功したよ。ありがとう」
「会話で時間稼ぎをしただけだ」
「それが重要なんだよ。君にしかできない役割さ」
エイダは噛み締めるように言う。
かつて他力本願だった彼女の横顔からは人間的な成長が窺えた。




