第15話 魔道具調達
エイダが腕を引っ張ってくる。
前方を指差す彼女は意気揚々と宣言した。
「さあ、まずは魔道具の調達に行こう。手持ちの大半が紛失や故障で使えないんだ。ヴィブルに頼らずとも自衛できるようにしないとね」
「いい心がけだ」
「君が積極的に助けてくれないと判明したからね……まったく、素晴らしい助手だよ」
エイダが少し恨めしそうに皮肉を垂れる。
魔爪の導示に襲われた時の出来事を言っているのだろう。
顔色が悪くなったので、未だに引きずっている部分があるらしい。
それほどまでに絶望的な状況だったというわけだ。
「魔道具を買う金はあるのか」
「愚問だね。図書館で自慢した功績を忘れてしまったのかな。手持ちだけでも余裕で買えるさ。あとは店の品揃えに祈るばかりだよ」
エイダは誇らしげに答える。
賢者の名声により、彼女は莫大な資産を築き上げた。
大半を別の場所に預けているが、持参しているだけでも相当な額になる。
数枚の金貨をつまみ出したエイダは、それらを弾いて掴み取る。
「ここで装備を整えて、それから最寄りの別荘に行きたいな。敵対勢力に対抗する術が必要だ。このままでは対話も満足にできやしない」
「対話での解決を試みるのか」
「私の持つ最大の武器は話術だからね。活かさない手はない。魔道具がほしいのは自衛目的もあるけど、相手を交渉のテーブルに座らせるためかな」
エイダは自身の唇に触れて言う。
確かに彼女の話術は侮れない。
何も考えずに発言しているようで、実際は端々まで計算し尽くされている。
賢者と呼ばれるようになり、人々を騙し通してきた力量からも能力の高さが分かる。
自らの首を絞めるほどの話術と言えよう。
話しているうちに魔道具の販売店に到着した。
白を基調とした清潔感のある店内には、多種多様な魔道具が所狭しと並べられている。
地方の街にしては上等な品揃えである。
入店したエイダは、さっそく視線を巡らせながら笑う。
「さて、良い品が見つかるといいのだがね」
店内にはあまり客がいなかった。
取り扱っている品が高価なので、一般市民は利用しないのだろう。
どうやらここは高級品だけを取り揃えているようだ。
大金を持つ貴族や冒険者だけを相手にする店と思われる。
陳列された品々を調べるエイダが足を止める。
彼女は薄水色の上着を手に取って喜んだ。
「おお! 霊魂の衣があるじゃないか。ヴィブルは知っているかい?」
「着用者の魂を修復する装備だ。魔術に対する防御性能も高く、魂魄を破壊する攻撃に耐性がある。使い捨ての防具としては最高峰だろう」
そう答えると、エイダが指を鳴らして反応する。
彼女は大げさな仕草と共に述べる。
「さすが蔵書狂。模範的な答えだね。しかし君は大事な要素を説明し忘れている」
「何だ」
「それはね……」
もったいぶるエイダは、霊魂の衣を羽織って優雅に佇む。
少し間を置いて、彼女は高らかに言った。
「この装備がとても美しく、私に似合うということさっ!」
「そうか」
店内に静寂が訪れる。
こちらの反応がないことにエイダは肩を落とす。
以降、彼女は大人しく装備を選び始めた。