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第12話 災難はまだ続く

 代表の男から抜き取った知識を精査し、魔爪の導示の組織構造を把握する。

 様々な陰謀や計画を知り、開発中の兵器や魔術についても判明した。

 この男から抜き取れた情報は断片的だが十分な収穫である。


 魔爪の導示は賢者エイダの暗殺を本格化させるつもりのようだ。

 最も優先して排除すべき標的と見なしている。

 実情を知る身からすると勘違いもいいところなのだが、それだけエイダの擬態が上手い証拠だろう。

 十年で積み重ねた嘘と実績が仇となっていた。

 仮に真実を打ち明けても、魔爪の導示が暗殺を止める可能性は低い。


(厄介な勢力に目を付けられているようだ)


 すべては自業自得である。

 そもそも魔導書の著者だと嘘をつかなければ、このようなことにはならなかった。

 引き返す機会は何度もあったはずだ。

 それを私欲で逃したのはエイダの責任と言う他ない。


 とは言え、蔵書狂に縋り付くのも納得の状況だ。

 エイダ自身から聞いた話だけではなく、こうして実際に襲撃を受けてみるとよく分かる。

 いつ死んでもおかしくないほどに過酷で、もはや安息の地が存在しなかった。

 本当に賢者に値する実力があれば打破できるが、生憎とエイダは無力な一般人だ。

 翻弄されるままに身を守るので精一杯だった。


 そういったことを考えながら前方を見やる。

 短剣使いの男が、エイダの首筋に刃を添えていた。

 男は血走った目で怒鳴り付けてくる。


「おい! 賢者がどうなってもいいのかっ!」


「人質か。好きにしろ」


「ヴィブル!? 私を見捨てないでくれ!」


 エイダが悲痛な叫びを上げた。

 あの様子だと、さすがの彼女も打つ手がないらしい。

 少しでも動けば短剣が首を切り裂くだろう。

 まさに絶体絶命だ。


 一方で男も窮地に立たされている。

 仲間が次々と惨殺されて、生きている者も逃げてしまったのだ。

 そうして取り残された状態で自分の番が迫っている。

 生き残るには人質を取って優勢を保つしかないと判断するのも至極真っ当であった。


 双方の心境を読み取った上で男に告げる。


「警告しておくが、彼女を傷付けた時点でお前の人生は終わる。死を超越した苦痛を存分に味わうことになる。それでもいいなら殺してみろ」


「うぐ……」


「このまま退散するなら追撃はしない。どうする」


 重ねて尋ねると、男は飛び退いてエイダから離れた。

 そして全力疾走で走り去っていく。

 宣言通り攻撃は仕掛けない。

 殺したところで大した利点はなく、見逃しても状況は悪化しない。

 率先して命を奪いたいわけでもないため、これくらいがちょうどいいだろう。


 解放されたエイダは土を払いながら立ち上がった。

 彼女は刃の当たっていた首筋を撫でて愚痴をこぼす。


「とてつもなく強いじゃないか。戦闘は期待するなと言っていたのに」


「今のは戦いではない。知識のやり取りをしただけだ」


「それで死者が出ているがね」


「どんな技術でも、使い方を変えれば凶器になる」


「ううむ、確かにそうだけど……」


 エイダは腕組みをして唸るも、それ以上は文句を言わなかった。

 彼女も助けられて命拾いした自覚があるらしい。

 そして今回は切り抜けられたが、安心することはできない。

 今後、こういった問題はさらに過激化していくだろう。

 賢者を騙る彼女に平穏が訪れるのは、まだ先のことになりそうだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >賢者を騙る彼女に平穏が訪れるのは、まだ先のことになりそうだ。 モノローグでは何だかんだ言いつつも、まだ見捨てる気は無さそうだね。 ヴィブルに幾ばくかの慈…
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