第111話 望みを伝える
エイダは最良の王となった。
脈々と受け継がれてきた血統を否定し、その実力ですべてを黙らせてきた。
長い歴史を紐解いても異例の事態である。
反乱と呼ぶには事情が複雑だ。
彼女は世界のために王となり、あらゆる危険を背負って時代を築き上げた。
その覚悟と頭脳は人類最高峰と称しても過言ではない。
如何なる表現も陳腐になるほどの偉業をエイダは成し遂げた。
彼女の最たる能力は、記憶力と観察眼に尽きる。
それらが織り成す話術に至っては、悪魔すらも凌駕してみせた。
力を持たないエイダが大成したのは、自身の才覚とその限界を正確に見極めていたからだ。
過大評価しないために慎重で、過小評価しないために大胆なのである。
そんな彼女には隠し事もできない。
分かり切っていたことだ。
素直に打ち明けるためにこうして話をしに来た。
故に思考に区切りを付けて、単刀直入に告白する。
「もうじき契約から三年が経つ。しかし、どうすればいいか分からない」
「逡巡しているのか。君らしくもない」
エイダは苦笑する。
彼女はあまり深刻視していないようだ。
もしかすると、こういった悩みがあることを察していたのかもしれない。
エイダならばありえることだ。
彼女は玉座に腰かけたまま微笑んでみせる。
「好きにするといい。私は束縛しないよ。今まで数え切れないほどに助けてもらったからね。これ以上、私から望みを押し付けることはない」
「…………」
「自分がどうしたいか考えてみたまえ。蔵書狂としてではない。己の想いを優先することだ」
エイダが真剣な目をしていた。
それ以上は何も言わず、こちらの答えを待っている。
だから、彼女の前に立って堂々と告げた。
「賢者の行く末を……お前とルナの人生を記録したい」
「素晴らしい。では今後もよろしく頼むよ。君は最高の助手だ」
「助手の立場は継続なのか」
「不満なら変えてもいいよ。相棒でも師匠でも恋人でも好きなものを選びたまえ」
エイダは得意げに提案してくる。
その表情が癪に障ったので、少しばかり反撃することにした。
「……恋人以外なら何でもいい」
「ほほう、良い度胸だね。こんなに美人な王を放っておくなんて贅沢じゃないか」
エイダが脛を何度も蹴り、長々と説教を始めた。
意地になった姿はとても国王とは思えない。
この辺りは初めて出会った商人の頃から変わっていなかった。