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第109話 人間と何か

 日暮れが迫る時間となり、ルナが書物を閉じて勉強を終える。

 伸びをした彼女は、こちらを無言で見つめてきた。

 何かを訊こうか悩んでいるようだ。

 やがてルナは意を決して切り出す。


「ねえ、ヴィブル」


「何だ」


「もうすぐいなくなっちゃうの?」


 それは唐突な問いかけだった。

 ルナが何を知りたいのかは分かったが、あえて踏み込まずに応じる。


「どういうことだ」


「エイダちゃんとの契約期限が近いんでしょ」


「聞いたのか」


「うん。三年の約束だったって」


 エイダの助手になるという契約には時間的な制約があった。

 契約解除まであと二週間程度しか残っていない。

 その時点で、彼女との繋がりが切れる。

 順当に考えるならば、迷いの森の図書館に戻るべきであろう。


「ヴィブルはいなくなるの?」


「…………」


 ルナからの質問に答えられない。

 様々な考えが交錯し、それ以上の言葉を続けられずにいた。

 我ながら珍しい。

 このようなことは滅多になかった。

 明快な答えがあるにも関わらず、それを躊躇して言い淀んでいる。


 こちらの心境を見抜いたのか、ルナは核心を突いてきた。


「迷ってるんでしょ。エイダちゃんと仲良くなりすぎたから」


「……そうだな。結論はまだ出ていない。いや、本来の結論を押し退けて別の考えが生まれたと言うべきか」


 本音を吐露する。

 もはや隠す意味もないと思ったのだ。

 ルナは意外にも聡い。

 相手を見る力を持っている。

 誤魔化したところで格好の悪い姿を晒すだけだった。


「心とは厄介だ。繋がりを深めると判断力が鈍る。最適解を選べなくなるどころか、情に流されてしまう。由々しき状態だ」


「それが人間の良さじゃないかな」


「人間ならばそうだろう。しかし、この身は知識欲の化身だ。同じ尺度で語ることはできない」


 反論した直後、ルナが椅子から立ち上がった。

 彼女が手を伸ばして触れてくる。

 指先が頬から胸部へと伝うように撫でていった。

 ルナは上目遣いに断言する。


「ヴィブルだって元は人間でしょ」


「今は違う」


「それでも心は人間のままなんだよ、きっと」


 ルナは譲ろうとしなかった。

 根拠のない言葉が自然と馴染むのを感じる。


「そういうものか」


「うん。あたしだって殺人鬼から成長したからね。ヴィブルもまだ成長途中なんだよ」


 自虐を踏まえてルナは笑う。

 議論の気も起きず、ただ彼女に頷くしかなかった。

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