第104話 新たな陰謀
エイダがしつこいので話を戻すことにした。
彼女の口を羊皮紙で塞ぎながら忠告する。
「代理とは言え、お前はこの国の王だ。分かっていると思うが、これまでとは責任の重さが違う。些細な失敗が大きな犠牲を出しかねない。その覚悟をゆめゆめ忘れないことだ」
「あまり脅かさないでくれよ……まあ、不味い状況になったら助けてもらうとするさ」
羊皮紙を剥がしたエイダは飄々と言う。
冗談めかして言う姿は自然体だ。
柔軟な思考を持ち、その過程に固執しない。
彼女は自分の力の限界を理解しており、無理をせず他者に頼ることができる。
元より他力本願な一面があったが、精神的な成長を経てそれが長所になったようだ。
(良い精神状態だ。執政者に相応しい心構えだろう)
愚痴は文句は多いものの、進むべき道を知っている。
その行動に迷いがない。
故に判断力に秀でており、半年間もの国王代理を順当にこなしてきた。
王族でもない人間がその座を奪ったのだから、今の状況は紛うことなき反逆である。
それでもこうして危うい均衡ながらも成立していることが、エイダの力量を何よりも示していた。
彼女が民衆の心理操作を重視したからこそ、現在の状況を維持できているのだ。
商人と賢者という経歴が活きているのは言うまでもない。
今後の方針について話し合っていると、謁見の間の扉が開いた。
現れたのはルナだった。
「エイダちゃーん、戻ったよー」
彼女は二つの死体を引きずっている。
どちらも首と胸を切り裂かれており、流れ出る血が床に痕跡を作っていた。
廊下から悲鳴が聞こえたので、後で説明をしなければならないだろう。
その凄惨な光景にも動揺せず、エイダはいつも通りの調子で対応する。
「おかえり。随分と大きな荷物だね」
「うん。お城に侵入していた暗殺者だよ。生け捕りにしたかったけど失敗しちゃった」
ルナは申し訳なさそうに報告する。
エイダは笑顔で慰めた。
「大丈夫さ。我々にはヴィブルがいるからね!」
「ほんとだ!」
二人が同時にこちらを見た。
期待を込めた眼差しだ。
エイダは肩を叩いてから親指を立てる。
「さあ、頼むよ」
「…………」
人間の身体ならば嘆息したい気分だが、役割として適切であるのも事実である。
仕方なくルナの運んできた死体に接触し、残された記録を抜き取った。
そうして得た情報を伝える。
「大陸外の国がお前を狙っている。悪魔の力を奪った賢者だと認識しているようだ」
「はっはっは、それはまた大胆な解釈だねぇ」
「笑い事ではない。しばらくは身を隠すべきだと思うが」
「何を言っているのだね。私は国王代理を続けるよ。つまらない陰謀に怯える暇はないからね」
状況の悪化を知りながらも、エイダは余裕綽々だった。
むしろ楽しんでいる節がある。
なかなかに不敵な王になってきたようだ。