第101話 後始末
その後、目覚めたエイダは王都を掌握した。
滞在していた貴族を脅迫し、瞬く間に城内を制圧してみせたのだ。
ルナの暴力にも頼った強硬策を採り、王国の実質的な支配者として君臨する。
かなり大胆な展開だが、これには理由がある。
諸々の問題に備えて早急に地盤固めをしておきたかったのだ。
エイダは国の行く末を予測し、誰よりも力を尽くして舵取りを行おうとしていた。
諸悪の根源である国王は死んだ。
しかし、その影響力は未だ健在である。
魔爪の導示は各地に潜み、次なる一手を打とうとしていた。
統率を失ったことで、さらなる混沌へと向かう恐れもあり、むしろ危険な状況となっている。
不安定な魔族や魔人が何をしでかすか分かったものではない。
それを正確に理解していたエイダは、迅速な動きで対策を張った。
まずは情報操作だ。
国王の悪事を民衆に広めることで、彼女が権力者となることを肯定されるように仕向けた。
闇の賢者としての悪評もすべて捏造であると表明した。
今のところは半信半疑ではあるものの、民衆はその事実を受け入れつつある。
情報操作のついでに大量の金をばら撒いた上、減税を発表したのも大きいだろう。
分かりやすく媚びることで、肝心の内容を有耶無耶にしたのであった。
後になって反動が来るかもしれないが、エイダは即時的な効果を優先した。
この判断が功を奏し、エイダが国王代理として働くことは認められた。
ちなみに国王の正体については隠したままだ。
混乱が大きくなりすぎる懸念から、元魔王であることは伏せたままにすべきだと考えたのである。
そのため悪事については魔族側と癒着したという形で発表している。
数々の証拠も挙げたので信憑性は低くないはずだ。
怒涛の展開に民衆は困惑している。
半ば強引に権力者となったエイダに関して、各地では称賛と抗議が噴出していた。
ひとまずは認めたものの、それを肯定的に受け取るかは別の話である。
特に国王に忠誠を誓っていた者や、利害が一致していた者の反発は大きい。
既に何度か暗殺者が派遣されており、それをルナが食い止めている状態だった。
世界は表も裏も騒がしく、しばらくは落ち着きそうにない。
ただ危うい状況とは言え、本格的な争いに発展せずに済んでいるのはエイダの手腕によるところが大きいだろう。
そして現在、彼女は王城の一室で書類仕事に追われている。
「ううむ……この作業量はそろそろ過労死しそうだね。早く解放されたいな」
「お前が招いた状況だ。責任を持て」
嘆くエイダを叱る。
彼女は深々とため息を吐いた。
「ヴィブルは相変わらず厳しいね。もっと優しくしてくれてもいいのだよ? 何と言っても私は国を救った偉人だからね」
「冗談は後にしろ。手伝うのを止めてもいいのか」
「ま、待ってくれよ。君の処理能力がないと、いよいよ破綻してしまうのだから……」
エイダは弱々しい声で懇願してきた。
しがみ付いてくるのが鬱陶しいので引き剥がしておく。
各地への根回しや新たな契約、命令書……さらには敵対勢力への牽制と、諸外国に向けた文書も作らねばならない。
やるべきことは山積みだ。
呑気に休んでいる暇はない。
悪を倒して万事解決するほど甘い世の中ではないのだ。
賢者エイダに平穏はまだ訪れそうになかった。