表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/115

第100話 救世の賢者

 国王は砂の塊となり、玉座の下に積もっている。

 顔の一部がまだ原形を残しているものの、完全に形を失うのは時間の問題だろう。

 もはやここから再起するのは不可能である。


 虚ろな表情の国王は、唇を動かして発声する。


「儂は……な、ぜ……世……か、い……を」


「元魔王の上位存在が、ただの人間と一騎打ちになった時点で駄目なのだよ。事実上の敗北だ。君もそれを理解したからこそ、こうして崩れ去っているのだろうが」


 エイダは毅然とした口調で語る。


 彼女の指摘は的を射ていた。

 国王は強大な能力を有している。

 本来なら何の滞りもなく計画を進められたはずだった。

 多少の驕りはあれど、これといった失敗もしておらず、ほぼ完璧に根回しを行ってきた。


 それにも関わらず、野望を阻止されようとしている。

 エイダの悪運と執念がたぐり寄せた結果だ。

 綱渡りにも等しい戦いばかりだが、彼女は決戦まで辿り着いたのである。

 両者の精神的な優劣には大きな隔たりがあった。


 エイダは国王に告げる。


「王国は私に任せたまえ。悪魔の時代はもう終わりだよ」


 返答はない。

 そこにあるのは砂の山のみだった。


 国王は死んだ。

 肉体も魂も自我も霧散し、存在が消えたのだった。

 あらゆる記録が潰えており、もはや拾い上げることはできそうにない。


 謁見の間に色が戻り始める。

 役目を果たしたことで術が解除されたのだ。


 エイダの持つ魔導書は塵となって消える。

 元より使い捨ての術だったのだ。

 あまりにも強大な力であり、恒常的に保持できる代物ではない。

 こちらから一時的に貸しただけに過ぎなかった。

 どれだけの代償を払ったとしても、常人が扱うにはこれが限度だった。

 むしろ破格とも言えよう。


 エイダは脱力し、悠然とした雰囲気を崩して微笑する。


「ふう、これで一件落着か」


 その途端、エイダが仰向けに倒れた。

 血相を変えたルナが駆け寄って抱き起こす。


「エイダちゃんっ」


「すまないね……ちょっと気が抜けてしまった。疲れただけだから問題ないさ」


 エイダは達成感に満ちた顔だった。

 無茶をして憔悴しているのに、晴れやかな笑みを湛えている。


「どうだい、やり遂げたよ……私は……」


「それ以上は喋るな。後で聞かせてもらう。今はとにかく休め」


「ふふ、優しいね……」


「当然の判断をしたまでだ」


 淡々と応じる中、エイダは目を閉じて気絶した。

 緊張の糸が切れたのだろう。

 さすがの彼女も限界だったらしい。


 ルナがエイダを軽々と担ぐと、空席となった玉座に座らせる。

 ぐったりとした姿勢だがずり落ちずに済んでいる。

 こうして偽りの賢者は、悪魔を打倒して真の英雄に至ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 第100話到達、おめでとうございます! >こうして偽りの賢者は、悪魔を打倒して真の英雄に至ったのであった。 第100話に相応しいラストだと思います。 [一言] 続きを静かに待ちます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ