表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/38

嫌いって言ってたよね?

 学校をサボって天満さんと一緒に遊んだ金曜日の夜。




 何をしても楽しそうにする彼女との外出は、新鮮で楽しかった。




 ただ、家に帰ってくると、どうしても隣家の幼馴染を思い出してしまうので、ヘッドホンで音楽をかけて、撮影した写真を見て過ごした。




 僕のスマホに入っている一番古い写真は、天満さんから受け取ったプリントの写真だ。




 それ以前の写真はもうない。




 叔母の結婚式の写真とか、修学旅行の写真とか、もう全部いらないので処分した。




「優太っ! 聞いてるの!?」




 突然、母親の声がしてビックリする。




 ヘッドホンを外して、




「な、なに?」




「隣の真理ちゃんが来てるのよ。ほら、急いで!」




「え? なんで?」




「別におかしな事じゃないでしょ! ほら! 早く!」




 そうだ。




 おかしな事なんて無い。




 昼間に送ったお別れメールの事で来たんだろう。




 僕と真理は10年来の付き合いだ。




 あんなメール一通でお別れ出来るとは思っていなかった。




 僕は深呼吸をして、一階に降りると、玄関口に真理が立っていた。




「あ、優太君。昼間のメールの事なんだけどさ……」




「ごめん風邪に罹患し悪寒発熱倦怠感がすごくて熱も40度ある。じゃ」




「え。それ大丈……」




 僕は、真理の返事も聞かずに二階に逃げ戻った。




 翌日の夜。




 増えた天満さんの写真を一枚目から丁寧に見直していた。




 彼女はことあるごとに「ここで撮って撮って」と写真に撮られたがる。




 そして、どの写真を見ても笑顔であふれている。




 綺麗だな。




 そういえば、ショッピングモールで天満さんはちょくちょく声をかけられていた。




 よく道を聞かれるんだよね。と言っていたけれど、なぜ一緒に写真を撮っていたのかまでは説明がなかった。




 あれは、なんだったんだろうか。




「ゆうたーっ!! 今日も真理ちゃん来てくれたわよーっ! 早く降りてきなさーい!!」




「……」




 ゆっくりと階段を降りる。




「優太君。風邪の調子どう? これ……」




「悪い」




 僕はそれだけ言うと、再び階段を昇って逃げた。




 日曜日の夜。




「ゆうたーっ! 降りてきなさーい!」




 僕が一階のキッチンでご飯を食べているとき、母親が二階に向かって叫んでいた。




 うちに地下室はないので、さらに降りるのは無理だ。




「ゆうたっ!? 聞いてるの!? あらっ!? いないわね!? どこに行ったのかしら!?」




 すぐに一階に降りて僕を見つけた母親は、




「あら、優太。まだご飯食べてたの? 真理ちゃん来てるわよ。毎日毎日、お熱いわねっ」




 母親は「真理ちゃんが優太の奥さんになってくれたらいいのにね」といって真理を困らせていた。




 そういう所も、真理が僕を嫌いになった要因の一つかもしれない。




 僕はご飯をおいて、玄関に向かった。




「今日は何?」




 できる限り冷たい声をだした。




「風邪は大丈夫?」




「まだ本調子じゃない」




 たぶん永遠に本調子に戻ることはない。




「そうなんだ。無理しないでね。あと、金曜日のメールのことなんだけど……」




「話すことは無いよ」




「え? なんで? だって急すぎるよ。なんで急にあんな事いうの?」




「母親が聞き耳立ててる」




「……」




 本当はわかんないけど。




「とにかくもう寝るから。熱が上がってきた」




 僕は自分の部屋に戻った。




 残ったご飯を食べる気にはなれなかった。




 次の日も、




「優太君。ちょっといいかな?」




「具合まだわるいから」




 逃げた。




「優太君。このケーキ食べたがってたよね?」




「風邪を引いてる人間にそんなもの食べさせるの?」




 逃げた。




「風邪長引いてるね。一緒に病院行こう」




「ほっといてくれ」




 僕は逃げ続けた。




 もうほっといてくれ。嫌いなんじゃなかったのかよ。




「優太君、おはよう。風邪の調子はどう?」




「お帰り優太君。おばさんに言って部屋にあげてもらっちゃった」




「おはよう」「おかえり」「おはよう」「こんばんは」「おはよう」




 もう、気が狂いそうだった。




 お前が浮気してたからだよ。その一言が言えなかった。




「別れよう」




「嫌だ」




「どうして?」




「わからないのは私だよ。なんで? 告白してきたのは優太君だよね?」




「もう二年も前のことだよ」




「まだ一年半」




 もうどうでもいい。




「私は絶対認めないから」




 その後も彼女は毎日家に来た。




 僕はもう限界だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ