bungee
待って。
何の準備もできてないよ。
「うっわああああああああ!!!」
僕は落ちた。
上から下に。
下から上に。
その後はもう覚えていない。
ぐるぐる回って死んだと思った。
「あはは! 楽しかったですねー!」
「……いま、あまり話しかけないでほしい」
ぐったりしていると、いつの間にか彼女はいなくなって、それからしばらくして戻って来た。
「これ写真です。どうぞ」
僕が凄い顔で落ちている写真だ。
「酷い顔……」
「私の写真はこっちです」
落ちながらも、明らかに余裕を感じる笑顔で笑っている写真だった。
「交換しましょう。こっちが私、こっちが桜田さんです」
「いや僕は……」
彼女がいるからと言おうと思ったが……まあ、いいや。どうでも。
「……貰うよ」
「それじゃあご飯食べに行きましょうよ。何食べたいですか?」
「食欲ないよ」
「失恋は辛いですけど、少しは食べないと」
「食欲が無いのはバンジージャンプのせいだよ」
「あ、アドレス交換しましょうよ。IM使ってますか?」
「え、うん」
「コード出せます?」
「たぶん……」
使っているとは言ったものの、ほとんど開いたことがない。
四苦八苦してコードを表示。
アドレスを交換した。
浴衣を来た彼女のアイコンが追加される。
「たくさん連絡しましょうね。暇にはさせませんよ」
「……なんで」
こんなにしてくれんだろうか。
ありがとう。
そう伝えようと思ったのに、言葉が出てこなかった。
出てくるのは情けない嗚咽ばかりだ。
周りに人もいるのに、連れが子供みたいに泣いてしまって彼女はさぞ迷惑してるだろう。
「……ごめん」
「気にすることないですよ。泣くことも、逃げることも恥じゃありません」
彼女はそう言って、優しく抱きしめてくれた。
しばらくして落ち着くと、激辛料理の店に連れていかれ、あまりの辛さにまた泣いた。
「今日は楽しかったです」
「こちらこそありがとう」
地面を見ながらお礼を言った。
僕の体はすでに限界を超えていた。
「明日は朝9時に神楽駅前に集合でいいですか?」
「え?」
明日は金曜日だ。普通に学校もある。
「夜の話?」
「いえ。朝9時です」
「学校あるよね?」
「あの二人はクラスメイトなんですよね? 明日、普通に学校にいけますか?」
「それは行くしかないよ」
二人がキスしているような姿勢だったのを思い出して、首を横に振って忘れようとしたがうまくいかなかった。
「あの二人は、私たちが今日見ていた事を知らないんです。きっと普通に話しかけてきますよ」
「それは……」
まるで地獄だ。
「耐えられますか? 笑顔でいられますか?」
「……」
「遊びましょうよ。桜田さん。明日から三日間。なんなら一ヶ月ぐらい二人でずる休みしちゃいましょう」
「それは休みすぎだよ」
「ふふっ。ちょっと笑った」
笑ってただろうか。
「でも天満さんに悪いよ。僕なら大丈夫だから」
「いーえ駄目です。神楽駅の前に必ず来てくださいね」
「……はい」
「それじゃ、おやすみなさい」
彼女は優しくハグをして、それから帰っていった。