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謎の手紙

以前投稿しておりましたが、カクヨム様でも投稿しており、管理しきれずに削除いたしました。

カクヨム様のほうでは第二部まで進んでおりますので、まとめて第一部を投稿したいと思います。

1時間ごとに更新いたします。





 廃部になった野球部の元部室。


 僕は一通の手紙で呼び出されていた。


『あなたの彼女が浮気をしています。放課後、使われていない元野球部の部室で隠れて待っていてください』


 差出人は空欄だった。


 彼女が浮気なんてするとも思えなかったが、こうもハッキリ書かれていると、何があるのだろうかと逆に気になった。


 掃除用ロッカーに隠れてすでに30分が経過していた。


 ロッカーののぞき穴から部屋の中を覗くが、誰も入ってきた形跡はない。


 もしかすると、誰かにからかわれただけなのかも。


 それならそれでいい。


 そう思い始めたその時、使われていない元野球部の部室の扉がガラリと開いた。


 人だ。


 ぎぃ、ぎぃ、と板張りの床を歩く音が聞こえる。


 足音は2人? いや1人だ。


 僕は息を殺し、掃除用ロッカーの中で、身動きせずに待っていると、


「この辺にいるはずなんだけどな。すみません。こちらに桜田優太さんがいらっしゃるとお聞きしたのですが、桜田優太さんはいらっしゃいませんか?」


 女子の声。


 しかも僕の名前を呼んだ。


 どうして僕がここにいることを知っているのか。


 手紙の差出人?


 いや、聞いたと言っているってことは、手紙を書いた人ではない。


「桜田優太さーんっ!? いますよねーっ!?」


 急に大声をだしはじめた。


思わず外に飛び出す。


「ちょっ……大きな声出さないで下さい!」


「あ、こんにちは。桜田優太さんですか?」


 うちの学校の制服を着た女子だった。


 緩やかなウェイブのかかった明るい色の髪が、肩甲骨の辺りで跳ねていて、活発的な印象のある少女だった。


 見覚えはなかった。


「そうですけど。何か?」


「いま、少しお時間良いですか?」


「もしかして、あの手紙の件ですか?」


 僕は、口にたまった唾液をゴクリと飲み込んだ。


「先日、風邪でお休みになった時にプリントを届けるのを忘れておりましたので、お届けに参りました」


「え?」


「ですから、先日、風邪でお休みに……」


「聞こえてましたから。二回言わなくても大丈夫です」


「では、これがそのプリントなのでお受け取りください」


 そう言って胸の谷間から封筒を取り出した。


 どこから取り出しているんだよ。


「僕、今、かなり忙しいんですよ」


「すみません。かくれんぼの最中に」


「かくれんぼじゃないです。探してる人いなかったでしょ?」


「あえて言えば私が探していましたが。では何をされていたんですか?」


「ごめん。実はけっこう深刻な事態かもしれなくて、悪いけど帰って貰えないかな?」


「わかりました。では後ほど伺いますね」


「すみません。助かります」


「いいですよ。気にしないでください」


「はい。それじゃ」


「誰か来た! 隠れてっ!」


「痛ぇ!」


 彼女は、僕を突き飛ばすように掃除ロッカーに押し込んだ。


 体がドンッとロッカーにぶつかった後、反動で戻ろうとした僕の体を二回、三回と彼女は押して押して奥へ奥へと押し込んだ。


 力が強い。彼女の力が強くて体がロッカーの形になったと思う。


 それほど広くないロッカーに、僕は彼女とギュウギュウ詰めの状態になった。


 置いてあったバケツがを避けた彼女の足が僕の足の下に入り、外から見たらまるで抱きしめ合っているように見えだろう。

 

 だがその実、彼女の大きな胸をガードしている肘が僕の体に食い込んでいて痛い。


「痛い……ちょっと痛いんですけ……」


「しっ! 静かに……」


 よくよく考えると、彼女が隠れる必要は全くなくて、何してるんだコイツと思いながら息を潜めた。


聞こえ始めたのは。


 男女の話し声だった。


 板張りの床を歩く音と一緒に、声は徐々に大きくなって聞こえやすくなってきた。


 女の方は深刻そうに、男の方は気楽な感じで喋っているようだった。


「それで? こんな所に連れてきて何の用だよ。もしかしてさせてくれるのか?」


「後でね。それより最近、優太君の様子がおかしいんだけど、達也、何かした?」


「は? 別にしてねえよ。俺に何もするなっていったのは真理だろ?」


「まあそうなんだけど。様子がおかしいんだよね」


 僕の心臓は今や張り裂けそうだった。


間違いない。


 僕の彼女と親友だ。


 2人は普段、名字で呼び合っている「木下」「一橋君」と。


 だが今はどうだ。「真理」「達也」と親しげに名前を呼び合っている。


「様子がおかしい? 優太の様子がおかしいのは前からだろ?」


 馬鹿にしたようなニュアンスで、僕の親友、一橋達也が言った。


 一橋は前に言っていた『優太はいいよな。あんな可愛い彼女がいて。お前の彼女、俺とは喋ってもくれないんだぜ』って。


普通に喋ってるじゃないか。しかも名前を呼び合って。


頭が沸騰しておかしくなりそうだった。


「そろそろ潮時なんじゃねえの。お前、優太につきまとわれて迷惑だって言っててじゃねえか。よくここまで我慢したよ」


「彼氏っていうか犬みたいなの」


「ははっ。犬ってお前。ひどすぎるだろ」


「達也だってそうでしょ?」


「あいつの小動物みたいな顔見てるとイジメてやりたく……」


 突然、声が聞こえなった。


 目の前の彼女が、僕の耳を優しく包み込むように塞いでいる。


 彼女は、僕をまっすぐに見つめながら、


「桜田さん。私を見ててください。私の声だけ聞いていてください。あんなものは聞く必要がないくだらないものです」


 いや待ってくれ。


 僕は聞かないといけない。


 僕は、あいつらの会話を最後まで聞かないと。


「……ダメです。ダメですって」


 僕の耳を塞いでいる彼女の手を振りほどいて、僕は顔を動かした。


 動きすぎるとロッカーが開いてしまうかもしれない。


 でもそれでもいい。


 もう、どうなってもいいから話の内容を確認したかった。


 ロッカーにあいた小さな穴から2人が見えた。


 一橋が真理に迫っていた。まさか、キスしてる?


「なあ真理。そろそろいいだろ? シてくれよ?」


「じゃあこっち来て」


 シてくれ? シてくれって何だよ。


 何をするつもりだよ。


 僕なんて、まだキスもしていないのに。


 突然、ぐいっとと引っ張られたかと思うと、口の中に温かいもの入ってきた。


「ん、んむ……」


 僕は、狭いロッカーの中で、ネクタイを引っ張られて、唇で口を塞がれていた。


 ……。


 驚きとショックで動けなかった。



 ロッカー内の酸素が不足気味になり、頭がクラクラとし始めた頃、


「もう行ったみたいですね」


 ようやく彼女が離れてくれた。


 

 酸素が欲しい。


 僕はロッカーを開けると、そのまま床に座り込んだ。



― 



 ブルブルブル……ブルブルブル……ブルブルブル。


 僕はまだ元野球部の部室で板張りの床に座り込んでいた。


 ブルブルブル……ブルブルブル……ブルブルブル。


 先ほどからずっとスマホが振動している。


 着信は【木下真理】


 僕の彼女だった人の名前だ。


 あんなのを見た後では、とても彼女からの電話になんてでる気持ちにはなれない。



 彼女は、幼い頃から家が隣で幼馴染みだった。


 何度目かの告白が成功して、僕は浮かれていた。


 お互い心が通じ合っていると思っていた。


 でも幻想だった。僕の妄想だった。


 彼女の気持ちは別の所にあった。


「……ごめんな」


「謝ることはないですよ」


 彼女は僕の手を取って、ギュッと握りしめた。


「え……?」


 何でまだいるんだ。


「こういう時、人は2つの行動に出がちです、相手にめちゃくちゃに復讐してやろうとするか、自分を責めて苦しむか。あなたは後者なんですね」


 彼女は、僕と同じように掃除のされていない汚い床にしゃがみこんでいた。


「服、汚れるよ」


「洗えば良いだけですよ。もう少しここでゆっくりしましょうか。あなたが自分の足で立ち上がれるようになるまでは、私はずっとそばにいます」


 どうしてそこまで……いや、どうでもいいか。


「……」


 しばらく沈黙が続いたが、嫌な沈黙じゃなかった。


 彼女はただ、黙って微笑んでいてくれた。


「……そういえば、名前……」


 僕は彼女の名前を知らないことに気付いた。


「私ですか? 私は梨花。天満梨花です。さ、行きましょうか」


「え、行くってどこに?」


「遊びに行くんですよ」


 いや、あんまりそんな気分じゃないんだけどな。


 でもまあいいか。


 どうせ帰っても塞ぎ込むだけだ。


 僕は彼女に優しくてをひかれ、ゆっくりと歩いていった。


 握られた手の温かみだけが、僕の気持ちをここにつなぎ止めている。


 油断すると何かが戻ってこれなくなりそうだった。


 普段は気になる人の視線が全然気にならない。


 梯子のようなものを登らされて、少しだけ広い場所に立たされた。


「ではここからは一緒に行けませんが、係員の指示に従って頑張ってください」


「?」


 係員が僕の手を引いて、ロープや金具を僕の体に巻いた。


「3,2,1、バンジー! の声で飛んでくださいね。心の準備は良いですか?」


 係員が僕に心の準備を聞いてきた。






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