星が恐ろしいのは
時計が四つ鐘を鳴らしました。
私はその夜も、自室の机で物書きをしておりました。
その夜は、何故かやたらと星が流れておりまして、幻想的な反面、気持ち悪くもありました。
又密かに、その星の一つが、私の部屋を直撃してしまわないかと胸騒ぎもしていたのです。
けれどもそんなことは遂になく、時計は五つ鐘を鳴らしました。
窓を開けてみますと、星はもう一つも流れておりません。皆一様に闇に散らばっているだけでございました。
ふと表の通りを見てみますと、一人の男が、黒い外套を着て立っておりました。日が遂に昇るかという薄明かりの中で、じっと、空を見上げているのです。
もしかすると、星が流れていたあの時から、そこに居たのかもしれません。
そこで、私は、不思議に思いました。
男は、格好に似合わず、右手に網を持っていたのです。
今は冬ですので、虫を捕まえるにしましても、まだ皆寝静まっておりますし、魚が泳ぐような水場も、この辺りにはありません。
では彼は、何を捕まえようと言うのでしょうか。
私の脳裏を掠めたその予感は、私をぎょっとさせました……。
あ。
と、私は、そして彼は、思わず声を漏らしました。
星が、地面目掛けて流れ落ちて来ます。
なんと、男は網を握り直すと、その星を捕まえんと振りかぶったのでございます。
しかし、上手く距離を測れなかったのでしょう、振りかぶった後で、男の額を、星が直撃しました。
がん、という鈍い残響が、未だ私の耳に残っております。
私は声を失って、倒れた男を見ておりました。
と、不意に、鐘が鳴り出しました。
鐘の音が、いつもより低く、重く、私の中に響きました。
それ以来でございます。
私の中で、流れる星が恐ろしくなったのは。