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昔約束した幼馴染シリーズ

昔約束した幼馴染に会いに都会にやってきたんだけど……

作者: 千弥 瀧

ノリで書いちゃった




2021/07/15 誤字報告ありがとうございます

 小学低学年の頃に出会ったゆうき。ゆうきが通っている小学校は隣の学校だが家は近く、たまたま公園で出会ったことをきっかけによく遊ぶようになった。学校帰り友達と遊んで夕方になれば同じく帰ってきたゆうきと遊んで。

 ゆうきとはよく勝負をして競い合った。勝負の内容は様々でじゃんけんやかけっこ、かくれんぼ。なんでも勝負にしてた。どっちが先に勝ち越すかが勝利の条件。ただお互いの実力は拮抗していて最期の最期まで勝負はつかなかった。


 そんな毎日を過ごしていた。その時間はとても楽しくてかけがえのない時間だったと今ならためらいもなく言えるだろう。


 俺たちの楽しい日常が崩れたのは小学五年から六年に進級するはずだった春。ゆうきの父親の転勤がきっかけだった。

 ゆうきとゆうきん家のおばさんとおじさんの三人が暮らしていた家はシーンと静まり返っていた。


 ゆうきとの別れは辛く、子供だった俺は意固地になって見送りもしなかった。ゆうきと会えばきっと心に秘めた気持ちを伝えてしまうから。ゆうきとの関係を崩してしまうから。


 三人が去って行ったあと母さんから手紙を渡された。


――いつか絶対また遊ぼう! 今度はボクが勝つから。それまでお互い頑張って修行して、全力で勝負だからな! 忘れるなよ!


 手紙を手に一晩中泣いていたと思う。途中から泣きつかれて寝てしまった俺は翌日充血して腫れた目を友達に笑われてむすっとしてしまった。


 だけどもう泣かない。

 ゆうきとの約束だから。頑張って頑張って、ゆうきに勝つ。そして今度こそいっぱいいっぱい遊ぶんだ。


 子供ながらに決意して自主的に修行を始めた。走り込んで筋トレもしていっぱい食べていっぱい寝て。

 ただ俺たちは子供だったから。約束すれば会えると思ってたけど遠くに引っ越してしまえば会うのは難しい。それもこのころは携帯電話も持ってない。連絡先の交換もしていない。それでどうやって再会する気だったんだよ。当然ゆうきが引っ越してから一度も会うことはなく、時間はあっという間に過ぎていった。


 中学を卒業した俺は地元の高校に進学せず、田舎を出て都会の高校に進学することにした。

 その高校はゆうきの引っ越し先にある学校だ。俺はゆうきとの再会をあきらめたわけじゃない。ゆうきは親友だし約束もしているし。

 進学先の高校は少し偏差値が高く周りにはいろいろ反対されながらもやり切ってやったぜ。勉強は苦手だったが必死になって取り組めば案外どうにかなるもんだ。ただ中三の思い出は勉強で埋まってしまったけど。後悔はしていない。地元に残ることに比べればなんてことない。


 進学するにあたって少し心配なことがある。それは俺が田舎者だってことだ。今まで都会になんて全然行ったことないし。中学で二泊三日の修学旅行に行ったっきり。

 これから行くのは都会。田舎な地元とは天地程差がある。ビルがそびえたっててなんか威圧感があるというか閉塞感あるというか。都会こえー。


 田舎者だってイジメられないか? やり返してもいいんだっけ? 逮捕されない?

 田舎だったら大抵のことは笑ってすまされるけど。都会の勝手がわからん。


 まぁしかしうだうだ悩んでも仕方ない。なにせもう始業式だから。今日が始業式だから。始業式当日までうだうだしてました。

 はぁ、よし。行きますよ。


 ガチャッと玄関を開ければ飛び込んでくるビルビルビル。蛇みたいに連なる十両編成の電車がガタンゴトンと大量の人を運搬し、朝っぱらから車のクラクションがうるさい都会が街並みが目に入る。


 地元なら真っ先に山の緑、次いでうねる川、そしてポーポッポーとキジバトの鳴き声だっていうのに。


 俺の住んでるマンションから学校までは歩いて一時間弱。自転車で駆ければ十五分ほど。

 見慣れないブレザーの集団にまぎれ着慣れないブレザーで通いなれない通学路。


 うわ、なんか視線感じる気が。被害妄想?


 ついに着いた。入りずれー。知り合いいないし。

 とりあえず昇降口のクラス分けを確認しないとな。


 はーへー、一年五組ですか。

 酒蔵さかくら拓真たくま、酒蔵拓真酒蔵拓真……、は出席番号九番か。んでクラスメイトはどんなひとがいるのかなぁーっと。


 誰も知らないなぁ、あ? いや、一つ知った名前があるな。知ったっていうか名前が同じだけだろうけど。


 昇降口から渡り廊下を通って奥の校舎、その三階昇降口から一番奥だ。遠い。ちょっと疲れる。都会の学校だからエスカレーターとかエレベーターとかあるもんだと思ってたわ。校舎はすごい綺麗でおしゃれだけど。え、これ学校なの? どっかのお店と間違えてない? って勘違いしそうなほど。


 ガラッと扉を開ければ僅かに視線が集中する。なんだか値踏みされてる気分。とりあえずにこっと笑み浮かべといて黒板に貼られた席順に従って席に着く。

 さりげなく周りの席を確認すれば今座っているのは左隣の席の女子だけだな。なんかえらい別嬪さんが座られてる。牡丹かな?

 黒髪の長髪が大和撫子を髣髴とさせる和風美人。あれか、読モとかいうやつ。知らんけど。


「あー、俺酒蔵拓真。早川さんだっけ? これからよろしくお願いします」

「えっ、……あ、はい。早川です。よろしくお願いします、さかくら……くん?」

「おう!」


 とりあえずご近所さんとの顔合わせはうまくいったのだろうか。なんか戸惑ってる雰囲気だったけど。もしや俺の田舎者っぷりが漏れ出てたか? こんな別嬪さんに田舎者だってイジメられたら泣くよ? 早速田舎に帰ろうかなぁ。


 時間が経つにつれ俺の周りの席も埋まっていく。そのたびに同じような挨拶をしてどうにかまだぎこちないながらも話せる友達もできた。


 椅子の後ろ足を支点に傾けて後ろの席に肘をついて半端に振り向いた状態で話す相手は須郷すごう彩輝あやき。サッカー部志望の男子だ。


「へぇ、拓真って田舎出なんだ」

「そうそう。まだこっち来て日が浅いから全然落ち着かないんだよなぁ」


 ぽつぽつお互いの話などして情報交換していれば入学式の時間だ。

 入学式はたいして面白いこともなくどこも同じようなお偉いさんの長い話に欠伸をかみ殺すだけ。


 教室に戻って担任の説明に耳を傾ける。中学とはいろいろ勝手が違うな。さすが都会の学校。


 うん、見られてる? なんか隣からちらちらと視線を感じる。左隣な。早川さん。何か見てくる気がする。


「……えーっと、何か用?」

「……いえ、じろじろ見てすみません。背、高いなと思って」


 まぁ男子の中でも背は高いほうだけど。幾つだっけ。


「ちなみに……何センチですか?」

「あー、一八六センチだったかな?」

「ひゃ、ひゃくはちじゅうろくっ!?」


 何がそこまで驚きだったのか、早川は椅子を蹴倒し立ち上がり、詰め寄ってくる。


「そんなに成長しっ、あ」


 そこでようやく視線が集まっていることに気づいたようで顔を赤く染めながらいそいそと座りなおす。


「あー、なんだ。入学そうそう友好を深めるのはいいけど今は静かにな?」

「うぅ……」


 担任の言葉にさらに縮こまった早川。プルプル震える姿はまさに小動物。ハムスターかな? 小柄な体躯もあってなんとも可愛らしい。


「早川があんなに動揺するって、珍しいな」

「そうなん?」


 彩輝は中学から早川さんと同じらしい。んで中学のころから早川さんはあんな感じの完璧美少女だったらしく、慌てたり取り乱したりといったことはそうそうないらしい。


「へー」


 確かに今日初めて会った俺でも完璧そうだと思わせる雰囲気あるし。


 俺はチラッと横目で隣の席を盗み見る。まだ頬を赤らめた早川さんがうつむいていた。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 入学から早くも一週間が経過した。すでに授業は始まっており、中学の頃の復習をするような形で行われていた。ただこの学校、少し偏差値が高いだけあって復習だというのに難しい。勉強が苦手な俺からすれば必死にならねばついていけなさそう。置いてかないで。


 どうにかこうにか授業についていけてるのはひとえに隣の席のおかげだろう。早川さん頭いい。教え方がわかりやすいんだよな。ちなみに彩輝はバカだった。仲間。


「ふむ、つまりえっくすがわいでわいがえっくすで、先生わかりません」

「ふふっ、この問題の場合は―――」


 わからないことを素直に尋ねれば小さく笑いながら丁寧に教えてくれる。完璧かな? 完璧美少女だわ。


 俺の右隣は廊下と面する壁があり、後ろはバカ。何かを訪ねるなら左隣の賢い早川さんに尋ねるのが手っ取り早かったためこの一週間でちょくちょく会話は増していた。

 初めは只の質問。徐々に雑談も交じえそこそこ仲良くなれたと思う。


「拓真、すっかり早川と仲良くなったな」

「そう? まぁ早川さんいい人だし。勉強教えてくれるのはマジでありがたい」

「狙ってる?」

「狙って、なに?」

「おいおいとぼけんなよー!」


 何やらにやにやと笑った彩輝がぐいぐい肘で押してくる。地味に脇に入っていたいんですがやめてください。


「早川美人だもんな―! 性格もよくて勉強もできる。運動もできて惚れん男はいないだろ?」

「つまり彩輝は早川さんが好きなのか」

「いや俺彼女いるし」

「マジか!?」


 彩輝の彼女、隣のクラスの吉井よしい穂香ほのかって女子らしい。


「まぁ彩輝だし、彼女くらいいるか」

「お? 何ソレ俺褒めてるの?」


 明るく気さくで顔もいい。中学の頃はサッカー部のエースだったとか。モテる要素は多いし。これが俗に言うリア充か。世の男子に爆発させられているアレ。


 放課後。部活に加入していない俺の最近の日課はふらふら彷徨うこと。なんか字面だと夢遊病者みたいだけどただ単に土地勘がないからいろいろ見て回ってるだけなんだけど。

 今日は河川敷にまでやってきていた。緑の少ない灰色の都会とは言えここは草木が多く田舎を思い出す。居心地いいわぁ。あぁ、散歩中の犬がかわええ。


 川のせせらぎも心地いいし、結構水がきれいだから泳ぐ魚の影も見える。のんびり夕焼けに染まり始めた空を眺めつつ歩いていると見覚えのある後姿がしゃがみ込んでいた。


 早川さんだ。

 何をしているのかと覗き込んでみた。


「……トカゲ?」

「ッッ!?!? きゃっ」

「ちょいっ!」


 突然現れた俺に驚いたのかびくっとした早川さんが体勢を崩す。地面に転がる前に腕を引っ張って釣り上げる。早川さんの一本釣りだな。なんか無性に魚が食いたい。今晩は刺身にしよう。


「大丈夫か?」

「あ、うん……、あ、た、酒蔵君」

「こんなところで何してたんだ?」


 トカゲ見てたみたいだけど。


「えっと、と、トカゲを見つけたからつい……」

「あぁ、やっぱりトカゲ見てたんだ。なんか意外だな」

「そ、そうですか?」


 都会の人間と言えばトカゲや虫でワ―キャー言ってるイメージだった。それも早川さんみたいな美少女とか絶対無理だと思ってた。


「私、昔からそういうの得意なんです」

「へー」


 成り行きで早川さんと河川敷を散歩する。どうやら学校から早川さん家までの帰路にこの河川敷があるらしく、帰りはここを散歩するのが日課なのだとか。


「懐かしいなぁ」

「な、懐かしいです、か?」

「あぁ、いや。昔ってか、俺幼馴染がいたんだけど」


 幼馴染、ゆうきは虫や爬虫類を見かけるとしゃがみ込んで観察することがよく合った。そんなに見つめて何が面白いのかと問えば「こんなちっちゃい奴が生きてるって不思議だなぁって思って」と言っていた。


「なんかその後ろ姿が早川さんに似てて。って言ってもあいつ男だから、そう言ったら早川さんに失礼か」

「え、あ、いえ! 別にそんなことはありませんけど……、その幼馴染って男の子だったんですね?」

「そうそう。ゆうきっつって小一のころからの幼馴染なんだ」


 ほとんど毎日遊んで行った相手だ。思い出もいっぱいあって、だからこそあいつとまた遊びたい。その一心でここにやってきた。

 マジで今どこで何してるんだろうなあいつ。もしかして別の町の高校に行ってたりして。そうだったら俺の行動も無駄になっちゃうんだけど。


「仲が良かったんですね」

「親友だったな。まぁ高学年の頃に引っ越して以来会えてないけど」

「ふーん。そうなんですね」


 ゆうきの話を聞く早川さんは何やら複雑そうだ。嬉しそうだけど不機嫌そうみたいな。口角を緩ませながら口をとがらせてる。器用だな。どうやんのそれ。


「そういや風呂場でも遊んだりもしたな」

「ふろっ!?」

「ふろ?」

「なんでもありません! 思い出さないださい!」

「お、おう」


 時々おかしな反応をする早川さんだが、話題は尽きずぽんぽんテンポよく弾んでいく。

 なんだか懐かしい感覚だ。今日は懐かしむ日が多いな。これが年を食った証拠か……。


「んじゃ、また学校で」

「あっ、うん! また!」








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 放課後。スーパーで買った夜ご飯の材料を手に帰路についていた。散歩帰りだからもう夜は近い。茜色の空が静かな黒に移り変わっている時間。結構詩的な表現じゃない?


 今日の晩御飯は親子丼です。無性にがっつり丼ものが食いたかった。特に親子丼な。かつ丼でもよかったけど。または海鮮丼。

 河川敷に寄り道すれば斜面に作られた階段に座り込む早川さんを見つけた。


「なーにしてんの?」

「っ、吃驚した。酒蔵君ですか」

「そんなに驚く?」

「いえ、ちょっとボーとしていたので。酒蔵君は、お買い物帰りですか?」

「そうそう。晩御飯」


 興味深そうにエコバックの中を覗き込んでくる。ふいに黒髪がさらりと垂れて風に揺れた。その揺れる毛先に思わず手が伸びる。


「な、なんですか?」

「あっ、ごめん。何か揺れる毛先につい手が」

「ふふ。あまり不用意に女子の髪に触れるのは感心しませんよ?」

「いや、申し訳ない」

「でもなんだか猫みたいで可愛いですね」


 くすくすと笑われてしまう。やめて。恥ずか死ぬ。寧ろ殺しにかかってきてるよ。


 注意されてもなお、細くしなやかな黒髪が揺れるさまに目がつられる。


「髪、好きなんですか?」

「んー、なんだでろ。特に今までそういったことはなかったんだけど……。あぁいや。昔あったなぁ」

「昔……?」

「前に話した幼馴染。ゆうきのやつ男子にしては少し長かったんだよな。そんで手で梳くと気持ちいくらいサラッサラしててさ。その手触りが好きだったな」

「そ、そうなんですね?」


 あれか。これがフェチというやつか? つまり俺は髪フェチ?

 ふむ……、確かに早川さんの髪は綺麗で触り心地が良さそう。艶もあってサラサラ。髪に揺られても絡まった様子もない。

 さっきちょっと触れただけでも髪質いいなってわかったし。……なんか変態っぽいな俺。いや、ポイじゃないな。


 早川さんと話しながら帰路に就く。なんか早川さんと一緒だと懐かしい気持ちになるんだよなぁ。なぜに?


「それでさ。あいつ急に走り出して――」

「ゆうき!」

「……ゆうき?」


 なぜか俺の幼馴染の名前を呼ぶ男性の声。なんか聞き覚えがある気がして振り向く。

 スーツ姿の中年男性だ。どこか威圧感のある顔でこちらへずんずん向かってくる。というか、あれ、この人……。


「あ、お父さん」

「やぁゆうき偶然だな学校帰りかいゆうきはここを散歩するの好きだもんなぁところで彼は? まさか彼氏だなんていうんじゃないだろうねぇどうなんだい君? ゆうきとおつきあいしているのかなぁああん?」


 おう、のんぶれす。

 息継ぎなく言い切ったその男性。早川さんの言葉曰くお父さんは俺と早川さんの間に割って入りその背に早川さんをかばう。


「あぁ、どうも。自分早川さんと同じクラスメイトで、彼氏じゃないですよ?」

「お? そうかいそうかい。それで二人は何を?」

「買い物帰りに早川さんを見かけたので。一緒に帰ってただけですよ?」

「ふむ、そうか……」


 まだこちらを疑わしそうに見てくる早川さんのお父さん。あれか? 娘に悪い虫がついてないかとか気にしてるのだろうか。

 ってか、やっぱりこの人どっかで見たことが。


「あの、早川さんのお父さん――」

「まだお義父さんと呼ばれることを許したわけではない!」

「えぇ……」

「ちょ、お父さん!?」

「私の名前は早川浩二だ」

「では浩二さん。どこかで会ったことありません?」

「なに……?」


 ジーっとこちらを見てくる浩二さん。俺も思い出そうとその顔をジーっと見つめ。なんか記憶の奥側が刺激される。そう、大体子供、小学生だったころぐらい。よく見た覚えが……。


「ちょっ、ちょっと二人とも! と、とりあえず落ち着こう? うん、酒蔵君も今日は帰って――」

「さかくら……? 君酒蔵というのかい?」

「あっ」

「はい」


 なんか早川さん慌ててるけど、今は置いといて。


「……クラスメイト。つまりうちのゆうきと同い年」

「はい」

「…………ちなみに下の名前は?」

「拓真ですけど」


 浩二さんの質問に答える間も記憶の底を浚い続けることしばし、


「「あぁぁああーーー!!!」」


 俺と浩二さんは同時に叫び指を突きつけ合う。


「ゆうきん家のおじさん!」

「酒蔵さんとこの拓真君!」


 そうだ。思い出した。ゆうきの父さんだこの人。あれから全然あってないし、浩二さんも少し老けてたからはじめはわからなかったけどよく見れば確かにおじさんだった。


「え、すっごい久しぶり! おじさん元気にやってたかよ!」

「久しぶりだな!! 拓真君元気にしてたかい!?」


 二人して肩を組んで互いの再会を喜び合う。てかおじさんちっさくなったなぁ。子供のころは巨人かと思うほどデカかったのに。いや、俺がでかいのか。おじさんこれでも一八〇はあるだろうし。


「大きくなったねぇ。まさかあのちびっこに背を抜かれるとは……。いやぁ感慨深いもんだ」

「あんだけデカかったおじさんが今では俺より背が低いのかぁ。おじさん少し老けてたから気づかなかったよ」

「言ってくれるじゃないか! これでも同期では若作りだと羨ましがられるんだぞ?」


 そっかぁ。おじさんだったかぁ。うん、おじさんか。ん? おじさん。おじさんって早川さんのお父さんなんだよな……。


「な、まさかおじさん離婚したのか!?」

「唐突になんてこと言うんだい! 私は今も昔も妻一筋だ!」

「え、だっておじさん早川さんのお父さんなんだろ!?」

「……何を言ってるんだい?」


 あれ、待てどういうことだ? おじさんは早川さんのお父さんで離婚してなくて、でもおじさんはゆうきのおじさんで。頭パンクしそう。


「は、早川さんどうなってんの? ちょっと混乱しておかしくなりそうなんだけど」

「え、ええっと。あはははは……」


 助けを求めるも早川さんは目を逸らして乾いた笑みを浮かべるだけ。

 そんな俺たちをおじさんが訝し気に見てくる。


「なんだ二人とも。そんなによそよそしくして。間は空いたが幼馴染なんだから仲良くしないか」

「幼馴染? 誰と誰が?」

「? ゆうきと拓真君がだよ」

「ゆうき? どこに?」

「目の前にいるだろう?」

「……彼女、女子ですけど」

「ゆうきは女子だが? ……いや待て、まさかだが拓真君」


 は、はは。どういうことだ。何が起こっている。訳が分からない。いや、うすうす分かってはいるんだ。だけど飲み込めない。理解したくない。


「ゆうきが女子だって知らなかったのかい……?」

「いや嘘でしょ!?」


 やっぱりそうなの!? ゆうきって女子だったの!? え、だって、昔一緒にお風呂入ったときは……あ、あぁ、あぁぁああ!!


「そうだ、そうだった。ゆうきの奴ついてなかった(・・・・・・・)!!」

「思い出さないで!!!」

「グハッ!?」


 渾身の力の乗った一撃が腹部を貫く。あぁ、懐かしい。よくゆうきを怒らせてボディーを食らってたっけ。そうそう、こんな感じで一撃で意識を刈り取るような。きょう、れ、つな……やつ…………。


「た、たくまっ!? ご、ごめん!!!」

「拓真君大丈夫かい!? あぁ、意識がない! 起きて拓真君!!」


 拝啓 花冷えの季節ではございますがお父さんお母さん。元気にやってますか?

 息子は現在幼馴染との再会を果たしたばかりです。ただ男だと思ってた幼馴染が女だったり、懐かしい一撃に意識を刈り取られたりとしてまだいろいろ困惑している最中です。というかこのままだと二人のもとに早くも旅立つことになりそうです。でも耐えて見せます。なぜならまだ約束を果たしていないから。俺頑張ります。

 春爛漫の折、どうぞお健やかにお過ごしください。 敬具

色々伏線? 盛り込んで入るけど回収しない怠惰

続編は気分次第で書きます



2021.7.13 序盤の方に一文追加しました。

2021.7.14 続編投稿しました。下記URLからどうぞ。

https://ncode.syosetu.com/n0645hc/

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