初ちょろです。
何を、言われたのだったか。
青緑色の草原をサクサク歩きながら、瑠那は懸命に思い出そうとした。
そう、たしか──水色の女の子の世界の? いや、世界に行って。幸運をふりまく、とか。そんな事を。
加護をつけるとか、なんとか。
稀に見る幸運体質とかなんとか。
「せかい、って……」
歩きながら、一面の草原を見回す。
まるで、覚めない夢を見ているようだ。踏み締める地面も、風に乱される髪も、草の香りもリアルすぎる。
どうやって帰ればいいんだろう。
「クォン?」
はやく、と小狐に呼ばれる。
「はいはい、行けばいいんでしょー」
仕方なしに、歩き出す。
歩く……歩く……てくてく歩く……。
だんだん、着物で歩くコツがわかってきた頃、遠くに森と、道らしき茶色の線が見えた。
「おっ?」
線はゆるやかに蛇行して、ぽつぽつ現れた木々の間を縫っていく。
「道がある! キツネさん、あっちに行こう?」
「クォン!」
いいよ、と小狐が進行方向を変えてくれた。
「だいぶ歩いて、やっと道かぁ……ん?」
まばらな木々の間を通りすぎると、町らしき建物が。
高い塀に囲まれた町だ。
草原が終わってホッとしたような、見知らぬ町に辿り着いて緊張したような、そんな気分で歩いて近づいていくと。
道の先、町のだいぶ手前でたむろする人影が見えた。
「んん?」
遠くてよく見えないが、ひとりを囲って、数人で──。
「む。……不穏な空気」
「クォン……」
緊張しながら、だんだん近づいていくと、頭まですっぽりフードを被ったマントの小柄なひとりを、四人の若者達が囲って怒鳴りつけていた。
「──……、いい加減にしろっ」
「さっさとフードを下ろせ!」
「耳が聞こえねーのか!?」
対して、マントの人物はダンマリだ。腕組みしてそっぽを向き、無視?している。
なにやら揉め事らしい。
小狐が脚を止めた横を、瑠那はスタスタと通り過ぎた。
「ク?」
「ちょっと、すみません」
瑠那は、フードの人物に話しかけた。
その場にいた全員の視線が、瑠那に向けられた。
目の前の町の入り口を、指さす。
「あそこは町であってます?」
唐突に現れ、質問してきた瑠那を見て、彼らはポカンと口をあける。
振袖姿に草履、長いサラサラな黒髪など、初めて目にしたのだろう。
「あれ? 言葉は……通じてます?」
「あっ……ああ……」
「良かった。町へ入るのは大丈夫ですか? 」
「あ、ああ! もちろん……」
「門番に言えば」
「案内するよ!」
ニコニコと笑いかけると、若者達はみな照れたように案内してくれた。
フードの人物は、置き去りである。
小狐が足元で、あきれた様子で見上げていた。