初加護につき。
小さな社の中には何もなく、古い木造建築の中はわりと暖かかった。ようやく手を離してくれた女の子が瑠那に向き直り、狐のお面のまま満足そうに腕組みをした。
「通れたな、さすが妾の見込んだ娘じゃ」
「あの──」
1人でうんうんうなずく女の子は、ふいと右横に視線をずらす。
「はよう顔を見せぬか、望んだ助っ人じゃぞ」
「……えぇ……ありがとう」
声だけがした。と思ったら、視線の先に唐突に人が現れた。
着物じゃなく洋服の、女の子。
お面はつけていない、ドレスみたいな格好で、頭に花かんむりをつけた水色の髪の女の子だ。
瞳の色も青色で、不思議な輝きを放っている。というか、女の子の全身から淡く水色の光がキラキラとこぼれ落ちている。
水色の女の子は苦しそうに身震いした。
「時間が……はやく……っ」
瑠那が目を丸くして見つめる前で、狐面の女の子が慌てて瑠那をせかした。
「説明はあとでする! 急げッ」
「えっ?」
なにを急ぐのか、さっぱり不明だ。わからなくて、二人を交互に見るしかできない。
やがてしびれを切らして、水色の女の子が瑠那に両手を差し出してきて、すがるように言う。
「助けて……」
助けてと言われても、何をすればいいのだろう? その手を取れば良いのか……迷いながら手のひらを重ねた。ひんやりと冷えきった、氷みたいな手だ。
「うわ、冷たいね」
思わず首をすくめるが、手は離さなかった。じわりじわりと体温が、瑠那から女の子に伝わってゆく……女の子がやっとホッと息をつく。
「……ありがとう……」
「大丈夫?」
頬に赤みは戻ったが、唇はまだ青い。
つらそうだった様子が、徐々に持ち直し、しっかりと手を握り返された。
「これは、素晴らしい……あなた、稀に見る幸運体質ね」
「? そう? なの?」
体温を分けているだけである。会話が微妙にずれているが瑠那は細かいことは突っ込まない主義だ。
今回はそれが運命を分けた。
水色の女の子と、瑠那の様子を眺めていた狐面の女の子が、二人して大きくうなずきあっている。
「触れただけで幸運値を回復させるとは……! そなたを見つけた妾はさすがじゃな!」
瑠那自身にはよく分からなかったが、水色の女の子の具合が良くなっていくのは、その顔色から見てとれた。
身体の震えが止まり、青白かった頬に完全に赤みがさす。丸まっていた背筋ものびて、ようやく安心した表情を見せた。
「本当に助かりました……ありがとう、……ルナ、でいいのかしら?」
名残り惜しそうに手を離して、水色の女の子は笑いかける。
「私は……ラーナ」
「妾はヨミじゃ!」
「えーっと、瑠那です」
つられて名乗る。
「もう、大丈夫? よくわかんないけど、解決でいい?」
社から退出しようとしたら、引き止められた。
「いやすまぬ、いまひとつ重要なことを頼みたい。そなたにしかできぬしそれほど時間はとらせぬ。……おそらく」
狐面の女の子がお面を外した。
その顔を見た途端、瑠那は身動き取れなくなっていた。
「妾の加護を付けよう。ちょっと彼女の世界に行ってきて、幸運を振りまいて欲しい──」