初遭遇につき。
ちょろり、ちょろりと小さな塊が参拝客の足元を走り抜け、瑠那が目をつけていた串焼き屋台の手前でふと止まった。
(おお……)
なんとなく後をついて行った瑠那は、小狐が逃げないことに不思議がりながら、じりじりと屋台に近寄る。
元々、帰りに寄る決定だった。お財布を出し足を止めた瑠那に、屋台のおじさんが注文を待つ。
「一本ください」
ジュージューといい音と香りに、瑠那の後ろにつられたように人が並ぶ。
小銭を支払い、屋台から離れた道の脇でさっそくかじりつく。
「!」
美味しかった。ちょっと硬めだが塩がきいて──もぐもぐと食べていたら顔に視線を感じた。
(さっきの小狐!)
いつの間にかさっきの小狐が、足元にいて見上げてきていた──串焼き肉を。
小さい。ふさふさだ。つぶらな瞳が可愛く、なぜか怖いとは思わなかった。
小狐が何を期待しているのか、じっと待っている。すぐ近くに他の参拝客や屋台のおじさんもいるのに、誰も注意を向けてこない。
まあいっか、と、瑠那は最後の一切れを小狐の手前に置いた。
「どうぞ」
一切れで足りるかどうかは不明だが。狐なのに、おいなりさんでなくていいのか?と疑問に思ったが。
見守っていると、ぱくりと食いつき、小狐はさっと脇の林に走って消えた。
(おお……すばやい)
良いことをした、と満足した瑠那は祖父の家に帰ろうと歩き出したが、いきなり袖を引っ張っぱられたたらを踏む。
振り向くと、見知らぬ女の子がいつの間にか背後に立っていた。
「えっ?」
瑠那と同じように振り袖姿の女の子である。彼女は古風な狐のお面をかぶっており、唐突に話しかけてきた。
「そなた……見どころがある。妾と共に参れ」
いきなり、そう告げられたのだった。