初詣につき。
はじまりはじまり〜
睦月初日。
うっすらと白い雪が桜の幹を化粧しているのを眺めつつ、天海瑠那は神社に向かって歩いていた。
身に纏うのは祖母が若い時分に着ていた振り袖。
真紅の生地に梅の花が咲く、鮮やかな振り袖だ。
振り袖の上にはふかふかの白いファー、髪飾りは青い蝶々に真珠のかんざし、肩下げの小さなショルダーはお気に入りで、がま口に和風の生地──椿と手毬が踊っている。
中身は、三つ折りの小さなお財布にもらったばかりのお年玉が三万円と小銭。携帯に化粧道具。ハンカチティッシュ。いざと言う時の薬がちゃんと入っている。
きんと冷えきった空気の中、お正月のスケジュールを頭の中で確認しながら、遠くに見えてきた神社の朱塗りの社を見つけてホッとした。
地元ではなく、現在瑠那は祖父の家に遊びに来ている。
大晦日の昨夜、山ほど集まった親戚の爺婆様たちは飲めや歌えの大騒ぎで、家宝だという日本刀を取りだしいきなり居合をはじめたり、意味不明な謡をはじめたり、リンゴの皮剥きリレーをはじめたり、だいぶ乱癡気騒ぎだった。
お寿司屋さんのお寿司は美味しかった。瑠那は赤身の刺身の食感を思い出し──あわてて意識を戻す。
朝ごはんを食べお年玉をもらい、お屠蘇を飲み、近くに神社があるから初詣に行こうと話が持ち上がったのは当たり前の流れだったが、爺さまの着物がみつからず、とりあえず先に行けと祖母に着物を着せられて1人で送り出された。
疑問に思ったもののとくに抗う理由もなく、着物は可憐で素敵だし、綺麗な格好でお出かけするのは嬉しい。
履きなれないかかとの高い草履に苦労しつつ、他の参拝客の流れに従い、しずしずと鳥居をくぐり抜ける。
ふわりと鼻腔をくすぐった香り。
鳥居から続くゆるやかな上り坂手前に、参拝客を見込んだ屋台が並んでいて、串焼きの肉が美味しそうな香りを周囲にばらまいていた。
帰りに絶対寄ろうと決めて、後ろ髪引かれる想いで進む。
田舎だからか、参拝客の列は長くなく、きちんと初詣を済ませ境内を物珍しく歩いていると、ちょろりと地面を何かが走って行った。
(ん?)
明るい茶色の毛皮の小さな塊──小動物である。猫かと思ったがよく見ると、姿が異なる。
(えっ……まさか狐……?)
小狐だった。