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第1章 5.選択

 


「異世界からの訪問者……」


「そうだ」


「何故それを、と聞いてもいいですか?」


「構わない。だが、そういった質問は後にしてくれ。今はその少女からだ」


 そういって男は俺に背負われている麻希を指差す。その行為に俺は麻希を隠すように、少し体を横に逸らす。


「麻希が、どうしたんですか」


 少し、警戒心が滲み出た声が出る。


「マキ、というのか。その少女はいつからその状態に?」


「――こっちの世界に来てからです」


 俺がそう言うと、男はそうか、と小さく呟く。そして、こっちへ来いと奥へと俺を促してきた。


 俺はそれに従う。思っていたよりも、この男は俺たちについて知っているようだ。ならば、俄然話を聞きたくなってきた。この麻希の症状はすぐになんとかしたい。


 男は奥にあるもう一つの扉へと俺を案内した。

 そして相変わらず重厚な扉を軽く押し開け、中へ入るよう促してくる。


 中は何故か少し明るかった。

 疑問に思い部屋を見回すと、壁一面に淡く光る苔が生えているのが確認できる。


 そしてそこには岩出てきたベッドのようなものや椅子、本棚などの様々な家具が置かれてある。生活感溢れる部屋だった。


 男は俺が背負っている麻希をベッドへと寝かすように促してくる。

 俺は麻希をベッドのようなものに寝かし、椅子に座る。

 男は地面へと座り、胡座をかいていた。


「麻希の事、何か知っているんですか」


「見れば分かる。魔力反応がないという事は、マキのその状態は魔力不足と呼ばれるものだ」


 魔力不足、か。いきなりファンタジーっぽい単語がきて驚いている。

 それよりも、魔力不足か……。


「その、すみません。俺たちのいた世界では魔力が無いんです。だから魔力について教えてくれませんか」


「――そういえばそうだったな。いいだろう教えてやる。魔力というのは、この世界に住むありとあらゆる生物が有している力のことだ。生物はそれらを使い生命維持や魔法を使う」


 そう言って男は自分の掌を俺の足の傷口に当てた。ズキッと傷口が鈍く痛むが、それよりも男が何をするのか、それが気になって仕方がない。

 そしてそのまま少し時間が経ち、突如男の掌が淡い光に包まれる。それと同時に傷口の痛みが引いてきた。


「―――」


 目の前で起きている現象に、理解が追いつかない。淡い光を放っていた男の掌、それが離れたと思えばそこにあったはずの傷口がなくなっていたのだ。

 とうとう幻覚を見たのか?そういう思いを抱くが、自分の手で確かめても確かにそこに傷口は存在しなかった。


「これが、魔法……」


「そうだ。そしてそれを使うために今話した魔力が必要となる。生物が魔力を有しているのは簡単だ。魂が魔力を生み出しているからだ」


「魂……」


「そうだ。体の中心、そこにある魂で生物は恒常的に魔力を生み出している。だが、極稀に生み出す魔力の量が限りなくゼロに近い者が現れる事がある。それが今回のようなマキの状態だ」


 魂。俺たちのいた世界では考えられていなかった概念だ。

 今までの話を聞く限り、魂は生きるのに必須なんだろう。正確には魂が生み出す魔力が、だが。


 そして、麻希はその魂が生み出す魔力が少ない。

 この世界でも極稀に見る事例とのことなので、あり得ないことではないのだろう。

 もしかしたら、麻希が異世界人だからというのが理由かもしれないが。


「つまり、麻希は冬眠みたいな状態ってことですか?生きているだけで消費する魔力の消費量をなるべく抑えるため、みたいな」


「そう捉えてもらって構わない」


「そう、なのか……」


「それと、この状態は危険だ。いつ死んでもおかしくはない」


「――は」


「この状態になるほど深刻なものだとすれば、恐らくもって一週間程度だな」


「ふざけるな!」


 俺は思わず声を荒げてそう叫ぶ。


 ふざけている。何故麻希がそんな間に合わなければならないのか。

 この世界に勝手に呼び出されて、それで一週間で死ぬ?ふざけるな。冗談も大概にしろ。


 どうして麻希なんだ。麻希じゃなくて俺だったら、麻希の代わりに俺が。


「フフッ」


 男が笑っている。何がそんなに面白いのか、何がそんなに可笑しいのか俺には分からない。

 俺は耐えきれずに、男の胸ぐらを掴み、大声で怒鳴った。


「テメェ!」


「いや、済まない。お前の本当の部分を見る事が出来て少し嬉しかったんだ。今までは少し本音じゃなかった感じがしたのでな」


 男が口に手を当て、笑いを堪えてそう言う。


「―――」


 それに俺が絶句していると、男は楽しそうに指を二本立てた。


「そこで、お前に二つ選択肢を与えてやる。一つは、このままこのマキの最期を見届ける。一つは、直ぐにこのマキを楽にしてやるか、だ」


「それは」


「選択肢になっていない、とでも言うつもりか?自惚れるなよ。本来ならば、貴様にこれらを選ぶ権利などなかった。それを俺がお前に選ばせてやる、と言ったんだ。感涙に咽び泣くぐらいしてほしいものだがな」


 顔を近づけて俺の目を見て、男がそう言った。

 俺はギリ、と歯を噛みしめる。


 悔しい、だがこの男の言っている事は本当の事だ。今俺たちがいるのは弱肉強食の世界。弱者に、口を挟む権利などない。

 悔しさのあまり、握りしめていた手から紅い血が垂れてきた。


「と、まあ言ってみたが別に今直ぐ答えを出せ、とは言わん。そうだな、二日だ。二日間じっくりと考えておけ。俺にお前の答えを聞かせてくれ」


 そう言うと、男は立ち上がり部屋を出て行った。

 扉の閉まる音が部屋中に響き、そしてそれと同時に淡く光っていた苔の光量が段々と落ちていく。


 暗くなっていくその部屋で、俺はただ一人で座っていた。



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