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第1章 2.異世界

 


 そこは光の入る隙間さえ一つない、暗い部屋だった。辺りは静寂で満ちており、どこか寒々しさを感じる。


 そこに一人の男が座っていた。


 男は何かをする訳でもなく、ただそこに座っていた。まるで石像のようにピクリとも動かない。

 だが、何かを感じたのか顔を上げる。そのまま虚空を見つめている。

 それから暫く動く気配はなかったが、急に立ち上がり、闇の中を迷いなく進んでいく。


 そして、男の姿は闇の中に消えて行った。



 ◆



 あれだけ眩しかった光が徐々に収まっていく。光に目を焼かれた為か、初めは周りを見ることができなかったが、時間が経つとともに辺りを見る事ができるようになってきた。


「――は」


 思わず、そう漏らしてしまう。

 それは仕方のない事だろう。誰だって自分が森の中に居ればそうなってしまうと思う。それも、自分の意思に関係なく急に森の中に居るのであれば。


「そうだ、麻希は……」


 麻希の手を引いていた手は今は虚空を掴んでいる。

 辺りを見回してみると、自分から数メートル離れた先に倒れている麻希を見つけることができた。


 慌てて駆け寄り、脈と呼吸の確認をしたが、命に別状はないようだ。

 ほぅ、と息を吐き辺りを見回す。そして、ある程度身の回りの安全を確保したところで、現況の確認を始める。


 ひとまず分かっている事は此処が森の中だという事だ。

 誘拐か何かだろうか。持っていた荷物が無かったし。でも、犯人らしき人物は見当たらないし、拘束もされていない。誘拐と決めつけるには早計すぎるだろう。


「じゃあ、なんなんだ?」


 再び思考を開始するが、一向に答えが出る気配がない。いや、正確には一つある。だが、それは突拍子のないものであったし、何よりそれを口に出す事で本当の事になってしまうのが怖かった。


 これ以上考えることは最善ではない。今やるべきこと、それは身近にいる大切な人を守る事だ。


「とりあえず、この森を抜けたいな」


 俺は麻希を背負い、歩き始める。

 所々木の根が地面の中から飛び出しており、それにつまづかないよう気をつけて歩く。辺りを見渡しても木しかないため、方向が分からなくならないように、地面に落ちていた石で木に目立つように傷をつけておく。


 道中、洞窟のようなものを見かけたが、なぜか、嫌な予感がした。なんというのだろう、こう恐ろしいものが奥にいる、そんな予感が。

 まぁ、中に何がいるか分かったものじゃないしな。やめておこう。


 そして、どれくらい歩いただろうか。少なくとも1時間は歩いただろう。

 そろそろ足が棒になってきた。慣れない道のりと麻希の体重がプラスされた事で足が限界である。と言っても麻希は軽いので、山道を歩いたせいというのが正しいだろう。


「そろそろ、休みたいな」


 額から汗が流れ落ちてくる。背負った麻希を支えている手を片方離し、制服のシャツで流れる汗を拭う。喉が渇いた。水は全て鞄の中に入れていたため、かれこれ一時間は水分を取っていないということになる。

 肉体的にも、精神的にもそろそろ限界が近かった。


 それから少し歩くと木の少ない、拓けた場所が目に入った。そこには大木が一本聳え立っている他には、木はおろか植物すら生えていない。日当たりの良い、拓けた場所である。

 あそこまで行って、少し休憩しよう。

 そう思った矢先である。


 突如突風が吹き荒れ、俺は麻希と近くにあった木の陰へと身を隠した。風で落ち葉が舞い上がり、次々に流れていく。

 落ち葉が流れていく方向から考えて、どうやらこの突風はあの拓けた場所からきているようだ。


 何事だと思い、風で飛んでくるゴミが目に入らないように様子を伺うと、そこには赤く巨大な何かがあった。いや、居たと言った方が正しいだろう。


 それは巨大であった。爬虫類のような鱗に身を包み、強靭な後脚と鋭い爪、背には大きな翼が生えており、口元からは無数にある牙が顔をのぞかせている。尻尾は大木のように太くしなやかであった。


「ドラゴン……」


 それはまさしく物語に出てくるドラゴンであった。それも、西洋のような二足歩行タイプの。

 一瞬、作り物だと思ったがすぐさまその考えを否定する。あの質感にこの威圧感。そして周囲に漂う獣臭など、様々な要因を考えた結果、正真正銘の生きているドラゴンだと確信した。


 俺はそれを理解すると、麻希をしっかりと抱え上げ、すぐさま踵を返す。こういう時、相手を刺激しないようゆっくり逃げろなんて言うが、そんな事は今は関係ない。相手からすれば俺たちは吹けば飛ぶような存在だから。相手を刺激しなくても潰される。


 なるべく小さく、かつ速く逃げるんだ。

 俺はただひたすらに前を向いて走る。後ろは振り返らない、その時間が無駄だからだ。


 それから少し走り、後ろを振り返る。どうやら見つからずに逃げ切ったらしい。その場で俺は安堵し、息を吐いた。


 そして、再び歩き出そうと前を向いた瞬間、そこに一つの人影が現れる。


「なんだ、お前」


 そこに居たのは小汚い、緑色の肌をした人型の生物。それは、突然目の前に現れたように見えた。先ほどのドラゴンよりも異臭がする。ものが腐ったような不快感が拭えない。


 ソレは手には錆びた鉈を、背には古く壊れかけの弓を担いでいた。それらを持ち、ソレは俺を威嚇するかのように腕を高く持ち上げた。多くの物語で登場するソレは一般的にこう呼ばれている。


「――ゴブリン」


 俺がそう呟いた瞬間、目の前のゴブリンは大声で叫び声を上げた。




登場人物紹介


仲本麻希ナカモトマキ

17歳

特技 ジャンケン

趣味 身体を動かすこと


宏人の幼馴染。

かなりの天然で、明るく活発な少女。

宏人とは幼稚園の頃からの付き合いで、小中高と宏人とは同じ学校に通っている。


中学の時、宏人が傷心していた頃、唯一態度が変わらなかった人物。それ以来、宏人は彼女に好意を寄せている。


茶髪、ショートカットで、身長は153㎝。子犬のようなまん丸な瞳で、人懐っこく、誰からも好かれる性格の持ち主。

笑った時にチラリと覗く八重歯が魅力的な少女。


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