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幼馴染を助ける為、異世界を行く  作者: 秋葉月
第2章 城塞都市編
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第2章 3.魔法

この話が一番苦労した……

 


 ――魔法。その言葉は以前の世界でもよく聞いた事がある。だがその大半はゲームやアニメなどの創作物の中で、だ。中には魔法を使えるという人も居た。だがそのどれもが眉唾ものだと、俺は思っていた。


 だが、この世界では違う。現実に『魔法』という現象が存在している。

 俺はここで暮らしている間、何度かその言葉を聞いた方があった。

 初めてウルスラグナにあった時も、彼の口から『魔法』という言葉が出ていた。


 曰く、魔力を使い不可能を可能に変える力、らしい。有を変化させ万物を作り出す力とも聞いた事がある。

 実際、この半年の間で俺は魔法の凄さを何度も目の当たりにした事があった。


 大地を操り、自らの思うままに形を変えた事もあった。

 液体を操り、河の水を枯らした事もあった。

 熱量を操り、手も触れずにものを燃やした事もあった。

 気体を操り、宙を自由に飛んだ事もあった。


 その全てを彼は魔法の恩寵によるものだと言っていた。

 あの力を俺が手に入れる事が出来れば、俺は更なる高みに登る事ができる。そうすれば麻希を助けるのも早くなる。


 俺はこれから話される事について、一つも聴き逃すまいと気を引き締める。

 そんな俺の表情に何を見たのかは分からない。だがほんの一瞬、ウルスラグナは頰を綻ばせた気がした。

 だがそれもすぐにいつもの仏頂面に戻る。


「前にも言ったと思うが、魔法というのは魔力を使う。ヒロト、お前が今までにしてきた鍛錬は何だった」


「魔力操作だ」


 ウルスラグナの問いに間髪入れずに答える。

 それを受け、彼は言葉を続けていく。


「そうだ。魔法を使うには、その魔力操作が重要になってくる。どれだけ身体を鍛えたところで、動かし方を知らなければ活用のしようがないようにな。魔力操作ができるのであれば魔法の使用は可能だ」


 つまりは俺でも魔法を使えるという事だろうか。それならば話は早い。


「魔法の使用をする際において、重要な点が三つ程ある。一つは先程も言った、魔力操作の技術だ。その点に関してはお前は問題ない。

 二つ目は魔力量だ。どんな魔法にも必ず魔力を使う。その消費魔力量は魔法の効果が上がっていくほど多くなる。大魔法を使う時にはそれ相応の魔力量が必要だ。

 そして三つ目はイメージ力だ。魔法はただ魔力を操作して使えるわけではない。むしろ操作技術や魔力量よりもイメージ力の方が必要だとも言える。使う魔法をイメージしなければ絶対に魔法は発動しない。肝に命じておけ」


 ウルスラグナは指折り数えながら、そう俺に教えてくれた。

 だが、あまりにも情報過多だった。一度に大量の情報が頭に入ってきたせいか、少し頭痛すらしている。俺は元々頭はあまり良くない方だったんだ。そんなに一気に言われたって全てを覚えきれるわけじゃない。


 そんな気持ちを視線に乗せて、ウルスラグナの方を見ると、彼は近くにあった机のようなものから一冊の本を取り出す。

 それをそのまま俺の方へと持ってきて、


「これにさっき言ったことが纏めて書かれている。後で部屋で読め」


 そう言って俺に手渡して来た。

 じゃあ先にそれ渡しとけよ、と思ったがここは素直に受け取っておく。


 意外と古びた本だった。ページをパラパラとめくり、中に書かれている内容に一通り目を通す。かなり読み込まれているのか、ページの所々に手垢で汚れていて読めない部分があった。紙は黄色く変色すらしている。本当にボロボロだった。


「それは魔道書という。取り敢えず、その本の始めに書かれている〈身体強化〉の魔法を使えるようになれ」


 それがウルスラグナの命令だった。次はこれをできるようになれと。

 そう言われ、俺は本の一番初めを読む。だが、


「――読めない」


 一番初めのページは特に損傷が激しかった。最早黄色を通り越して茶色の域にまで達した紙、虫食いが発生し穴だらけになっており、インクで書かれた字は掠れて消えているものまである。手垢で黒く汚れており、紙は触っただけでポロポロと崩れていく。


「これを読めというのか」


「ああ」


 何とも言えない顔だ。俺ができると信じている、そんな顔。


「ああ、もう分かったよ。やればいいんだろ!?やれば」


 そんな顔されて無理だなんて言えるわけないだろう。精々足掻いてやるよ。できなかった時のことなんてその時に考えればいい。今はただ挑戦あるのみだ。


 だからこそ、そう宣言して俺は勢いよく椅子から立ち上がった。そしてウルスラグナを見下ろし、人差し指で彼を指す。


 それを面白そうに彼は見ている。そんな彼の表情がとても気にくわない。ウルスラグナはたしかに麻希の恩人だ。だがこのしてやったりみたいな顔は気にいらない。


 だからこそ、俺は立ち上がった勢いのまま部屋を飛び出したのかもしれない。絶対に習得してやるという気概とともに。だが、この行動さえも彼の掌の上のような感じがして嫌だった。



 ――ちなみに帰り道はかなり怖かった。



 ◆



 俺は部屋に戻ると大きくため息をついた。どうやら、緊張と不安のせいで思っていたよりも体力を消耗していたらしい。今は壁で光っている苔がとても頼もしく見える。


 それにしても、と部屋を見回して思う。この部屋で過ごすのは久しぶりだと。暇があれば麻希の部屋に行ったり、鍛錬をしていたからな。この部屋では睡眠をとる以外していなかった気がする。


 俺は椅子に腰掛けると、先程ウルスラグナにもらった本を取り出した。それを机の上に置き、俺は別の本を本を取り出した。

 それは新品の本だった。まだ何も書かれていない、白紙の本。

 その上を躊躇なくインクを染み込ませたペンを走らせる。処女雪のように真っ白な紙に、黒のインクが染み込んでいく。


 書いている内容は先程貰った本の中身だ。あのままではボロボロで読むことすら難しい。ならば中身を別のものに写せば良い。だが、それは簡単ではなかった。

 普通に、本の内容が分からないのだ。読める部分はまだいい。だが掠れて字が消えた部分や虫食いによって潰れている部分もある。その場所は空白にするほかなかった。


 だが、それでも時間がかかる。だからといってやらなければ、あの本は少し古すぎて読むことができない。なかなかに大変な作業になりそうだ。

 そう思いながら俺は早速写本の作成に取り掛かった。




「よし、一先ずは終わったな。なら、取り掛かろうか」


 写し始めて数時間後、卓上作業ですっかり硬くなった肩を揉み解しながら、そう言って俺は〈身体強化〉のページを開いた。


 自分で書いていたから分かってはいたが、欠損がひどい。空白になった部分が多く、何を書いているのかはよく分からない。だが、分からないなら分からないなりに、察することはできる。


『魔 を  に行き渡らせゆっ りと 透させる』


 例えばこの文。空白が多く何を書いているのかは分からないが、前後の文で見てみれば、


『魔力を  に行き渡らせゆっくりと浸透させる』


 という文になる。まだこの時点では魔力をどこに浸透させるのかは分からないが、それは他の魔法の発動条件や、〈身体強化〉という単語から察するに『全身』というのが適当だろう。


『魔力を全身に行き渡らせゆっくりと浸透させる』


 これが本来の文ということになる。この方法は英語の長文読解で大変お世話になった記憶がある。

 以前の世界の記憶に想いを馳せるが、それをすぐにやめる。麻希の為には一刻も早い対策を練るのが一番だ。こんな事に時間を割いている場合じゃない。


 俺は早速試してみた。だがいまいち魔力を全身に行き渡らせらという感覚が分からない。


「ああ、ここであの鍛錬が必要だったのか」


 俺は魔力操作の鍛錬を思い出し、そして実践する。

 初めは成功した右手でいい。そこから全身に行き渡らせるんだ。


 数秒後、今朝と同じように右手が淡く光りだす。その光を操作する。光は右手を包み込みそのまま胴体部分へと広がっていく。

 そして、光が肩口まで到達した時とてつもない疲労感が襲ってきた。それこそ今朝のものとは比べ物にならないほどに。


「なんか、今日はよく疲れを感じるな……」


 そう呟き、俺は一度本を閉じる。

 これ以上の鍛錬は明日に支障をきたす可能性がある。寝るのが一番。疲れを取るのには睡眠が一番大事だ。


 そう自分に言い聞かせ、俺は寝台に横になった。目を瞑ると、徐々に意識が薄れていく。


 それから宏人の意識がなくなったのはすぐの事だった。



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