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幼馴染を助ける為、異世界を行く  作者: 秋葉月
第2章 城塞都市編
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第2章 2.成功

 


 麻希と会った翌日、俺はまたもや魔力操作の鍛錬を行なっていた。

 いつもと変わらない様子、ではなく今日の俺は自信で満ち溢れていた。

 その理由は昨夜麻希と会った後にある。


 あの後、自室へと帰った俺は軽い気持ちで魔力操作を行った。それも、普段の鍛錬で行なっているよりもリラックスした状態で。

 案の定、光る事はなかった。だが何というか、身体の中の魔力の流れを感じた気がしたのだ。


 少し不審に思ったが、もう一度魔力操作を行った。すると一瞬だったが右手が淡く光ったのだ。

 その光りはすぐに消えてしまい、それ以降光る事はなかった。

 だが、感覚は残っていた。


 それを今、ここで証明してやるという訳だ。

 何故、昨夜出来たのかは分からない。ただ言えることは、あの前に麻希と会って話したお陰で、心の中で燻っていた何かが取り除かれた感じがした事だけ。もしかすると、それが良かったのかもしれない。


 俺は昨夜の感覚を思い出しながら、全身を巡る魔力に意識を集中させる。呼吸を整えて、流れを感じる事が大切だとウルスラグナも言っていた。


 俺は想像する。魔力の流れを、その流れを自らの手で変え右手に集めていく。そして、


「―――」


 目を開けた時、右手が淡く光っていた。昨夜見た光りとは光量が比べ物にならない。

 俺の右手から発された光りは、俺の周辺のみならず、薄暗い森の中を照らし出した。


 それは暖かく、優しい光りだった。これ程までに明るいのに、少しも眩しくはなかった。それどころかどこか心地よさまで感じる。

 これは懐かしい感覚であった。今まで感じた事がないのに、何故か懐かしい。この感覚を俺は昔から知っていたかのような。


「いや、気のせい、か?」


 そう呟くが、答えは返ってこない。


「取り敢えず、収めておこう」


 俺はそう言い、右手に集めていた意識をとく。

 それと同時に気怠さが襲いかかってくる。思っていたよりも、体力を消耗するらしい。

 そんな事を考えていると、


「成功したのか」


「――ああ、やっとな。でも、すげぇダルい」


「当たり前だ、魔力の消費が激しいからな。これは存外魔力を消費する」


 木々の間から、白髪の男――ウルスラグナが出てきた。

 彼は肩に乗った葉や枝を振り払い、こちらへと歩いてくる。

 そして、そのまま俺の頭に手を持ってくるや否や、俺の頭を撫で始めた。


「やめろよ」


 俺は頭に乗るウルスラグナの手を払おうとするが、なかなか上手くいかない。むしろ、余計に撫でられる。

 それに俺は不満を言おうとしたが、見上げた時に彼の嬉しそうな寂しそうな顔が見え、自粛する。


「よくやった」


 その言葉が、俺に投げかけられた。

 俺は嬉しくなった。それこそ、さっき魔力操作に成功した時よりも。今までの頑張りは無駄じゃなかったと分かったからこそ。


 目頭が熱くなる。視界がぼやけ、目から涙という名の水分が出ていく。止めようとしても、なかなか止まらない。それどころか余計に出ていく始末だ。



 ――結局、俺が泣き止んだのはそれから十分ほど経った後だった。



 ◆



「次で最後だ」


 俺が泣き止んだ後、ウルスラグナは唐突にそう言った。

 それに呼応するように、俺は首を縦に振る。それをウルスラグナは見て、俺についてくるよう促してきた。


 俺はそれについて行く。森の中を歩くと今までじっくりと見る機会はなかったからか、半年前との違いに今更ながらに気づいた。あれだけ青々と茂っていた木の葉は紅く色鮮やかな紅葉となっており、其処彼処から虫の鳴き声が聞こえてくる。地面に落ちている小枝は踏むとパキッという乾いた音を立てた。

 それらを見ると如何に自分の視野が狭かったのかを実感できる。それ程までに焦っていたのだろう。


 俺は少し反省する。そして感謝した。

 昨夜麻希に会って話したお陰で、自分の事で精一杯になっていた事を自覚できた。


 暫く歩いていると、ウルスラグナの隠れ家へと着いた。彼が連れてきたかったのはここなのだろうか。

 麻希の部屋を通り過ぎ、普段俺が使っている部屋も通り過ぎる。そして、だんだんと明かりがなくなっていく。

 どうやら向かう先はあの隠れ家、その最奥にある彼の自室のようだ。彼の自室の周辺は光が一切入ってこない。彼自身が光を必要としないからだ。


 そして俺は今まで彼の自室に足を踏み入れた事がない。

 そこに入る理由も無かったのも事実だが、そこには彼にとって何か重要なものがあるのではないかと思っていたからだ。いくら彼が心優しい人物であっても、いやだからこそそれに安易に触れてはいけないと。


 俺は少し緊張していた。いや、少しどころではないかもしれない。それを示すように表情が強張っており、肩に無意識のうちに力が入る。歩くときに手と足が同時に出る始末だ。

 ウルスラグナはそれを見ても何も言わない。今度は緊張よりも不安が勝る。これからどんな事が行われるのだろうか。それは宏人には思いもよらない。


 光がなくなっていき、最後には闇が残っていた。前が見えないが、ウルスラグナの歩く足音を頼りに、彼の後をついていく。


 そして、彼の足音が消えた。どうやら彼の部屋の前まで着いたようだ。

 重い扉を押し開ける音が聞こえる。硬いものと土が擦れ合うような音だ。

 それが止んだと思えば、今度は足音が聞こえ始めた。部屋の中に入ったらしい。


 俺はそれに続き、彼の部屋へと入って行く。足音が背後に聞こえ、続いて扉の閉まる音がする。そして、数秒の間足音だけが聞こえ続ける。部屋を移動しているのだろうか。


 そして、足音が止みあたりに静寂が訪れる。これはまるであの時みたいだ。初めてこの隠れ家に足を踏み入れたあの時。

 あの時は暗闇に心を蝕まれ、騒ぎ立てるという失態を犯してしまったが今度は違う。そのまま堂々と立っている。


 そうしていると、ウルスラグナがいつもの通り光球を作り出してくれた。

 光が俺の顔を明るく照らす。そこには自信満々な俺の顔が映し出されている。


「?どうした」


「いや、トラウマに打ち勝てただけだ」


 俺がそう言うと、彼は訳がわからないと言う顔をした。

 それも無理はない。それをトラウマと思っているのは俺だけだからだ。暗闇など彼にとっては取るに足らないものだろう。


 彼は未だに怪訝そうだったが、すぐに何かを思い出したかのように頭を振る。そして、そのまま岩でできた椅子に腰掛けると、俺の目の前にも同様の椅子を作り出した。

 いや、正確には地面から生えたとでも言うべきか。だがそれをしたのはウルスラグナだと、俺の直感が告げている。


「さて、これで最後だと俺は言ったはずだ」


 俺が椅子に腰掛けると、ウルスラグナがそう言った。

 それに対して俺は肯定で返す。


 そして、


「俺がお前に最後に教えることはこの力、魔法のことだ」



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