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幼馴染を助ける為、異世界を行く  作者: 秋葉月
第2章 城塞都市編
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第2章 1.修行

二章スタートです

 


 ―半年後―


 あれから半年の刻が経った。

 俺は今、ウルスラグナの下で鍛錬を重ねている。

 一刻も早く麻希を助ける方法を見つけたいが、俺はまだまだ弱い。ウルスラグナの協力を取り付けたのだって、彼がいい奴だっただけだ。


 今の俺には麻希を助けられる力はない。だからこそ、この場所でウルスラグナに育てて貰い、力をつけてから旅に出る。ここまでがウルスラグナが考えた案だ。

 だが、鍛錬も楽ではなかった。


 鍛錬を始めて三ヶ月の間は、とにかく基礎体力をつけまくった。筋力トレーニングに始まり、走り込みや柔軟など以前の世界でやっていたものよりも更にハードに、しかもそれを毎日繰り返す。

 初めは辛かった。だが、麻希を助けるために必要なことだと考えれば大変ではなかった。


 次の一ヶ月では身体の動かし方を教えてもらう。やった事は単純だ。森の中を走り回り、ウルスラグナから一時間逃げ切ること、それだけ。

 だが、なかなか難しいものだった。普通に逃げ回るだけではウルスラグナに追いつかれてしまう。後から聞けば、地面に残る足跡や、小枝の折れた跡のようなものを見つけ、追いかけて来ていたようだ。

 それに、障害はそれだけではない。森に住む全ての動物が俺の敵だった。勿論中には凶暴なものもいる。それらの気配を察知し、迂回、逃走しながらの鬼ごっこは熾烈を極めた。


 地面を歩かず木の上を進み、偽装(フェイク)を施しウルスラグナを撹乱させる。五感を研ぎ澄ませ、いち早く気配を察知する。そして以前の世界でパルクールと呼ばれていた技術を独学で身につける事で、俺は奴から一時間逃げ切る事が出来た。


 そのような鍛錬を重ね、今の俺は以前の俺とは比べ物にならないほど成長できたと言える。だが、ウルスラグナの奴はやはりというか強い。今の俺ですら奴の動きを追うことも難しかった。全てが今の俺とは段違いだった。


 今は魔力の使い方の訓練をしている。というか、ここ一ヶ月はずっと。


 ウルスラグナの言っていた通り、この世界には魔力というものがある。そして奴曰く、この魔力を自分の思い通りに操作できれば、俺は更に上の段階に進む事が出来るとの事だ。又、魔力操作が上手くできれば魔法も使う事が出来るらしい。


 魔力を使う事が出来れば、選択肢は限りなく広がる。麻希のためにもなんとか習得したかった。だが、


「やっぱ、何というか感覚が掴めねぇ」


 始めて一ヶ月、未だに魔力を操作することはできなかった。

 なんというか、イメージが上手く掴めないのだ。魔力があることも、操作の仕方もウルスラグナは教えてくれた。だが、俺はそれを知識として知っているだけで、自分のものにはできていなかった。


 例えるならば、中学の時の友人がやっていた耳を動かす事が出来なかった感じだろうか。出来る事は友人のを見て知っているし、やり方も聞いた事があった。でも、動かせなかった。普段意識していないものを急に動かそうとしても難しいだろう。


 俺は焦り始めていた。このままじゃ、いつまで経っても麻希を助ける事が出来ない。一体どうすれば、そう悩む夜も少なくなかった。


 魔力は、全身に流れているとウルスラグナが言った。その流れている魔力を、一箇所に集める。するとその部分が淡く光りだすそうだ。

 イメージしやすいのは手や胸の部分らしい。普段細かく使っている場所や、魔力を生み出す根本の魂のある場所は集めやすいとのことだ。


 だが、今日もいくらやっても上手くいかなかった。


「今日ももう遅いし、帰るか」


 ふと見上げると、空はもう紅く染まっていた。この場所からウルスラグナの隠れ家までは距離がある。完全に暗くなる前に戻るのが一番だろう。

 俺はそう思い、ウルスラグナの隠れ家へと歩を進めた。



 ◆



 その日の夜、俺は麻希のいる部屋へと足を運んだ。相変わらず、麻希は今もウルスラグナの手によって魔力を与えてもらっている。今はまだ副作用は出ていないようだが時間の問題だろう。早く強くならなければと思う。


「麻希、帰ったぞ」


 俺は部屋に入り、椅子に腰掛けながらそう言った。

 寝ていた麻希が目を覚まし、俺を見る。


「おおー、そこにいるのはひろと君ではないですか」


「当たり前だろ?」


「えへへ、それでどうなの?シュギョーの方は」


「――ああ、バッチリだよ」


 俺がそう答えると麻希は少し、顔を曇らせる。だがそれも一瞬の事で、そうかそうかと嬉しそうな顔をした。それはあまりにも一瞬の事で、その意味に俺は気づく事が出来なかった。


 俺が嘘をついたのは意図的だ。麻希は目覚めたその日の夜、異世界に来たという事実に悲しんでいた。俺にとってはそこまで悲しむ事では無かったが、やはりというか麻希はショックを受けたらしい。


 今は落ち着いているが、不安でたまらないだろう。なのに今俺が不安そうにしていれば、麻希の頑張りが無駄になる。俺は麻希の泣く姿は見たくなかった。


 だからこそ、麻希の前では弱さを見せない。見せてはいけない。そう俺は自分に言い聞かせた。


「絶対に、帰る方法を見つけてやるからな」


「ん?」


 俺がそう呟くと、麻希は不思議そうな顔をした。この顔は聞き取れていない顔だった。


「いや、なんでもない」


「?」


 まだ小首を傾げている。俺は麻希の頭を撫で、椅子から立ち上がった。

 そして、


「早く寝ろよ。背が伸びなくなるから」


「むー、子供扱いやめてよー」


「俺にとってはまだ子供のようなものだぞ」


 麻希は頭を撫でていた俺の手を払いながら、そう不服そうに言った。


 俺はそれに軽口で返し、部屋を出る。


「ひろと」


「ん?」


 だが、麻希に呼び止められた。俺は不思議に思い、振り返る。閉まっていく扉の隙間から麻希がこちらを見ている事が分かった。そして、


「あんまり無理しないでね」


 そう、言われた。

 扉が完全に閉まり、辺りが一瞬で静かになる。

 バレていた、のだろうか。どこでだろうか。だが何故それを言わなかったのだろうか。多分気を使っていたんだと思う。自分も大変なのに。


「そういう、ところだよ」


 そう呟き、俺は自分の部屋へと帰って行く。



 心の中で燻り続けていた何かが音を立てて崩れ去っていく。そんな気がした。





『一将功成りて万骨枯る』


功績が目立つ人の影には、それを支えた無数の人の努力・犠牲があるということ。

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