第2話 理不尽な魔剣の力
???「ネガティブなイメージのタイトルはやめとけ」
作者「……あい」
「やべぇな。この力」
予想以上だった。
物事の可能性を全て悪い方向へ無理やり捻じ曲げた。
そんなことを可能とする力だ。
『ふふん。私の凄さが分かりましたか? 崇めてもいいのですよ?』
エルナがこんな性格じゃなければ、素直に賞賛もできるのだがな。
しかし、思ったのだが、これだけ強力な不幸の力ならば、魔物相手でも戦えるのではないだろうか?
魔物とは、別名モンスターとも呼ばれるこの世界の生物であり、強大な力と高い危険性を持っている存在だ。
そして、魔物も冒険者と同じ段階のランクで危険度を分けられている。
だが、魔物の危険度と冒険者のランクは対等ではない。例えば、Cランク数人で危険度Cランクと対等になることもあるのだ。
さらに、魔物の場合は、ランクSの上にSSとSSSが存在している。
試してみたくなった俺は、ギルドを出て、街の外へ向かった。
〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
街を出た俺は、街のすぐ近くにある森の中へと向かった。
俺は腰に携えていた剣を抜き、周りを警戒しながら歩いている。
学校では、武器の持ち込みを禁止されているわけではないので、俺は常に剣を携えているのだ。
暫く歩いていくと、目の前のガサゴソと茂みが動いた。
立ち止まって剣を構えると、そこから一体の魔物が出てきた。
「グギャギャ!」
そんな気味の悪い声を挙げながら茂みから出てきたそれは、緑色の肌を持ち、成人男性の腰ぐらいまでの身長しかない人型の魔物。
ゴブリンだ。
「こいつに力を使ってみるか……」
『さぁ、初めての戦闘ですよ! やっちゃってくださいマスター!』
エルナの声を無視しながら右手に不幸の力を放出させる。
瞬間、青紫色の炎が燃え上がった。
それをそのままゴブリンに投げる。
投げられた不幸はゴブリンの体に纏わり付き、染み込んでいく。
「グギャッ?」
俺の動作が何なのかわからなかったからか、ゴブリンは小首を傾げる。
しかし次の瞬間、ゴブリンは手についた鉤爪をこちらに向け飛びかかろうとした。
その瞬間、ゴブリンの上から折れた木の枝が落ちてきた。
「グギャッ!? ギギャギャッ!」
ちょうど枝が体に引っかかったゴブリンはパニックになり、転げ回りながら俺の足元までやってきた。
俺は呆然としながらも、手に持っていた剣を振った。
「おいおい、嘘だろ……ここまでできちまうのか」
『凄いでしょう? 偉いでしょう? 当然です! 私は完璧、最強、最悪の魔剣なんですから。えっへん」』
なぜか、無い胸を張る子供っぽい女性の幻影が脳裏に浮かんだ気がするが、気のせいだろう。
それはそうと、純粋にこれは凄い。
俺は不幸じゃ何もできないと思っていたが、もしかすると、俺にもできることはあるのだろうか。
『マスター、私の操る不幸の力は、正確には【相手の因果律を悪い方向に行くようにする力】なのです』
ふむ、そういう力か。
どうりでとんでもない結果になるわけだ。
『マスター? マスターは自分が不運だから何もできないと思っているようですが、不運や不幸は行動や物事の結果に対するマスターの受け取り方なんですよ?』
そんなものは知っている。
だから、何だというのだろう。
『結果は初めから決まっているわけではなく、いくつもの可能性があります。つまり、マスターが幸せだと思う結果になる可能性がなかったわけじゃないんですよ? だって、マスターは自分の運が悪いと思ってますけど、今までに楽しいことや嬉しいことがなかったわけじゃないでしょう? 考えてみれば、マスターの人生はもっと不運で不幸だった可能性もあるんですよ? 例えば、マスターの元に現れたのが私じゃなくて、魔王だったりとか』
それは流石にないだろう、と思う一方でエルナの言うことに何となく納得していた。
要は、俺は自分のことを不幸だと決めつけすぎていたといことを言いたいのだろう。
『いえ、マスターは不幸です。記憶を覗いて分かりましたが、それはもう不幸に輪をかけて不幸です』
「…………」
それを改めて言うか?
というか、人の記憶を覗くな。
そういう能力もあるのだろうか?
一度、お互いにできることの確認をしておくべきだろう。
『ですが、運も時と次第によって変わりますし、マスターの望む結果になる可能性はちゃんと残っているのですよ。それに、マスターと戦う相手がマスターより不幸である可能性もあるのです。マスターの運がどれだけ悪かったとしても、その時の相手の運が悪ければ相手の方が運が悪いのです。』
相手が自分より不運になる可能性か。考えたこともなかったな。
それ以前に、何かが上手く行ったことがあったことにも目がいっていなかった。
『マスター? まだ、マスターが諦めるには早いんじゃないですか?』
「そう、なのかな……いや、確かにそうだな……もう一回頑張ってみるか」
『そうですよマスター、頑張りましょう! それに、なんなら私の力を使えばマスターの運よりも周りの運の方が悪くなって最終的にマスターの運が良くなりますしね!』
……いや、確かにそうなんだが。
それを言ってしまうと、
「お前……回りくどいこと言わなくても、それ言えば良かったんじゃね?」
『いや〜、それだとマスターは私無しじゃ生きられない人間になっちゃうでしょ?』
なぜだろう、言い方が無性に腹立たしい。
でも、確かにそうだ。
それだけを先に聞いていたら、俺は不幸から抜け出すために魔剣の力に溺れて不幸の力を乱用していたかもしれない。
うん、心の中ではエルナに感謝しておくとしよう。
そんな風に考えていると、エルナが声をかけてきた。
『それはそうとマスター、魔石を取らなくてもよろしいので?』
「あ、ホントだ。忘れるところだった」
俺は腰に付けていたナイフを取り出し、ゴブリンの胸を割いて、魔石を取り出す。
魔石とは魔物の体内にあるもので、魔力が集まってできた結晶であり、空気中の魔力を吸収して保管したり、制御したりする役割を持っている。そのため、魔力に頼って生きている魔物にとって魔石は心臓と同じくらい大切な器官なのだ。
また、魔石はそれぞれ性質が異なるが、全ての魔石に魔力があり、その性質の良さは魔物のランクや強さによって変わる。
なお、魔石を含めた魔物から回収できる素材や道具、残骸は有効利用可能なものであれば、全て冒険者ギルドで買い取ってもらうことができる。
俺はガンドルフから、暫く暮らすためのお金を貰ったが、それも尽きないわけではない。今のうちから金を貯めておく必要があるのだ。
だから、魔石を回収しなければならない。
「ふぅ、魔石ゲットだ。しかし、小さいよな。まぁ、ゴブリンの魔石じゃこんなものか」
手の中にある緑色の半透明な石を見つめながら呟く。
その直後だった。
「––––––––っ!」
どこからか女性の悲鳴のようなものが聞こえた。
それが聞こえたのは森の奥の方。
『マスター!」
「あぁ、行ってみよう」
俺はエルナの言葉に対して頷き、声が聞こえた方へと駆けだした。
木々を掻き分けて進むと、木々のない丘になっている場所があった。
俺は木々の影から周囲を伺う。
しかし、どこにも人の姿はない。
おかしい。
こちらの方から声がしたのに。
そう思った瞬間、前方の茂みから人が飛び出してきた。
キラキラと輝く水色の長い髪と目の少女だ。
歳は12、13ぐらいだろう。
貴族か何かなのか、水色を基調にした美しいドレスを身につけている。
「な、何でこんなところに子供が……」
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