プロローグ 〜不幸じゃ世界は救えない〜
新作投稿です!
不幸じゃ誰も救えない。
不幸じゃ何をしても意味がない。
全て悪い方向へ行くだから。
勇気があれば何だかんだ。
信じる心がどうのこうの。
愛が、想いが、決意が、覚悟が、それらがあれば願いが叶う。
どれもこれも、どこかの誰かが言った言葉だ。
だが、1つ言わせてもらいたい。
そんなもの––時と場合によって崩れ去る。
運が良ければ、そんなものなくても願いは叶う。
運が悪ければ、どれだけ何があっても願いは叶わない。
結局のところ、世界はそんな風にできている。
それが現実だ。
俺はどうか?
こんな話をするのだから、そんなもの決まっているだろう。
後者、つまり不運な者だ。
俺の名は真野剣誠。
少し前まで日本で暮らしていた高校生だ。
そして、現在俺の目の前には拳が迫っている。
「ぐあっ!」
「へっ、これで俺の勝ちだ」
俺と戦っていた相手はそう言って去っていった。
暫くして、俺は地面に手をついて起き上がる。
そして、体についた埃や土を払いながら、立ち上がる。
俺がなぜこんなことになっているのか。
まず、遡ること1週間前。
〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
その日、俺は誰もいない公園のベンチで寝そべっていた。
すると、突然周囲が光に包まれた。
次に、目を開けるとこの世界『ディストリア』にいたのだ。
そして、目の前には召喚魔術の実験によって偶然にも俺を召喚した賢者ガンドルフがいたのだ。
「いやいや、異世界から呼び出すとか正気かよ!?」
「すまない。まさか、このようなことになるとは思わなんだのだ。責任は取る。儂のできることならなんでも言ってくれ」
そんな会話をしたのを覚えている。
俺は異世界に来たいという願望があったため、召喚されたことを喜んでいたが、何か手に入りそうならと思い、文句をつけてみたのだ。
その結果、小さな一軒家とガンドルフさんが学園長を務めている『フォーチュン学園』への編入を許してもらった。
そして、学園に行ったり、異世界観光をしたりとこの世界を楽しんだ。
ただ、持ち前の運の悪さでトラブルなどに巻き込まれたりはしたのだが。
しかし、学園に行ってみて驚愕した。
学園では、魔物と戦うある程度の戦力を得るために戦闘訓練をしたり、魔法や魔術を学んだりしているのだ。
だが、俺も当初は、異世界から来た人間として何らかの能力を秘めていたりするのかと思っていた。
まあ、ここまで説明すればわかるだろうが、俺が殴られたのも戦闘訓練の模擬戦闘だったからだ。
普段は端っこの方で参加せずに観察しているだけなのだが、今日はできる気がしてやった。
……結果は惨敗だが。
この世界では、強さがものを言う。
だが、俺には強さはない。
特殊な能力もなければ、戦闘も微妙、魔法や魔術を使おうにもそれに必要な魔力を殆ど保有していないため使えない。
努力しなかったわけではないのだ。
俺にも昔は人を救いたいという気持ちはあったのだから。英雄願望はあったのだから。人を助けて、世界を救いたいと思っていたのだから。
しかし、才能がなかった。
いや、その才能がないのも、俺があまりに不幸だからだろう。
初詣のおみくじは毎回、凶以下。自分で引いたおみくじで吉という文字を見たことがない。
人は俺の元から離れていき、歩けばトラブルに巻き込まれる。
両親は俺が幼い頃に他界し、貧乏ながらも祖父の家で生活を続けてきたが、どこへ行っても疫病神扱い。
それが俺だ。
こんな世界で、こんな俺では––
「––こんなに不幸じゃ、世界は救えないよな……」
〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
誰かが置いていったと思われる私物が雑に置かれた教室。
閉まったカーテンの隙間から夕日の光が差している。
ここは、もうあまり使われていない文化部の部室だ。
俺の日々の日課は、放課後にここへやって来てダラけることである。
一種の現実逃避のようなものだ。
誰もいないから、現実から目を背けられる。
だから、毎日通っている。
『へぇー、ここが好きなんですね』
「いや、好きって言うよりはマシって言った方が––って、え?」
誰もいないはずなのに話しかけられたことに驚き、そちらを見ると黒い玉が空中に浮かんでいた。
握り拳より少し小さいぐらいだろう。
「なっ、何だコレ!?」
俺は驚いて尻餅をついた。
すると、その黒い玉が明滅し、女性の声が聞こえてきた。
『私は魔剣。魔剣エルノヴァールです』
「魔剣? どこをどう見て剣なんだよ?」
『今は実体を精神存在に消化している状態にあります。マスターとなるべき人物に握られた時、契約は成立し、私は真の姿へと変わります』
「はぁ?」
何言ってんだこいつ?
精神存在? マスター? 契約?
一体、どこの魔法少女アニメから出てきたんだよ。
ってか、一応、何を言わんとするのかは分かるが、取り敢えず契約ってのは何だ?
『はい、マスターに私の力を提供する代わりに、マスターには私を使って、私の力で戦って欲しいのです』
へぇ、ますます魔法少女みたいな契約だな……ってか、
「お前、俺の心を読んだのか!?」
『はい。私はマスター適性を持つ方の心を読み取ることが可能です』
「ということは、俺がマスター適性を持ってるってことか!?」
『はい。魔剣をその手に世界を救う英雄となるも、世界を破滅に導く魔王になるも、マノケンセイさん、あなたの自由です。さぁ、私を手に取って魔剣使いになってください。さぁ、早く!』
じゃあ何だ? 俺に魔物と戦えと? 冗談じゃない。
俺はもう誰かのために何かをしようという気はないのだ。
俺はゆっくりと立ち上がりながら答える。
「悪いが、断らせてもらう」
『……え? 今、何と!?』
俺がそう答えると、エルノヴァールは俺が何を言っているのかわからないとでも言うかのように困惑し始めた。
「魔剣使いにはならないって言ったんだよ」
『そんな!? それは困ります! あなたには私のマスターになってもらいたいのです!」
「そうか、それは残念だったな」
何度頼まれようと、俺は何をする気もない。
これまでだって何かをしようとして、失敗してきたのだから。
不運で不幸な俺には何も成せないのだから。
だから、もう期待はしない。
何もしない。
『……そうですか……分かりました』
「さぁ、分かったなら帰ってくれ」
『……では、実力行使でマスターになってもらいます!」
そう言うと、エルノヴァールは俺の右手めがけて飛んできた。
「は? うわっ、危なっ! お前、ふざけんなよ! 呪いのアイテムかっての!?」
俺は体を反らして、間一髪で躱しながら言った。
『魔剣も呪いのアイテムも似たような者です!』
タチ悪過ぎるだろ。
そう思いながら、俺は拳を振り上げる。
殴り飛ばしてから逃げてやろうと考えたのだ。
「どっか、行けっ!」
そう言って拳を振った瞬間だった。
目の前のエルノヴァールが消えたのだ。
文字通り、跡形もなく。
「ど、どこへ行った?」
俺は部屋中を見渡すが、あの黒い玉の姿はない。
まさか、倒した? それとも消えた?
『……こ、これは一体!? まさか……なるほど、そうなりましたか』
ん? 確かに、エルノヴァールの声が聞こえる。
しかし、どこを見ても黒い玉の姿はない。
『私はここですよ、マスター』
声のする方を見ると、そこには俺の右腕がある。
よく見ると、右手の甲から肩にかけて、薄っすらと青紫色の模様のようなものが見える。
「まさか、契約が成立したのか!?」
俺は、やってしまった、と自分の行動を後悔しながら呟いた。
だが、エルノヴァールはそれを否定した。
『いえ、契約は失敗しました。恐らく、もう契約は不可能です』
「マジか、よっしゃ!」
俺は拳を握ってガッツポーズを取る。
契約が成立しなかったなら俺の勝ちだ。
そう思ったからだ。
しかし、現実はそうではなかった。
『しかし、私はマスターと融合してあなたの右腕と同化しました。契約はしていないためマスターに私を使う義務は生じませんが、あなたは私の力を使うことができますし、もう2度と離れることはできないでしょう』
「……え?」
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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本日午後4時に1話を投稿する予定です。
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