1、はじまり
瞬間、煌めく右アッパー、一閃。
私の拳は見事に彼女の顎を打ち抜いた。
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「んで、なぁんでこれがたったの10センぽっちなわけ? 半月前までは25センだったじゃない」
「か、勘弁してくれよお嬢ちゃん……。ここ半月でスライムは大量発生してんだ。今じゃ俺の店の倉庫もスライムの肝で溢れかえってる」
「ちっ……わかったわよ」
荒々しく230センの入った袋を引っ掴んで、店の椅子に腰を下ろしたミディアムショートの黒髪の女性。名はアオ。齢は19。本人としては非常に不服だが、この辺りでは孤高の一匹ライオンとかいうダサい名称で呼ばれたりもしている。
「なあ、嬢ちゃん、あんた腕っぷしがいいんだからさっさとペアを組むってこった。そうすりゃあスライムなんかよりずっと強えやつに挑めるだろう」
言われて、アオは辺りを見回す。酒場にいるほとんどの人間がペアだ。
そう、この世界にはペアというシステムがある。
ペアシステムではある特定の人物と組むことにより、様々な力が増強されるというものだ。ある人は魔法が、ある人は力が強くなるといったふうに。
ペアシステムにはいくつかの決まりごとがある。
一つ目に、ある特定の人物は誰でも良いというものではない。ペアとなる人物と出会ったとき、意識せずともその者との繋がりを感じることができるらしい。
二つ目に、ペアを組めるのは一人だけであり、解消できるのは死別したときのみ。
三つ目に、ペアの対象となる人物は一人だけでなく、複数人存在する。より、自分に合ったペアを見つけることが鍵となる。
四つ目に、ペアとなる二人はお互いが愛し合っているほどに力が強くなる。
ざっとこんなところである。最後の決まりごとのおかげでペアには異性同士や親子で組んでいるものが多い。中にはライトに狩りを楽しむが故に友達同士で組んでいるものもいるが。もちろん愛し合っているのであれば同性であっても力は増す。
「いたら苦労してないっての。そもそも作る気もないけど」
強くなるために誰かといるだなんて、そんなの馬鹿らしい。かと言って運命の出会いなんて信じちゃいない。黙ってその辺の雑魚を狩るのみ。アオはそういう性格なのだ。しかし、そんな生活が一変するなんて、誰が思っただろう。
少なくとも、この時のアオは、そんな日が来るなんて思ってもいなかったのだ。