まやかしの友情
戦闘の疲れを癒すため、大きな木の下に座り込んだ俺たちの元に、内田が先生の後ろについて歩いてきた。
「颯斗……お前!」
「ごめん……ごめん……」
険しい顔になりながら拳を握り締める内田。自分でも嫌だったのだろう。だが、お前は仲間を捨て自分だけ助かる選択をした。
「まず、どういう経路で囲まれたのかを説明できる?」
ミントが優しく語りかける。
明石は思い出すように人差し指をこめかみに当てて考えた。
「最初はよ、枝野の能力でバンバン倒せてたんだ。だから今村が先に進もうって提案してきて……俺はこの辺りで狩りをしてた方がいいって言ったんだけど」
「俺は悪くないぞ! 枝野だ! 枝野の能力がしょぼいからこんなことになった!」
「俺の能力がしょぼいだと!?」
喧嘩すんなって。
とりあえず枝野の能力を聞こう。
「枝野、お前の能力ってなんだ」
「あ? なに呼び捨てしてんだよ。はぁ……ソードショット、魔力弾を剣の形にして飛ばす能力だ」
お前らは俺の中で切り捨て対象だからこの態度なんだよ、指示出しの時の口調は誤魔化しきれないからな。
状況判断とかを担当したいって言ってこういう口調にするって説明しようかな。
「ソードショット……で、その能力はゴブリンに効いたのか?」
「おう、明石が言ってたようにガッツリ効いた。だけどな、奥に進むにつれてあいつら弾くようになりやがった。それでも倒せないことは無かったから、先に進んだんだ」
「それで、囲まれたと」
「ああ」
なんとか勝てる、という戦力で先に進むのは失敗だな。余裕を持って戦えないと安全とは言えない。まあ戦ってる時点で安全性など皆無だが。
「内田、こっちこい」
「なんだよ」
「いいから来いよ」
「っ……」
反省をしていない、自分のした事が間違いではないと思っているからだ。
間違い、確かに間違いではない。もしパーティ仲間が面識のない相手なら、切り捨てるのが正解だろう。
しかし、今の仲間は同じ学校の同じクラスの友達だ。そんな相手を裏切ったら、たとえ助かったとしても面倒くさいことになる。
「内田、お前なんで自分だけ助かろうした?」
「……死にたくなかったから」
「だよな、正直、俺はお前の行動は間違ってないと思ってる」
「!?」
全員が息を飲んだ。
信じられないものを見るような目で、俺を見てくる。
「もしだ、俺たちが助けに来なかったら、どうなってたと思う? 他の四人は死んで、自分だけ助かる。それで命からがら逃げ帰ってくる。助かったお前は皆に同情され、心配され、帰ってきたことを褒められる。いいことじゃないか、本来なら全員死んでたんだ」
男五人が地面をただひたすら見つめる。
何も言い返せない、あの場で全員助かる可能性はないと実感しているのはその場にいた五人だ。
だが下を向いている一人が顔を上げ、口角を上げた。内田颯斗だ。自分の罪意識が減り、心に余裕が出来ている。
「じゃあ」
「でもな、お前は仲間を利用した。騙して、逃げたんだ」
「なっ……それは……」
「全員に希望を与えさせ、岡本を利用し、自分だけ逃げた。自分だけでも逃げると告げたなら、まだ話は違ったかもな」
ただ逃げただけなら素晴らしい功績だ。生きて帰ってくることは、何よりも大切なことだから。
誰かの生きた証を伝えることは、偉大な事だから。
「一旦戻りましょうか、死にかけたんですし」
「そ、そうですね。みなさん、休憩所に戻りましょう!」
再び俯いてしまった内田をチラリと見て、帰路につく。
ゴブリンが落とした素材は、小角が四つか、あまりいい素材じゃないな。
昨日もゴブリンが小角を落としたのだが、拾ってもメリットがないと判断して拾わなかった。ゴブリンの素材はそこまでいいものは無い。
「ユウト……言い過ぎだよ」
「あいつらはもうダメだ、多分だが、リビアルがなにか罰を与えるはずだ。その前に反省させた」
「罰……」
ただでさえBランクなのだから、成果を出せなければ簡単に切り捨てられる。
リビアルなら、そのくらい平然とやってのける。そこにはシビれも憧れもしないが。
「神裂、なんか雰囲気違くね?」
「俺は指示を出すのが向いてると思ったから、この口調でいくよ。慣れてくれ」
「ふーん」
井ノ原が心配してくれているが、安心しろ、これが今の素だ。
俺が演技をするたびにミントが変な顔をするので、こっちの方がいいだろうという判断だ。
「神裂くん、凄いね、僕じゃあんなこと言えないよ」
「間違ったことは指摘するべきだと思ってね、ですよね、先生」
「え!? ま、まあ、そうですね。反省させるべきです」
後ろについてきている男組を横目に、俺たちは度々ゴブリンと戦いながらリビアルのいる休憩所へ向かった。
あと、道中でもイアやザンには会わなかった。まだ来てないのかな。
* * *
休憩所に戻ると、兵士が馬車の荷台に腰掛けて談笑しているのが見えた。
テントに入ると、リビアルが何やら紙に文字を書いていた。クラスメイトの名前……その上に、バツ印?
俺たちが帰ってきたことに気づいたリビアルは、その紙を畳んでしまった。そのため、誰にバツが付けられているのかは見えなかった。
「どうした? まだ時間には早い、早く戻れ」
「もう片方の班でいざこざがありまして」
「いざこざ……? 話せ」
「先程森の奥で——」
俺はリビアルに森の奥で起こったことを、一から説明した。
そして聞き終えたリビアルは後ろで小さくなっている内田を睨むと、小さく咳払いをした。
「お前らはもう周辺の探索のみでいい。離れなければ班で行動しようが個人で行動しようが構わない。いいな?」
「わかった、行こ、みんな」
リビアルにいいイメージのないミントが素っ気なく答え、皆を連れてテントから出ようとする。
「神裂雄人」
「はい?」
「お前は……Cランクだろう? なぜ落ち着いていられる」
「周りが強いからじゃないですかね……それでは」
前々から疑われていたのは知っていたが、これ以上踏み込まれると厄介だな。どうしようか。
そんなことを考えながら、テントの幕を開いたまま待っていてくれたミントの元へ歩いた。




