魔の森深部
あれから、着々と戦闘を繰り返した。
相良の千里眼で、三匹以上の魔物の群れには会わないようにしたため、そこまで苦戦はしていない。
風間のエアーコントロールは空気を操る能力で、そこまで巨大な空間は操れないが、自分の半径三メートル以内の空間の空気を自在に操れる。
風の刃で斬ることもできるので、かなり戦闘向きではある。が、一人での戦闘には少々攻撃力が心もとない。
「ミントちゃんの魔法? はとても強いですねー、足を拘束できるだけでもみんな楽に戦えるようになりました」
「本当ですか? ありがとうございます!」
ミントには抑えてもらって、少し植物を操る程度ということにしてもらった。
それでも足に絡みつく植物は強靭で、ちぎれることなく魔物の動きを止めてくれる。
さらに進んだ先で、違和感を覚えた。
木々の色が、草の色が、どんどん黒くなっていく。
門あたりでは綺麗な緑色だった植物が、休憩所では深緑、今ではさらに暗い緑へと変わっている。
「だんだん暗くなってますね」
「ここの葉っぱ、凄く硬い」
藤沢が腰の辺りまで生えた雑草を触っていたので、俺もその葉に触れてみる。
ゴワゴワとした葉だ。魔力の色が染み込んでいるのだろう。森の奥地で採取した植物で作られた紐は強度があるので、カゴなどに加工することが多い。
「うわあああああ!!!」
遠くから声が聞こえた。小さな声だったが、確かに、耳に入ってきた。
「聞こえた?」
「きっと明石たちだし、行く?」
行かなくていいんじゃね。部屋広くなるしいいことだらけだよ。
と、本心を言うわけにはいかない。別にクラスメイトに同情なんてしないが、これから一緒に行動する仲間がそれを許してはくれないだろう。
人に合わせる、それは社会に出た時にとても大事なことだ。
「もちろんです、さあ、行きましょう!」
先生が走り出す。足は早くないが、焦っているのがわかる。
声のした方向に走ると、赤い光がちらほらと見えた。魔物だ。一匹二匹ではない、軽く十は居る。
「く、来るな!」
囲まれた五人は、ジリジリと身を寄せ合い、剣を前に出している。
明石、硬化の能力ならダメージを減らせるはずなんだが……。
「枝野が奥に行こうとするからこんなことになったんだ!」
「なんだと!? 今村ァ! お前が一番役に立ってないくせに何言ってんだよ!」
険悪なムードが流れてますね。あれが五匹のオスザルですよ。
「岡本、合図を出したらハイパーボイスでゴブリンの耳を塞いでくれ」
「わ、わかった。何か案があるんだな?」
「……ああ、頼むぞ。さん……に……いち!」
「ハアァアァアァアァアァアァアァアーーーーーーッ!!!!」
突き抜けるようなハイトーンシャウト。遠くにいる俺たちでさえ耳を塞ぎそうになる。
これを近距離で聞いているゴブリンは皆混乱して身動きが取れなくなっていた。なるほど、敵の動きを封じることが出来るのか。仲間の動きも封じてるけど。
「……すまん」
「颯斗……? おい、今なんて……」
内田の髪の毛がゆらゆらと揺れる。能力を使っているのだ。ハイスピードムーブメント、高速移動が能力なら、今内田が助かる方法は一つ。
ビュンッと、風が吹き、影が高速で移動する。
先程まで内田がいた明石の隣には誰もいない。影の移動した方向を見ると、十メートル程先にある木にぶつかっていた。
木の葉がパラパラと落ちる。骨が折れたであろう内田は、地面を這いながら必死に逃げようとしていた。
「あいつ……!」
「なにィ!?」
友情が崩壊する瞬間を見た。残された四人は、絶望と怒りが混じり合った表情をしている。
「内田くん!」
「向こう優先にしましょう、裏切り者の裁きは後です」
「……そう、だね。まず魔物を倒そっか」
「わかりました……でも終わったら治療します」
「ご自由に」
わかってきてるじゃないか、ミント。
さて、どうすっかな。力を使うわけにもいかないし。
「風間さん、風の刃を飛ばして、井ノ原さんは毒をひたすら投げて。ミントが植物で足止め、残りは剣で特攻で」
「うん」
「頑張ってね」
指示出しをしてしまったが、俺が指示を出さないと戦えないような気がして、指示を出した。
みんなからの俺のイメージが変わってしまっただろう。今更感あるけども。
「明石! ウチらが着くまで耐えるし!」
「井ノ原! た、助けてくれ!」
まともなのが明石と岡本だな。残りの二人は口喧嘩してるし。
「ミント、少し本気出していいぞ」
「やったっ」
ミントが走りながら植物に集中する。
雑草が海藻のような動きをしたと思ったら、茎が伸びてゴブリンの足に巻きついた。
同時に、十匹ものゴブリンをだ。
「……すごいな。今だ! お前らも斬れ!」
明石や岡本たちに大声で指示を出す。心臓、足、と斬り付け、魔物を魔力に還す。
魔物なんて所詮魔力で作られた泥人魚だ。中身も心もない。だから、躊躇いなんていらない。
数分、たった数分の出来事だったが、とても長く感じた。
最後のゴブリンが消えた時、明石たちは膝をつき、剣を落としていた。
「先生、内田くんを連れてきますね!」
「内田……」
内田の名前を聞いた瞬間、皆の表情が暗くなる。
先生、あんたは優しすぎるんだよ。貴重な魔力を、そんな奴に使う必要は無い。
「とりあえず、みんな座って落ち着くし」
「そうそう、生きてるんだからもっと喜べー?」
ギャル二人が場を和ませてくれている。
先生が内田を治療している間。俺たちは冷めやまない戦闘の余熱を感じていた。




