風呂無しボロ屋
一旦城から出て、小屋の扉のある面に移動する。
その小屋を見たミントは、ただただ立ち尽くしていた。
たしかにボロいよ? でもさ、住めば都って言うじゃん? 慣れればきっとね、いいところなんだよ。
だめだ、言い訳に俺の願望も混ざっている。
「ここ……?」
「おう」
「お風呂って、ある?」
「浴場は城内にあるけど、俺たちじゃ使わせてもらえないよ」
絶句、という言葉がこれほど似合う顔をするとは、流石に驚きだ。
ミントは首をギコギコ動かして俺を見つめ、カタカタと震えた。
そして、言葉を発した。
「ユウト、お風呂作って」
「無茶言わないでくれ」
こちとら普通の人間演じてるんじゃ。
Q.普通の人間がお風呂を作れますか?
A.作れない、無理。
「しばらくお風呂入れないのかぁ……」
「頑張りに応じて使えるようになると思うし、一応シャワーは全員使えるから汚れの心配はしなくていいよ」
なにせ行動範囲に城内が含まれているのだ、ある程度の汚れも城としても気を使うのだろう。
シャワーがあるのは本当に助かった。別に自分で汚れを落とすこともできるが、クラスメイトのモチベーションに関わる。モチベーションだけで戦績も変わってくるからな。
「中は掃除したので外装よりは綺麗なんですよ、といっても神裂くんがやってくれたんですが」
「へぇ、そうなんですかぁ。へぇー!」
「早く入りましょう」
ミントから「ユウトが掃除したんだ!」という視線を感じたので咄嗟に回避する。
俺だって綺麗なところで生活したいさ、数百年酷い場所で過ごしてきたんだから。
それにしても暗いな、今日は月の光が強いからギリギリ見えるが、普段はこの時間になったら寝るしかすることがない。
「……あれ? なんか違くね?」
扉を開け、部屋に入ると、謎の木箱などの部屋を圧迫していた物がきれいさっぱり無くなり、寝床が布から敷物に変わっていた。相変わらず暗いが、なんとか、見ることが出来る。
ミントが来たことによる効果か。どかすにどかせなかった置物が無くなったので、以前よりも余裕が出来た。
「人が増えたら狭くなるから、それを配慮してくれたんだと思う。それでも広くはないけど」
「十分十分、お尻が痛くならないだけでも全然マシだし」
隣の部屋から野太い声が微かに聞こえた。あちらも寝床が変わっているのだろう。
というかちゃんと壁があるのに声が聞こえるってどんな欠陥住宅だよ。何パレスだよ。
「ん? なんだろうこれ、クリスタル?」
相良が部屋の中心に置かれていたクリスタルを見つけ、手に取った。
金属の板にはめ込まれたクリスタル、見るからに道具なのだが、皆使い方がわからないようだ。
「あ、それはね、ここに手を当てて……」
ミントが相良の持っているクリスタルの金属部分に手を当てる。
すると、そのクリスタルが青白く光り輝いた。クリスタルは周囲を照らし、今まで見ることのなかった夜の部屋をはっきりと見ることが出来るようになった。
「照明……」
「明かりだし! これで早寝しなくてもすむし!」
「井ノ原さん、夜更かしはいけませんよー」
「わ、わかってるし」
各々明かりに喜んでいる中、俺は相良からクリスタルを受け取り、観察した。
光魔石とは違う、光るクリスタルだ。原理は同じだが、光量の調節ができる。まさに置き照明だな。
なるほど、この世界にも光るクリスタルは存在したのか。まだまだ知らないことだらけだな。
これの小さいバージョンが机の上にあると便利だろうな。案外、貴族の娘が使っているのかもしれない。
「明かり、なかったんだ」
「ああ、といっても、一日だけだけどな」
それぞれの寝床に移動する先生たちを見ながら、ミントと会話をする。小さい声なので、他の人には聞こえてはいないはずだ。
突っ立っていても仕方が無いので、俺とミントも寝床に座り込む。なんで隣なんだ、確率どうなってんだ。確率機か、ゲーム機とか貰えちゃうのか。
「ミントってさ、どこからきたん?」
「中央大陸の小麦村っていうところからだよー、静かでいいところなんだー」
たしかに静かだけど例外はいるよな。レッドとかレッドとかレッドとかな。
静かでのどかで、あそこに住みたいって思ったのが始まりだったっけ。それなのになんで俺はこんな所にいるのだろうか。人生何が起こるのかわからないね。
というか俺の人生ハチャメチャすぎるよな、最終的な性格が楽に考えられる性格で良かったと思ってるぜ。
「じゃあさ、魔物とか、魔大陸についてとか知ってるん?」
「あんまり戦闘とかしたことなかったから、そこまでは知らないかなぁ、一応魔大陸で何匹かゴブリンを倒したけど」
「ゴブリン! あの序盤に出てくるザコ敵だし!」
どうやら最近の女子高生のゴブリンのイメージはソシャゲの敵キャラらしい。
男はみなRPGの敵を思い浮かべるというのに。これがギャルと一般人の違いか。
「さっきもしたけど自己紹介するし、ウチは井ノ原美咲ね、ミサキって呼んでいいよ」
「よろしくね! ミサキちゃん!」
「あたしは風間南だしー、よろしくー」
初めて名前知ったよ、お前だけ謎だったんだ。やっとモヤモヤが晴れた。
相良に藤沢に井ノ原に風間、川内先生とミントね。うし、頑張って覚える。
「私は、藤沢文乃。よろしく」
「ミナミちゃんとアヤノちゃんだね、よろしく!」
おお、下の名前までコンプリートしたぞ。相良透也、藤沢文乃、井ノ原美咲、風間南、川内めぐみ。よくもまあ個性の強いメンバーが集まったものだ。
「僕は相良透也、こっちは相棒の神裂雄人」
「ピッカァ! じゃねぇよ、ふざけんなよ」
咄嗟に反応してしまった。てかなんで反応できたんだ、何百年前だと思ってんだ。
「ちょっ! 神裂、何その声っ! きゃははは!!」
「あっはははは!!」
「んっ、くっ……ふふっ」
「?」
俺のノリツッコミにギャル大爆笑、藤沢も吹き出して顔を隠しながら笑っている。和んだのはいいが、悲しいかな、ミントにはネタが通じていない。
「笑いすぎでしょ、先生、ミントに他の生徒の名前とかも教えた方がいいんじゃないですか? 目立つ生徒だけでも」
「そうですねぇ、ではSランクに選ばれた五人の名前と特徴を教えますね」
よし釣れた。先生と二人きりになれるタイミングがなかったのでSランク組の名前だけでも聞き出そうという作戦を思いついたのだが、まさかこんなに簡単に成功するとは。
既にクラスメイトの名前を知っている四人は、いつの間にか仲良くなり、雑談をしている。
真夜中、先生のクラスメイト説明会が始まった。
一方その頃、隣の男部屋では、照明のつけ方がわからず、既に就寝モードに入っていた。




