準備時間
メビウス城の裏にある林、その木陰に転移し、バレることなく城内に戻ることが出来た。
そもそも戻るというか俺の住んでいる場所は氷霧亭なんだが、まあ現在の睡眠場所ってことだから戻るで合ってるか。
城内を歩いていると、兵士が走っているのが見えた。
その兵士に続いて、次々と他の兵士もどこかに向かっている。
どこに向かっているのだろうか。
「すいませーん」
「あ? なんだ?」
「皆さんなんで急いでるんですか?」
「リビアルさんから召集がかかったんだ、お前らにも知らされることだと思うから、お仲間さんにも準備しておくように言っておけ」
それだけ言うと兵士は遅れまいと再び走り出した。
きっとミントについてだろうな、リビアルから召集がかかったということはもう戻ってきているのだろう。
まあまあ長い階段だったはずだが、兵士に担がれでもしたか。
「……これもしかして俺が先生たちに教えなきゃいけないのか」
気づいた時にはもう時すでに遅し、いつの間にか役割が決まってしまった。
運良く小屋に近い場所だったため、それほどめんどくさくはない。でもちょっとめんどくさいから早く小屋に行こう。
早歩きで小屋に向かい、扉を開ける、部屋の中には全員が揃っていた。
「あ、やっと帰ってきましたね。待ってましたよ、神裂くん」
「なんでみんな集まってるんですか? 先生」
「私は魔力切れで疲れちゃってて、他の皆さんは暗くなる前に街から帰ってきたらしいんです」
先生はヘリドに倒された生徒の回復をしてたから、疲れるのも無理はない。
というか先生の回復能力はこの世界では完全にチートなんだが、なんでBランクなんだろうか。
やはり魔力量か、いくら便利でも使用回数が少なかったら使えないもんな。戦場で魔力切れをおこしたら邪魔なだけだ。
「僕はお城を歩き回ってたよ、いろんな発見があってよかった。このお城って凄く高いんだね」
「私も歩き回ってたけど、あんまり発見はなかった、と思う」
相良と藤沢は城の探索か。藤沢はただ歩いていただけのようだが、相良はどこまで行ったのだろう。
高い、というワードが出たということは最上階まで登ったのか。
相良の千里眼を使えば、城からかなり遠い場所まで見えるはずだ。もしかしたらマールボロの拠点とか見えてたんじゃないのか? まあいくら千里眼と言えどはっきりとは見えないだろう。
「それで、神裂くんはどこに行ってたんですか?」
「街で適当にぶらついてました」
「え? あたしもぶらついてたけど神裂見なかったよ?」
おおっと、この二人が街に行ってたのか。なんとなく予想はできていたが、言い訳をしなければ。
「広いんだから、必ず会うわけじゃないと思うよ」
「あっそっかー、確かに、それあるわー」
「だよね」
よかった、井ノ原が単純で。でも実際行く方向によっては会わないからセーフ。嘘は言ってない。
街にいたと言った時点で嘘でした、てへぺろ。
「そういえば兵士さんが召集をかけられてましたよ、俺たちも集められることになるかもしれないです」
「そうですね、リビアルさんに何かあったようですし」
「私も見ましたよ、なにか騒ぎがあったみたいです」
それ俺や。すまん。と言うわけにはいかず、話を聞いていく。
「リビアルさんの怪我を治していたんですが、切り傷だったんですよね、足には擦り傷もありましたし、何があったんでしょう……?」
「あれっしょ、大魔王に攻められたんじゃない? そりゃないかっ、あはは!」
能天気だな。ん? 大魔王に攻められた? 半分正解じゃねぇーか、天才かよ。
でも本当のノワールは大魔王の顔すら知らないので全部不正解なんだけどね。
「もしかしたら敵の撃退に使われるかもしれないですね、すぐに行けるように準備だけはしておきましょうか」
「ですね、隣の男子にも伝えてきます」
先生はゆっくりと立ち上がり、隣の部屋に行ってしまった。疲れてるくせに、しっかり休まないと明日辛いぞ。
リビアルの治療をした、つまり既に魔力がほとんどない状態で治癒能力を使ったということだ。先生、休んでくれ。
「昨日今日であまり冒険者らしいことはしてないから、明日、外に出て戦闘をする可能性があるんだけど、みんなは覚悟とかした?」
「僕は、千里眼しかないから、あんまり戦闘は参加できないかな……自力で魔法を覚えて、剣を使えるようにならないと……」
「私も、頑張らないと」
相良は、指揮の方が向いているのではないだろうか。戦場で遠くまで見れる、それだけでかなりのアドバンテージになる。
藤沢は強くなれば化ける能力だからぜひ強くなってほしい。全員、まずは魔力量からだな。
「覚悟はしてるけど、正直不安だし」
「あたしも、完全に風を使いこなせてないから不安かな」
ギャル二人は未知の体験に不安を感じているようだ。この二人の能力は毒と風だっけ。毒で弱らせて風の刃とかで攻撃すればいい感じの連携になるんじゃないか?
「戻りました」
「先生、隣はどうでした?」
「あまり元気がなかったですね……殴られたことを忘れられないみたいです」
「……そうですか」
男子五人。名前はわからないが、顔や腹を殴られ、叩きつけられ、ボコボコにされていた。
昨日までただの高校生、いや、今もただの高校生だ。その高校生が現実にはありえない大男に殴られたのだ。トラウマものだろう。
その後、情報共有として今日あったことについて話していると、兵士が俺たちを呼びに来た。
全員、集合しろ、とのことなので隣の部屋の男と合流して、兵士の後に付いて行った。
その先にいるはずの、ミントに向けて。




