予想外
魔大陸から、メビウスへ馬車で移動した俺たちは、城の裏から城内に入り、応接室に案内された。
見覚えのある装飾の部屋。どの部屋も似たり寄ったりの装飾なのだろう。ミントは初めて見た青くキラキラ光る床と天井に目を輝かせているが。
マールボロ城だって綺麗だったろ、こんなに色鮮やかな建物じゃないけど。
「ユウ……ノワール。リビアルさんどこいったんだろうね」
「着替えてるんだろ。あと、今のうちからノワール呼びに慣れとけよ」
「うん、気をつけるね」
無駄にふっかふかなソファーにもたれかかる。鎧でソファーに座ることに、罪悪感はなかった。少しほつれている気がするが、気にしない。
盾を背中につけたままだと座りにくさがあるので、アイアスには魔袋に入ってもらう。腰につけている剣の鞘も、いつも使っている鞘とはちがう鞘を使用している。これはユウトとしてノワールを使った時に怪しまれないようにするためだ。
暇なので部屋を見渡す。相変わらず青々とした城だ。青は目に優しいとはいえ、流石に目が痛い。
ドアに気配を感じた。リビアルが来たのだろう。
「リビアル様、どうぞ」
白髪の執事がドアを開け、リビアルが入ってくる。青を基調とし、赤い装飾が施されている服を着ている。かなりいい素材の服のようだ。
「ヘリド、お前も入れ」
「うす」
リビアルに続いてヘリドも入ってくる。まずいな、雰囲気でバレたりしないだろうか。あれだけ至近距離で戦闘したのだ、仕草などでバレる可能性もある。
あの大男にそんな繊細なことができるようには見えないが。
「大きい人だね」
「リビアルを守るための兵士だ、気をつけろよ」
それよりも気になることがあった。
ヘリドは、武器を持っている。
それもとても大きな武器。両刃の斧、バトルアックスだ。
あれを振り回す筋力があると考えると、かなりの脅威である。
「さて、ここまでの道のりで気が変わったりはしていないかな、ミント」
「私はあなたの妻になんてなりません」
「ははっ、そうか。はははっ、俺はこの男よりも魅力がないか」
「それは……」
流石のミントでも王子に向かって魅力がないなど言えるはずもない。
どう返す……?
「リビアルさんは、もちろん魅力的なお人です。ですが、私はノワールの方が魅力的に感じているんです」
「……へぇ、ますます欲しくなったな。ノワール、貴様、王子との対面に兜を脱がぬとは何たる無礼か、理解しているのか?」
「……」
沈黙を貫く。
素顔を晒してしまえば、神裂雄人に興味がなさそうなリビアルといえ、顔を見ただけでバレてしまうだろう。
「顔を晒せない理由でもあるのか? もしや、魔大陸の者ではあるまいな」
「さあな、それよりもう帰してくれないか、ミントもここに嫁ぐつもりは無い、これ以上話をしても、無駄な時間を過ごすだけだ」
「城へ入り王子にその口の利き方、おまけに態度も悪いときた。こんな男が俺よりも好かれるなど、笑わせる」
リビアルは俺を見下しながら、鼻で笑った。
この男の目は、本気で俺を下に見ている目だ。舐めきっているという意味ではない、自分よりも、劣っている、自分の方が優っている、優れている。
それを信じて疑わない目だ。
これだから、頭の硬い王族は苦手なんだ。
「少なくとも、よく知りもしない女に求婚をして、断られたからと言ってイラついて八つ当たりする人間よりも、俺は魅力があると思ってるよ」
「ふっ、ふははははっ! ああ、久しぶりに面白い男と出会えた。もう話は終わりだ、キッパリと諦めよう」
その一、こういう強欲なやつは、キッパリと諦めるなんてことはしない。
「じゃあな」
リビアルはそう言うと、俺に向けて黒い瓶を投げた。
目の前が黒く染まる。もくもくと広がる黒い煙。煙幕だ。
これでは暗視を使っても効果がない。やられた、まさか煙幕を使ってくるなんて。
簡単には諦めないとはわかっていたが、ここまでするとは。脳筋チンパンジーではなかったか。
「こっちへ来い!」
「きゃあっ! ユ……んぐっ」
「ミント!!」
その二、相手の目を塞いだら攻撃を仕掛けてくる。
ガツンと体に重い衝撃が走る。
背中を何かで殴られたようだ。となると、ヘリドのバトルアックスか。
「ゴォラァ!」
ヘリドもこの黒煙の中では俺をはっきり見えてはいないようで、命中率が上がるように横薙ぎに振り回している。
俺はそれを難なく掴む。風魔法で煙を吹き飛ばしながら。
「なにィ!?」
「眠ってろ、斧男」
俺は背後に回り込み、愛剣ノワールを鞘に入れたままヘリドの頭に叩き込んだ。
ゴツンという鈍い音、脳を揺らされたヘリドは、脳震盪を起こして気絶した。
さて、完全に見失ってしまった。ミントの魔力を探そうとしても、平均的な魔力量のため探すことができない。
この城は上も下もとにかく広い。
最上階からは、街どころか壁の向こうの森が見えるほどだし、最下層では、光のマナが少なく、明かりの確保が難しいほどだ。
城塞、と言った方がいいほど、この城は広いのだ。
部屋を出たところで執事とすれ違う。お互い一瞬睨み合い、目をそらす。
「ご武運を」
背後から声が聞こえたが、振り返らずにミントを探す。
どうする、すぐに助けると言ってしまったからには、急いで見つけ出さなければならない。
だが、予想外の展開に俺も戸惑っている。どうやって探し出せばいいのか。どうやって悪役になればいいのか。
考えて、考えて考えて考えて、走った。




