才能の開花
魔物に警戒しながら、ひたすら西に進んでいく。
すると、黒い塵が集まり、塊になったそれは少しずつ質感を持ち、小さな人のような形へと姿を変えた。
俺の知る限りでは、この世界であのような現れ方は今までなかったはずだ。
やはりあの時封印した術式は使われていないようだ、だとしたら大魔王が一から作ったことになる。
「ゴブリンだ、小さいからって油断するなよ」
「うん!」
ミントに戦闘というものを経験させたい、そう思ったから、俺は今補助役に回っている。
俺が馬車で説明した通りに、ミントがマジックアイテムを使う。
首元のブレスレットが緑色に光り、黒いゴブリンの足元に生えている雑草がうねうねと動き出す。
そして、その雑草はゴブリンの足に巻き付き、動きを止めた。
「よしっ、上手いぞ!」
初心者にしてはかなり上手い使い方だ。俺も練習したが、できたのは植物を絡ませるのと、根でシールドを作ることくらいだ。
動きが止まったので、俺はトドメを刺そうと剣を抜く。
「あれ、まだ行けそう」
「なに? 自由に動かしてみてくれ」
もう補助としては充分な道具の使い方だぞ。これ以上何ができるというのだ。
「んんんそれっ!」
ミントが力を入れた瞬間、雑草の色がどんどん濃い緑に変わる。その雑草は、もう雑草と言っていいのかと思うほどまで大きくなり、ゴブリンの身体にまとわりついた。
だが、これだけでは終わらなかった。
地面から薄い茶色の根が蠢きながら飛び出てくる。その根は先端を尖らせ、そのままゴブリンの身体を貫いた。
「ギュウゥイイィィ!!」
ゴブリンの身体が魔力に変わり、だんだん薄くなる。そして消える。
本来なら魔力が冒険者カードに吸い込まれるのだが、ミントは冒険者カードを持っていないのでその魔力は地面に溶けてしまった。
「や、やったよ! ユウト、見てた?」
「あ、ああ……すごいな」
もしやアイテムマスターはポーション以外だけでなく、マジックアイテムの使い方が上手い人のことなのでは。
才能、小さな村に眠っていたアイテムマスターの才能だ。そういえばクダミさんも変な道具持ってたな。あれはマジックアイテムだったのか。
「いやーすごいね、このペンダント」
「そのアイテムの力だけじゃないぞ、あそこまでマジックアイテムを使いこなせるのはお前の才能だ」
正直、俺は迷っている。
この才能を開花させていいのか。ミントは、ただの村娘じゃないのか、と。
「才能……これなら、ユウトの役に立てるかな?」
そうか、こいつは俺の役に立ちたい、そう考えてついてきているんだ。
あの時、一緒に温泉に入ったあの時に、さんざん思い知らされたはずなのに、なんで信じてやれなかった。
もう迷わない、俺はミントを冒険者にする。仲間として、一緒に世界を平和にしたい。
「もちろんだ、お前なら、Sランクの冒険者も超えられる」
「私がSランク!?」
「おう、帰ったら、冒険者登録しようぜ。そしたら、一緒に行動しやすくなるし」
「一緒に……わかった、する! 絶対する!」
何がお前をそこまで奮い立たせているのかはわからないが、やる気があるのはいいことだ。
これなら、ここの魔物に倒される心配はないな。
俺とミントは、魔物を倒しながらSランク組を探していく。
* * *
オークの心臓に剣を突き刺したその時、森の奥で炎が揺らめいたのが見えた。
あの炎は、チャラ男こと金町だろう。
「ミント、今の見えたか?」
「さっきの火だよね、近づく?」
「ああ」
あくまで、狩りに来た冒険者のフリをして炎の見えた場所まで移動する。
見えた、間違いなく金町だ。その近くに、笹谷も立っている。
「あれがユウトの世界の?」
「ずっと昔の話だけどな」
金町の近くにおる女が俺を見て目を見開いた。
あの顔は「あんな鎧を着た人もいるのか」という顔だろう。それか、魔王軍だと思われたか。
「ユウト、今見られてたんじゃ」
「構うな、来てるぞ」
三匹のゴブリンが同時に襲いかかってくる。が、ミントの華麗な植物操作によって、みな魔力に還る。
「ふいー、だいぶ魔物減ってきたね」
「ザンとかイアがいるからな、魔物が湧くスピードよりも狩るスピードの方が早いんだろ」
まるでネトゲのようだ。
そのフィールドにプレイヤーが多いとモンスターの取り合いになる。この世界では魔物の取り合いなどほとんどないのでその辺は安心だろう。
敵がいなくなったのでSランク組を観察する。
なにやらあちらも魔物の数が減ったことにより余裕が出来ているようだ。
ん、よく見たらリビアルがいるじゃねぇか。あのあとすぐにこっちに向かったのか。
兵士のひとりが近づいてきた。
「あの、お二人共冒険者の方で?」
「ああそうだ。今日は魔物が少なくてな、そちらは?」
歴戦の戦士っぽく演じる。
「メビウスの冒険者の腕試しをしてたんすよ、珍しい格好をしてたもんだから、話しかけてみようかと」
やけに腰が低いな。まあ、この見た目じゃ仕方ないか。
「かなりいい鎧でね、申し遅れました、私、ノワールと申します」
今考えた。考えたとは言っても今持ってる剣の名前なんだけども。
「ミントです」
「これはご丁寧に、俺はシルドっす。それで、うちの王子のリビアル様が来てるんですけど、どうすか? 話していきません?」
リビアル、王子だったか。
そんな雰囲気はしていたが、一国の王子があんな性格じゃ、この先心配だぞ。
「どうした」
行こうかどうか考えていると、リビアルの方から近づいてきた。
「あっ、リビアル様。なんだか珍しい格好の人がいたもんだから、話をしてたんすよ」
「近くにいた冒険者か」
ミントは俺の後ろに隠れてしまっている。やめろよ抱きつくな動きにくい。
「ノワールです」
「そこの後ろにいる者、隠れてないで出てこい」
「……ミント、です」
「……!?」
ミントが俺の影から出てきた瞬間に、リビアルが動かなくなった。
リビアルさーん? どうしました、バグりましたか?
「ふっふふふははは、くははははっ! ミントと言ったな、お前、俺の妻になる気はないか?」
「えっ!? え……え!?」
お前は何を言っているんだ。
妻? いやいや、ダメだろ。この子18歳ですよ? あ、年齢的には大丈夫か。
いやそうじゃなくて、なんで急に?
「リビアルさん!?」
「一目惚れ、というやつだな。さあ選べ、この俺の妻となるか、そこの黒騎士もどきと冒険者をするのか!」
俺に指をさしながら、リビアルはそう叫んだ。
ミントは混乱が治まっていないらしく、今も目がグルングルンしている。
てか誰が黒騎士もどきだ。立派な黒騎士だろうこれは。
「……私は」
「こいつは俺の仲間です、勝手なこと言わないでください」
「ふむ……ならば貴様らを城へ招待してやる。そこで話でもしようではないか。ゆっくりとな」
城、か。ミントには悪いが、客として城に入るチャンスだ、利用する他ない。断ったところで、何をされるかわからないからな。
それに、仲間として、ミントを渡すわけにはいかない。思い知らせてやる。
「俺達は拠点に馬車を止めている。一時間後、そこに集合でいいな?」
「門の周辺にある拠点だろ? 奇遇だな、俺たちの馬車もそこだ。それぞれの用事を済ませ、拠点から城へ向かう、これでいいだろう」
「わかった、それでいい。行くぞミント」
ミントを連れてその場を去る。
面白くない、なんだろうか、気に食わない。
イアやザンにこのことを話さなければならない、そして先に帰らせよう。
「ユウト……」
「大丈夫だ、絶対守るから」
「……うん」
レッドたちには悪いことをしたな、今度しっかり褒めてやらないと。
その後も、俺達は狩りをしながらザンとイアのパーティを探し、話をした。




