作り出した運
Bランク、隣の部屋の男組がヘリドに選ばれた。
もしかしたら、と、ありもしない希望を見出した馬鹿な男が一人、また一人と倒れていく。
その度に先生が少ない魔力を消費して回復をしてくれている。
そして、五人のうち四人が倒れたところで、能力が言語理解で戦闘力のない今村が残った。
「お、俺は嫌だからな! ふざけるなよ! そ、そうだ、俺の能力は言語理解だぞっ、その俺が潰れたら、そっちだって困るんじゃないのか!!」
「殺しはしねぇよ、リカバリーの能力を持った女がいるんだ、死ぬ直前まで痛ぶれる」
リビアルが口角を吊り上げながら言った。
自分が必要な人間だと信じて疑わない男が、必死に自分だけ助かろうとしているのだ。
上から眺める景色は、さぞ飽きないものだろう。
「っ! でもっ」
「なんだァ? こねぇのか」
今村は始めから戦うつもりはないらしい。
先程までの四人はやられそうになったら中止にすればいいと思って挑戦した。
が、その言葉を発する暇もなく、顔面が膨れ上がったのだ。
「せ、先生……」
今村が先生に助けを求める。
こいつが潰れたところで俺には何も影響はない、このまま、トラウマを植え付けられ、奴隷のように扱われようが、知ったことか。俺には関係ない。
だが、そんな俺とは違い、先生は生徒を無下にできない。
「あー鬱陶しい……川内……めぐみとか言ったか。お前がこのガキ共のまとめ役だったらしいじゃないか。なら、お前が選べ。お前が選んだ者を、ヘリドと戦わせる」
「私が……?」
リビアルの言葉にその場の生徒全員が先生を見つめる。
俺を選ぶな、私を選ぶな。僕を、あたしを、絶対に選ぶな。
選んだら恨む、恨んで恨んで怨んで恨んで恨んでやる。そう、生徒の目が語りかけてくる。
「先生……」
生徒たちが声を漏らす。その声を聞くたびに、先生の呼吸が荒くなる。そこに注目して見ていないと、わからないくらいの微妙な違い。
終わりだな。それは失策だったぞ、リビアル。
俺の秘密を知っている先生に決定権を渡したらどうなるか、答えは簡単だ。
「かん、ざきくん……」
「はい」
「お願い、できますか?」
その場にいた全員がざわつく。リビアルも、ヘリドまでもだ。
クラスから出た唯一のCランク。一番使えない失敗作。そう認識しているからこそ、彼らは驚きを隠せないでいる。
「先生! 正気かよ! 神裂なんかじゃすぐやられちまう!」
「なら、佐久間くんが出るんですか?」
「それは……」
佐久間か、名前覚えたからな。
早くこれを終わりにして、荷物整理や作戦立てを進めたい。
「おいおい、リビアルさん、あいつCランクのガキじゃねぇか」
「気でも狂ったか……?」
ヘリドとリビアルの会話を流し聞きしながら、木箱から剣を取り出す。
予想通り、弱々しい剣だ。まともに使えないくず鉄を材料に作られている。
だが、ヘリドに当てることが目的なら、材料なんて関係ない。木製だろうが、鉄製だろうが、当てたらそれでおしまいなのだ。
「いいぜぇ、こいよ」
「ちょっと離れた場所でやりましょうか」
剣先をズリズリと地面に引きずりながら、ヘリドの真横を通る。
「あ? ここじゃダメなのかよ」
「ええ、近いと危ないですから」
「違いねえ、人のいる場所に投げられたら余計痛えからな」
何を勘違いしているんだ。これは人に当たらないようにする配慮なんかじゃない。運良く剣が当たったように見せるために、生徒から距離をとったのだ。
「いきますよ」
「へっ、来い!」
声を出して拳を握るヘリド。剣を扱ったことのないAランクの冒険者など、武器がなくとも簡単に倒せるくらいには、実力があるのだろう。
だが生憎、俺はSSランクの冒険者二人を同時に相手したことがある。
ダンとザン。あの二人は完成度は低いものの、確かな実力があった。
少なくとも、お前よりかは、覇気を感じた。
「ふっ」
剣に身体を持っていかれたような斬り方で、ヘリドに斬りかかる。
なるべく自然に、それでいて呆気なく、この戦いを終わらせる。
「ガラ空きだ!」
ヘリドは剣を避けながら俺の腹めがけて拳を突き出す、が。
その拳は空を切った。
俺は避けていない、ヘリドが、外したのだ。
「なにっ!」
「おっとと」
重そうに剣を構える。ちゃんと演技できているだろうか。生徒から見たら、運良く当たらなかっただけに見えているだろうか。
俺は剣を持ちながらヘリドにむけて倒れ込む。
当然ヘリドは避けようとする、が。
「外しちまったか、だがまだこれからっあ!?」
「うわー」
ヘリドがこけた。
念動力で、ヘリドの靴を一瞬動かしたのだ。
靴が浮けば、当然身体は支えられなくなる。そこに俺の倒れ込む演技。ヘリドはなすすべなく倒れ込んだ。
今の俺はヘリドの上に乗っている状態だ。
そのまま、持っていた剣をヘリドの腹に当てた。
肌どころか、服すら裂くことはなく、剣は脂肪に押し返される。
「あ、今当たりましたよね」
「……くそっ、リビアルさん! 違うんだ、たまたま、たまたま足が縺れて……」
「五月蝿い、剣を当てられたのは事実だろう。素直に負けを認めろ」
「……負けた、そうか、負けたのか……ははっ」
戦闘中、固く握りしめていた拳は緩く解け、だらんと腰のあたりで停止している。
そしてとぼとぼと格闘場の外へ歩き、城内に戻って行った。
「神裂雄人、貴様何をした」
「えっと、たまたまです、運良く当たっちゃって、あはは」
「……そういうことにしておこう。お前ら! 今日はもう解散だ! 城から出ようが、魔大陸に行こうが、好きにしていろ!」
リビアルもまた、やる気をなくして城内に消えていった。
剣を杖がわりにして身体を支える。
俺は駆け寄ってくるクラスメイトを見ながら、今日の予定を考えていた。




