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腕試し

 なんやかんやで格闘場へ移動した俺たちは、AランクとBランクに分かれて待機していた。

 格闘場をうろうろしているのはリビアル。なぜかSランクの奴らのところには行っていない。

 妙だな、リビアルがわざわざ俺たちBランクを見るはずがない。Sランクの腕試しについて行った方が有意義な時間を過ごせるはずだ。


「そろそろか」


 リビアルが小さく呟いた。そして俺たちの前に歩いてくる。


「それじゃあ皆さん、腕試しの内容をお話します」


 全員がリビアルを見る。

 格闘場での腕試し、同じランクの人同士で簡単な試合でもするのだろうか。


「皆さんにはこの城の兵士と試合をしてもらいます」

「試合?」

「ええ、腕試しですから、剣が得意な人は剣を、魔法が得意な人は魔法を使ってもらっても構わないですよ、練習用の剣なら壁際の箱にあるので、自由に使ってください」


 リビアルがニコニコしながら壁に置いてある剣を指さす。見るからに安物の剣だ。

 練習用なのだからあれくらいでいいのだろう。

 だがいまいちピンとこない、AランクとBランクが兵士と試合するのを見て、楽しいのだろうか。何か裏があるのではないのか。

 格闘場に配置されている兵士の数も、必要数以上に見える。


「ヘリド、入れ」

「ウッス」


 ヘリド、と呼ばれた兵士が入口から格闘場に入ってくる。

 入ってきたのは2m級の大男。ザンで見慣れている巨体だが、耐性のないクラスメイト達は全員困惑している。


「こいつに剣を一発でも当てられたら今日は自由行動です、街に出て買い物をするもよし、街の外で魔物と戦うもよし、好きにしていていいですよ」

「一発……」

「ただし、戦闘は1対1のタイマン勝負のみです。戦闘への介入は違反とみなし訓練室で指導をします」


 そうきたか、この男に一発。俺から見れば簡単なことだが、剣を扱ったことのない生徒には多少能力があったところで当てるのは『不可能』だ。

 この腕試しは力量を測るためのものでは無い。

 能力を持っていても、国の兵士一人に一発も当てられないという事実で自分たちの方が上なのだと知らしめるための試合。


「誰からでもいいですよ、途中でやめても構いません。誰か一人でも剣を当てることが出来たなら、その時点で全員合格です」

「む、無茶苦茶だ!」

「できねぇじゃねぇ、やるんだよ。何もせずに弱気になってんじゃねぇぞ」

「なっ……!?」


 おっと、ここで本性を出すのか。口は悪いが正論だな。まず動け、口を動かす前に目の前の敵に集中しろ。


「あれがリビアルさん……?」

「なんだか怖い……」


 Aランクの女子がこそこそと陰口をしている。さっきまで優しかったのに、突然厳しくなったのだ、驚くのも無理はない。


「かかってこい!」

「……俺が行く」


 Aランクの男が剣を取り出しながらそう言った。

 勇気あるじゃないか、見直したぞ。


「永井、正気か?」

「あくまで腕試しだろ? なんとかなるっしょ」


 違った、勇気じゃなかった。

 まあでも本気で倒しにはこないだろう、剣を避けて、軽い攻撃をする、みたいなことをしてくれるはず。


「お前が相手だな」

「そうだ」

「いいぞ、そっちから仕掛けてこい」


 ヘリドは剣も持たずに永井の様子をうかがっている。

 なぜ剣を使わない、それだけ避ける自信があるのか、それとも、また別の理由があるのか。


「はあああっ!」


 重たそうに剣を構えながら、永井はヘリドに斬りかかった。

 が。


「ふんっ」

「なにっ!?」


 ヘリドは永井の腕を掴み、剣を奪って投げ捨てた。

 カランカランと軽い音を立てながら落下する剣。永井の腕は今も尚掴まれている。


「ハァッ!」

「かぁっ!?」


 永井の腕を掴んだヘリドは声を出しながら腹に向けて容赦なく拳を突きつけた。

 離れていても聞こえる音、腹に拳がめり込んだ音だ。続いて声にならない声。空気が口から漏れ出す音。


 次の瞬間、永井は数メートル吹っ飛ばされ、地面に落下した。

 だがヘリド、ここで終わらない。

 ヘリドは倒れ込んだ永井にマウントを取り、何度も顔を殴り始めた。うーわ容赦ねぇ。


「はぐっ、ヘブっ……や、やめっがはぁっ……! リ、リタイ、アだ! やめ、て、くれっ……」

「チッ、腰抜けが」


 ヘリドは永井の襟を掴み、軽々持ち上げてからこちらに向けて投げ捨てた。

 目の前に倒れているのは顔がパンパンに腫れ上がった永井。もう誰もヘリドを直視していない。


「おい、他に誰かいねぇのか」

「リビアルさん、もう俺が選んでいいっすか?」

「はぁ、どうせならBランクに気合でも入れてやれ」

「ウッス」


 やめていただきたい。僕らとっても弱いんだよ、Aランクが瞬殺されたのに僕たちが勝てるわけないじゃないか。

 って顔を隣の部屋の男組がしている。


「神裂くん……」

「どうしようもないですよ、指名されたら、たまたま当たったっぽく演じますが」

「そんなっ!」


 先生が絶望に満ちた顔をしている、目の前で生徒がボコボコにされたのだから、心が痛いなんてものじゃ済まされないだろう。

 しかも、唯一の救いである俺が協力しないのだから、残りの生徒に頼るしかない。


「おい、お前がいけよ」

「やだよ! 死にたくねぇ!」


 AランクとBランクの男が集まってお前が行けお前が行けと言い合っている。

 なんて滑稽な、自分の能力に自信のある奴はいねぇのか? こういう時こそ能力だろう、簡単に当てられる能力とかないの? そんな都合よくないか。路線バスの旅くらい都合良ければいいのに。


「皆さん、大丈夫です! 先生が治してあげますから!」

「うう、ありがとう……先生」


 永井の顔を治療しながら先生が言った。

 クラス全員の顔が固まる。

 先生、その言葉は逆効果だ。何度も痛みを味わうことになると言っているようなものだから。

 初手でいきなり格の違いを見せつけたヘリド、次は向こうが生徒を指名することになっている。

 しかもBランクだ、一体、誰が指名されてしまうのだろうか。

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