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硬い黒パン

 朝イチでミントに熱湯をかけられた俺は、まだ薄暗い空の下、メビウスに転移した。

 城の裏に転移し、小屋に近づく。人が起きている気配はしない。

 小屋の扉を開け、部屋の前に立つ。


「たっだいまぁ〜」


 小声でそういいながら扉を開ける。予想通り、全員泥のように眠っている。

 先生の眠りが浅いのは習慣だからだろうか、確か先生は県外から学校に通勤してきていたはずだ。


「二度寝……は起きれないな」


 あまりの眠気に二度寝を考えるが、もう一度起きれる自信がないのでやめておく。

 さすがに起こすわけにはいかないので、何か出来ることを探す。

 ああそうだ、床の掃除をしよう。


「せめて床を〜っと」


 念動力で床に落ちている土や砂を集める。部屋中の土砂を集め、外へ捨てる。

 念動力だけでは集めきれなかった汚れを、水魔法を使い、床を這うように水を動かし、雑巾のごとく床を拭いていく。

 うん、床がピカピカになったな。倉庫を改造して寝室にしたやつでしょこれ、くっそ汚かったんだけど。


「ふぁぁ……あれ、神裂くん?」

「おはようございます、先生」


 先生が目を覚ました。他の生徒はまだ眠ったままだ。というかよくこの状況で熟睡できるな、それだけこの国を信用しちゃってるのかもしれない。

 もう少し警戒心を持とうぜ。


「早いですね、あら、なんだか床が……」

「トイレに行ってまして、目が覚めて暇だったんで掃除してました」

「そうだったんですか、やっぱり優しいところあるじゃないですか」

「自分の寝る部屋くらい綺麗にしますよ」


 用事があったという理由もあるが、薄汚れているここで寝たくなかったのだ。

 これだけ掃除すればまあまあ寝れる場所にはなっただろう。わざわざ氷霧亭に帰って寝るのもめんどくさいし、ミントに迷惑なので我慢してここで寝よう。


* * *


 全員が起床し、ギャルが床の綺麗さに驚くリアクションを見た俺はゆるーくギャルに褒められながら食堂へ向かった。


 そして、食堂についた俺たちは昨日と全く同じ黒パンと牛乳を手渡されたのだった。


「はぁ、また黒パンか」

「これ硬すぎるし」


 椅子に座りながらパンを食べようとする一同。俺もこの硬さのパンを食べたいと思えない。

 ならば柔らかくすればいい、量は少ないが、硬いものよりはマシだろう。

 こっそり、全員の黒パンに水魔法で水分を含ませる。これで柔らかくなったはずだ。


「っ、昨日より柔らかいし」

「湿気たんじゃね?」


 よかった、不自然ではなかったな。

 少量のパンなど腹の足しにもならない。ちなみに俺は朝食は食べても食べなくても大丈夫な人間だ。

 だが、他の全員が食べている中食べないというのはクラスで浮いてしまうのではないか、というわけで食べる。めちゃくちゃ食べる。

 別に周りの反応を気にしているわけではない、本当だ。


「はい皆さん聞いてくださーい」


 笑顔のリビアルが食堂の中央に立ち、手を叩いて注目を集めた。

 生徒は皆食事をしながらリビアルを見ているが、笹谷と先生、俺は食事をやめ、警戒心をむき出しにしている。


「Sランクの方々には壁の向こう、魔大陸での腕試しをしてもらいます。それ以外の方々は格闘場にて腕試しを行います」


 Sランクとそれ以外で分けるのか。Sランクなら魔大陸で魔物と戦わせても大丈夫という判断だろう。

 なら俺たちの腕試しとは一体なんなのだろうか。


「食事が終わり次第各自移動をしてくださいね」

「格闘場はこちらです」


 ご丁寧に格闘場へと続く道に兵士が立っている。


「それでは」


 去り際のリビアルの口角が上がっていた。Sランクの戦闘が楽しみなのだろうか。

 それとも……いや、今は警戒するだけにしておこう。


「何すんだろうね」

「なー」


 Bランクの男組は呑気に黒パンをかじっている。こいつらの黒パンは硬いままにすればよかった。男なら噛みちぎれるだろ。


「神裂くん」

「笹谷……くん、どうしたの?」


 笹谷に話しかけられた。突然のことで素が出そうになったがなんとか演技に入ることが出来た。


「彼のことを警戒していたからさ、なんでかなって思っただけだよ」


 嘘だ、笹谷も警戒していた。笹谷は同じようにリビアルを警戒している仲間を見つけて話しかけてきただけだ。


「別に、信用しきってないってだけだから、そんなに深い意味はないよ」


 笹谷が俺の持っている黒パンを一瞬見て、視線を戻した。


「そうか、ごめん、邪魔したね」


 ホントだよ、さっさと美味そうな朝食を食ってろ。

 とりあえず変な目で見られるのも嫌なので黒パンをガツガツ食べる。もっと食べたいな。ケイトさんになにか貰えばよかったかな。


「笹谷と何話してたん?」

「あまりこの国を信用しすぎない方がいいってさ」

「ほーん」


 何気にギャルと会話してるな、もっと遠ざかるものだと思っていたが。


「なんで俺にたくさん話しかけてくるの? えーっと……」

井ノ原(いのはら)美咲(みさき)だし、話しかけちゃ悪い?」


 その茶髪に似合わない可愛らしい名前してますね。

 井ノ原美咲か、あとで名簿確認しておこう。


「悪くはないけどさ」

「じゃあいいじゃん」


 面倒くさいやつだな。仲間とコミュニケーションを取るなら相良にでも話しかけたらいいのによ。


「ま、本当は床掃除したってのを聞いて見直したからだし」

「それはどうも」


 井ノ原は俺の返しに満足したような顔をし、牛乳を一気飲みした。なんて男らしい。


「っし! 行くし!」

「相良くん、俺たちもそろそろ行こうか」

「う、うん。藤沢さんも行こ」

「……うん」


 井ノ原、俺、相良、藤沢の順番で立ち上がった。

 何この連鎖、ぷよぷよかよ。四つ揃ったら消えちゃうのかよ。

 そして地味子の名前を初めて知ったわ、藤沢っていうのか、あとで先生に聞いて全員の顔と名前一致させよう。


「あ、あたしもー!!」


 ちなみに、取り残されたもう一人のギャルは連鎖に入れていなかった。

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