結合する世界
俺は今、北大陸へ向けて高速で飛行している。
わざわざ風魔法で加速する必要も無い、のんびり飛んでいこう。
そう思っていた。
「ユウト、北大陸って本当に人間の住む大陸?」
「当たり前だろ」
「その割にはやけに魔力を感じるような気がするんだけど……」
「魔大陸と繋がってるからな、そこから魔力が流れてきてるんだろ」
俺も薄々気づいていた、北大陸から大きな魔力を感じることに。
大魔王が現れたことによって魔大陸から流れてくる魔力が増えたのが理由だと俺は思っている。
だがこの前の魔物召喚とはまた違う雰囲気の魔力だ。
気のせいだと思えばそこまでなのだが、少し気になる。のんびりとは言っても警戒はしている。
「ま、気にしてても仕方ないだろ。ちょっと強い魔法撃ってるだけかもしれないし」
「これだけチャージしてたとしたらちょっと強いじゃ済まなそうだけどね」
だいたい数時間、数日かけてチャージする攻撃魔法なんて存在しない。
魔法のチャージには集中力を大量に消費する。
やろうと思えば無限にチャージできるのだが、人間だろうと魔族だろうと数分が限界だ。
集中力を切らさずに魔力を注ぐなんて俺にはできないし、やりたくない。
そして数分後、北大陸が見えてきた。
近づけば近づくほどわかる、この魔力は魔大陸からではない、北大陸から発生している魔力だ。
少しスピードを上げよう。
「魔力が収縮したね」
アイアスの言う通り、さっきまでガンガン感じていた魔力がピタっと止まった。
魔法が使用されたな。
「あれは……!」
北大陸にある青い国『メビウス』
青を中心にした石材を使っている建造物が建ち並ぶ城下町に、光の柱が現れた。
いや、正確には城から、光の柱が伸びている。
光魔法……? それにしては攻撃力が感じられない、ならば攻撃魔法以外の魔法だ。
「ちょっと急ぐぞ」
「了承」
嫌な予感を感じた俺は何も無いことを願いながら加速する。
メビウス、昔の名前はなんだったか。よく覚えていない。国の名前は昔と同じ国もあれば変わってしまった国もある。
自分の知らない国に向けて、風の矢の如く加速した。
* * *
メビウスに到着した俺は自分に隠蔽魔法を使い、城へ向かう。
ソウルにイタズラした時にも使ったな、目の前にいたはずの俺を見失うレベルの隠蔽魔法だ。
いくらソウルといえどもそこら辺の一般人よりは強い、つまり今俺は誰にも見られていない、見つかっていない。
「城に忍び込むのね、それ大丈夫?」
「バレなければ何も言われないさ」
城の門に居る兵士が邪魔で中に入れない。
門が開かないから仕方がない、どうやって入ろうか。
と、思っていると馬車が城に荷物を届けに来たようだ、これについて行けば城内に入れる。
他の国に比べて警備が硬いな。
「まいどありー」
「早く入れ」
「はいはい」
馬車の後ろをつける。
ついでに荷物が何かを見させてもらおう。
袋の中に大量に詰め込まれているのは、黒パン?
城に黒パンか、奴隷の食料だろうか。
何はともあれ場内に入れた、さっさと魔法の正体を見つけ出そう。
「わざわざ地下でやるなんてな」
「本当に強いのかねぇ」
兵士の会話を盗み聞き。地下か、ありがとな。
地下への階段は……右の廊下の奥か。
「地下で使う魔法かぁ」
「兵士の会話からしてまだ残ってると思うが」
本当に強いのか、それの正体がなんなのか。
階段を降り、薄暗い地下に変わる。
やけに騒がしい、若い男女の耳障りな声が地下の壁に響いていた。
奴隷……? それにしては元気が良すぎる。
では、だとしたら。
「まだ家には帰れないの!?」
「へっ、ここが異世界ってやつか」
「大丈夫だ! リビアルさんも大魔王を倒せば元の世界に帰れるようになるって言ってたじゃないか!」
あれは……まさか……いやそんな、なんであいつらがここに……?
なんで、この世界に、俺の、クラスメイトが、居るんだ。
「ユウト、あれは?」
「俺が元々いた世界の知り合いだ」
「ほー、仲良いの?」
「いや全然」
仲良いやつなんて居なかった、多少話すやつはいたかも知れないが。
俺はクラスでは地味な存在だった、いじめがあったわけでも、親しい友達がいた訳でもない、ぱっとしない存在。
だがまあ、クラスの上位陣には心のどこかで見下されていたのかもな。
それにしても俺のクラスメイトが綺麗に全員揃っている。
俗に言う『クラス転移』ってやつか。俺もこんな転移のされ方だったらよかったのに。
インフルで死んで異世界転生とか虚しすぎるぜ。
「みなさん! きっとみんなで帰れます! ですから今は落ち着いてください!」
「先生……」
めぐみ先生だ。川内めぐみ、俺のクラスの担任である新人の教師。
いつも笑顔で優しく、生徒に大人気な先生だ。
もし、このクラス転移が俺が死んだ翌日の出来事だとしたら、先生は俺の死を知っていることになる。
パニックになるのは嫌なので会うなら先生からだな。
「このあとって何するんだ?」
「リビアルさんが俺たちの能力を調べるんだよ、聞いてなかったのか?」
ほう、能力か。
この世界に転移、転生してきた人間は一つ能力が貰える。俺だったら『成長』だな。完全にハズレスキルだ。
「服がゴワゴワする……」
「ねーダサいよね」
そういやこいつらなんで制服着てないんだ。よくある布の服だぞ、村人の服だぞ。
制服を回収されたのか? なら俺の制服もあるだろうか。確か教室にあったはずだ。
インフルで倒れた時、ジャージ姿だったのだ。
教室に制服を置いたまま病院に行ったので制服を持って帰っていなかった。
うちの学校はジャージ登校が許可されているので持って帰る必要は無いと判断したのだ。
まさかその後に死ぬなんてな。
「アイアス、俺はあの中にこっそり混ざる」
「本気? 別にいいと思うけど」
兵士の横に置いてある木箱に無造作に詰め込まれている服を盗み、それを着る。
これで他の転移者と見た目は同じになったはずだ。
というわけで満を持して集団の中に混ざる。
そして先生の手を掴み、先生にも隠蔽魔法を使い、部屋の隅に引っ張る。
「ちょっ! ど、どうしたの?」
「先生、ちょっと静かにしててください」
「か、神裂くむぐっ!?」
「しーっ」
先生が大声を出そうとしたので口に手を当てて塞ぎ、左の人差し指を口元に当てて静かにするように促した。
昔の俺にはできなかっただろうな、女の口を塞ぐなんて。
「質問に答えてください、彼らに俺が死んだことを伝えましたか?」
「つ、伝える予定だったのですが、ここに飛ばされてしまって……」
「そうですか、では俺は死んでいない、インフルエンザが治ったという体でお願いします」
「は、はあ。よくわからないですが、生きててくれてよかったです」
この先生は本当にいい先生なんだろうな、中学の頃の担任は、俺の嫌いなタイプが多かった。
さて、ナチュラルに違和感無くあの集団に混ざらなくては、どうしようか。
遅れて登校してきた、ダメだな。
転移場所がズレた、これだ。
遅れて登校してきたことによって転移場所がズレた、これを理由にして混ざろう。
長い長い演技の始まりだ。




