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大魔王降臨

第三章始動

 あれから二ヶ月と少し経った今、俺は北大陸へ向かおうとしている。

 なぜ北大陸へ向かうのか、魔大陸ではないのか。

 それは遡ること一か月前のこと。


* * *


 今日も仕事がたくさんだ。マールボロの兵士たちの稽古、冒険者制度の改定、エトセトラエトセトラ。

 細かいところは省くとしてもとにかくやることが多い。さっさと冒険者制度を作って休みたい。

 気分が暗くなると視界も暗くなるのか、廊下がやけに薄暗い。今日雨降るのかな。


「おーいユウトくーん!」

「今度は何すればいいんですか」

「いや、そうじゃなくてさ、ああもうとにかく外に出てくれ! 噴水広場だよ!」


 王様はそう言うと廊下を走り去っていった。

 外? 何があったってんだ。

 とりあえず広場に転移、この一ヶ月で街の人に転移魔法を使えることがバレてしまったので今更隠す必要ない。

 近所のガキからは瞬間移動のにぃちゃんと呼ばれている。


 外に出て真っ先に気づいたことがある。

 空がおかしい。

 そう、そらが真っ黒に染まっているのだ。雲ではない、黒い霧のようなモヤが空全体を覆っている。

 街の人もこの異常事態に全員集まってきているようだ。


「あ、瞬間移動のにぃちゃんだ」

「危ないから大人の近くにいた方がいいぞ」

「何があるの?」

「わからん」


 子供を親っぽい人に返して王様を探す。

 城の入口を見るとちょうど王様が扉から出てくるところだった。


「いやちょっと……ふぅ、はぁ……僕ももう歳かな……」

「一緒に転移すればよかったのでは?」

「その発想はなかったよ」


 息を整えた王様の元に見知った人が集まってくる。

 ソウル、ザン、イア、そしてミント。

 ミントは俺の手伝いという口実で定期的にマールボロに遊びに来ている。たまたま居るタイミングでこの空になったのだ。


「ユウト! これなに!?」

「魔物の召喚陣を作ったやつだと思う。多分この霧は世界中、この惑星を覆ってる。それだけの魔力の持ち主だ、きっとそいつだろう」


 霧の中から魔物が現れないか、何が起こるか予測できないので警戒心はマックスになっている。


 空を見上げながらぼーっとしていると、霧が轟々と呻き出した。

 なんだ、何が起こる?


『よぉ平和ボケしたゴミ共。御機嫌よう、一ヶ月ほど前に貴様らに渡した魔物のプレゼントは気に入っていただけたかな?』


 空から低い声、高い声、中性的な声、様々な声が重なった合成音声のような音が響き渡った。

 魔物のプレゼント、魔物の召喚陣を作った本人ということか、ふざけるなよお前。


『まぁなんだ、まずは俺の気持ちってもんを聞いてもらいたい。俺はあの平和ボケした魔王の代わりに世界を変える、人間との共存なんて許さない。魔物さえ生き残ればそれでいい。そう思っている』


 俺の計画と真逆のことをしようってか? それこそ許さねぇぞ。


『各大陸の王、聴いているのだろう? 聴いているのなら兵力を強化し、俺を止めてみせろ。こちらからはしばらく動かないでおいてやる。この警告を無視して兵力の強化を怠った国は簡単に滅ぶだろうな』


 へぇ、待っててくれるなんて結構気前いいじゃねぇか。

 その自信がどこから湧いてくるのかは知らないが、止めない理由がない。こいつが何をするつもりなのかはわからないが、止めた方がいいということはわかる。


『最後に、名前を名乗らせてもらおう。俺の名はルヴァンシュ、大魔王ルヴァンシュだ』

「大魔王ルヴァンシュ……」


 俺が名前を復唱すると同時にさっきまで太陽の光を遮っていた黒い霧があっという間に消え去り、快晴の青空が広場を照らした。


「た、大変だ! ユウトくん、どうすればいいのかな!?」


 王様が目をひん剥いてわたわたしながら声をかけてきた。何その動き、MP吸い取られそう。


「落ち着いてください、もし何かあっても俺が街を守りますから」

「しばらくって何時までだ?」

「それがわからないから困ってるんだ、こっちもしばらくこれまで通りに兵力の強化と冒険者制度の改定を進めましょう」


 考えても仕方が無いと、俺たちは今まで通りの生活に戻ったのだった。


 そしてその一ヶ月後、冒険者制度が完成し、世界中で制定された。

 西大陸、東大陸、そして北大陸までもがこれを了承。これは西と東の王様同士で話し合った結果だ。

 北大陸の王は手紙で了承を確認。魔大陸以外の大陸にしっかりとした冒険者制度が浸透した。


* * *


 それから数日後、今に至る。

 北大陸へ行く理由が入ってないな。簡単だ、王様が北大陸で感じたことのない魔力を感じるって言ったからだ。

 それの調査に行くついでに転移先を増やそうっていう算段よ。

 別にすぐに魔大陸に行くわけじゃないからな。大魔王が動くまでこっちも動けねぇし。


「とりあえず見に行ってくれるだけでいいからね」

「魔力の正体を掴んでこいってことですか」

「いやまあ、はははっ」


 この人が成果なしで帰ってこいなんて言うはずがない。見に行ってくれるだけでいいからってのは調べてこいということだ。


「あたしも行くの?」


 アイアスが横から俺の顔を覗き込んでくる。心底面倒くさそうな顔だ。


「もしもの時用の盾だからな」

「まじかぁ……」


 俺がいない間にも兵士は訓練をする。

 二年生だけ大会に出て一年生だけ学校で練習するみたいな感覚に似ている。休みにしてくれてもいいじゃん。


「お土産持ってきてね」


 ミントがいい笑顔でそう言った。

 北大陸って特に特徴のない大陸だろ? 北大陸とはいっても魔大陸と繋がってるんだよな、あそこ。

 でっかい壁で仕切ってるだけでちょっと進めば魔大陸に入ってしまう。

 あとは奴隷制度があるくらいだ。俺は奴隷が嫌いなのでここは触れたくない。


「適当になんか持ってくるから期待すんなよ」

「うん、いってらっしゃい!」

「はぁ……いってきます」


 北大陸かぁ、昔の北大陸も治安が悪かったしなぁ、行きたくねぇなぁ。

 こう、人間関係でのいざこざが苦手なんだ。


 俺は復旧が完了した南の港へ転移し、不安を抱えながら北大陸へ向けて飛び立った。

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