変動
キュアリーに森を案内してもらい、ついにエルフの村まで来ることが出来た俺たちは、さっそく族長の家に入ろうとしていた。
入室の許可を得るために、キュアリーが族長に聞きに行っている。
「族長ってどんな人なんだ?」
「杖とか持ってるしわくちゃのお婆さんとか?」
「エルフは20歳で成長が止まって、死ぬ100年くらい前から老化が始まるらしい。若いかもしれないし、ミントの言う通りお婆さんかもしれない」
これでお婆さんだったら族長の寿命は残りわずかということになる。
ちなみに男より女の方が寿命が長い。なので、族長は女が多い。これはどの世界でも共通だ。
何百年も若いままとか羨ましいな。俺が言えたことじゃないけど。
大体、俺が若返るのは魔王とかを倒して他の世界に転移した時だけだ。若返りの代償がでかすぎる。
この世界なら寿命で死ねそうだが。
そんなことを考えていると、木の扉が開き、キュアリーが出てきた。
「入っていいぞ」
「了解、入るぞ」
ミントたちに声をかけ、族長の家に入っていく。
暗い色の木材を基調とした建物は、どこか静けさを際立たせていた。
「くれぐれも失礼の無いようにな」
「わーってるって」
族長がいるという部屋のドアに手をかける。
エルフの族長。かつて人間に森を焼かれ、差別されてきたエルフの長。
族長と言うくらいだから、その時代を生きてきたエルフだろう。
「お邪魔します」
「お、お邪魔します」
ミントは緊張しているようだ。無理もない、ミントは普通の村人なのだ。
三日連続の宴の時にも緊張していたが、順応性が高いのか、すぐに緊張がほぐれていた。
ドアを開け、部屋の中に座っていたのは緑色の髪の毛をした若いエルフだった。
シェリフにそっくりだな。
「キュアリー、席を外せ」
「ですが」
「私の命令が聞けないのか?」
おー怖、威厳あるな。
さすが族長といったところか。
「っ、わかりました」
不安そうな顔をしながら、キュアリーは部屋を出ていった。
ここでキュアリーを追い出したことになんの意味がある……? 正体不明の集団相手にわざわざ一人になるなど、普通じゃない。
「そこの黒髪、お前は何者だ? 只者ではないと見た」
これはバレてるな。
「ユウトだ」
「ユウト……なるほど、それならその魔力も納得がいくな」
え、この人も魔力感知が使えるの? 昔の俺使えなかったんだけど。
「ま、座って」
「……はぁ」
なんか口調が柔らかくなったな、と思いながら緑色のソファに腰を下ろす。
ミントたちも俺に続いてソファに座った。
「本物の英雄くんってことでいいのかな?」
「そうだけど、なんか軽いな、族長さん」
「まあね、これが普段の私。なんでキュアリーを追い出したのか聞きたそうな顔してるから説明するね。英雄くんが敵だった場合、私たちに勝ち目はない。そのままエルフ全滅、ってことで、被害を少なくしたわけ」
賢い選択かもしれないが、入ってきた時に警戒していなかったのはなんでだ。
聞いてみるか。
「その割には警戒してなかったみたいだけど?」
「家に入ってくる前に魔力感知で確認したからね。英雄くんと赤髪の子は強いのに他の二人から強い魔力を感じなかったからさ。エルフを敵に回すなら英雄くん一人で十分だし」
「私は?」
「え? ……あれ!? 君居た?!」
「失礼」
あ、ムーンに気づいた。てか気づいてなかったのか。
俺でも気づくまで時間かかったが、魔力感知なら割とすぐに気づけた。魔力感知では俺の方が上だな。
「ごめんね、でもわざとじゃないんだよ?」
「わかった」
「俺がここに来たのはエルフの長に話を聞きたかったからだ、俺が居ない850年の間に何があったのか教えてくれ」
「あー、魔王が倒されてからもうそんなに経つかー。いいよ、何から聞きたい?」
俺より年上かな、魔王を倒した時には既にこの村にいたのかもしれない。
「エルフが人間と関わるようになった理由は?」
「地殻大変動で春夏秋冬全ての季節にわかれた東大陸で、ピースの人達は食に目覚めたの」
世はまさにグルメ時代だったのか。未知なる味を求めて探求する時代だったのか。
「そんな時、私はその頃のピース王と話し合いをしたの」
「話し合い?」
「ピースの偉い人は言いました。美味いものが好きならエルフだろうが人間だろうが関係ない……と」
かっこいいなおい。
でもよく国民は受け入れたな。これまで敵だったわけだろ。
それも食の力か。美食の国というより、美味いものを腹いっぱい食える国だったし。
「そしてこれまでにエルフが森に迷い込んだ人間を襲ったこと、人がエルフを差別し、森を燃やしたことをお互いに許しあった。そして今があるってこと」
「それ以外には? 魔族扱いされていたことについては気にしてなかったのか?」
魔族扱い、これについてはエルフもお怒りだろう。
簡単に許せるものでもないし、これまで魔族扱いしてきた人間を軽く受け入れることもできない。
「えっとねぇ、魔物が封印されてからお互いそこまで悪い奴らじゃないと気づき始めてね。魔族扱いはされなくなってたよ」
マジか、俺とマフォで魔物を封印したおかげでエルフと人間の仲が多少改善されてたのか。
「そうだな、後は……エルフの戦力とかは?」
「この村にはかなり強い魔法剣士がいるよ、それ以外の大体のエルフは最低でも二流よ魔法使いと同じくらいの魔法を扱える」
魔法剣士か、俺と同じだな。師匠が教えてくれたのが剣と魔法だったので、俺の基本は魔法と剣術の両方を使った戦い方だ。
「その魔法剣士ってのは?」
「会ってみる? 向かいの家に住んで……っ!」
「なっ!」
族長の言葉が詰まる。
俺も感じた。南から、魔大陸の方角から物凄い量の魔力が流れてきている。
王様の言っていたことが起ころうとしているのかもしれない。
「な、なに!?」
「なんだ今の……!?」
ミントとソウルでも感じ取れる量の魔力。
何が起こるんだ……?
「外に出るぞ! アイアスはみんなのそばについててくれ!」
「わかった!」
アイアスに指示を出し、家の外に飛び出す。
村中のエルフが何事だと、わらわらと外に出てきている。
「英雄くん! これはなんだ!?」
「わからん、唯一わかるのは魔大陸で何かが起こったってことだ」
「とりあえず戦力になりそうなエルフを集めてくるよ!」
族長はエルフの中から強いエルフを探しに行った。
「ユウト! どうするの!?」
「お前らはここでじっとしてろ。俺一人で魔大陸まで行く。緊急事態だったらザンとイアを連れて帰ってくるから」
「絶対帰ってきてね」
「わかってる」
魔大陸まで行くのならわざわざここから飛ぶ必要は無い。南の港まで転移してそこから魔大陸を目指そう。
そこからの方が圧倒的に近い。ザンとイアがいるのは南魔大陸なので、そっちの方が都合がいい。
「……転移」
すぐに飛行魔法が使えるようにしておこう。
青い光が体を包み、視界が青く光る。
ふと見覚えのある、大昔に見たことのある顔が目に入った。
師匠によく似た顔。いつもフードを被っていたあの師匠に似たエルフがこちらまで走ってくる。
「ユ、ユウトさん!?」
「……師匠?」
聞き覚えのある声と共に、俺の体は別の空間に転移した。
ここから一気に物語が動き出します。
次回お楽しみに。




