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枕投げ

 枝垂桜の湯から上がった俺たちは、一人づつ着替えて部屋に戻った。

 ミント用にバスタオルは新しいものを魔袋から取り出した。俺は自分のバスタオルを風魔法で乾かせるけどミントは無理だからね、乾かそうとしたら裸になっちゃうもんな。


 部屋の前まできた俺たちは、ドアを開け、暗くなった部屋に入る。

 ソウル、アイアス、ムーンの三人はもう既に寝ているようだ。


「寝てるな」

「私たちも寝よっか」

「そうだな」


 気持ちを切り替えたことについての話は明日でいいか、わざわざ寝てるやつを起こすまではしなくていい。

 俺の布団はーっと、なんか乱れてるな、ソウルがなんかしたのか?


「覚悟ぉぉおおお!!」


 声のした方を見ると、寝ていたはずのアイアスが何かを投げ終わった姿勢で止まっていた。

 俺に向かって飛んできたものは、白い枕だった。


「おっと、何してんのお前」


 難なくキャッチしてアイアスを見る。

 枕投げか、当てれてないのになんでアイアスはニヤついてんだ。


「今だあああ!!」

「お前もかっ!」


 横になっていたソウルが寝た姿勢のまま枕を投げてくる。

 咄嗟の事だったので避けてしまった、天井に当たる前に念動力で止める。


「やっぱダメか!」

「わざわざこのために寝たふりしてたのかよ」


 正真正銘の馬鹿だろこいつら。

 なんでそんなに寝たふり上手いんだよ、全然気づかなかったぞ。

 とりあえず明かりをつけよう、ドアの近くにある黒い石版に魔力を当て、光魔石を光らせる。

 よし、明るくなった。俺には暗視があるからいいけどみんなにはないからな。


「ムーンは?」

「寝てる」


 天使かよ。

 って、起きてるなら話しないとな。ムーン寝てるし、丁度いいだろ。


「ちょっと、集まってくれ」

「なになに?」


 遠くにいたアイアスがこちらに歩いてくる。

 ムーン以外のその場にいる全員が俺の布団の上に座る。ミントも空気を読んでその場に座り込んだ。


「ソウルとアイアスにな、聞いてほしいことがあるんだ」

「真剣な話なの」


 ミントの一言によって、ソウルとアイアスの顔つきが変わる。


「俺さ、今まで世界を平和にしようとしてるんだから手伝ってくれるのが普通って考えがどこかにあったんだ」


 ミントに言われた言葉が胸にしみる、どのくらい染みるかといえば、おでんの大根くらい染みてる。

 あとからさらに染みていくタイプ。


「いやまあ、僕にできることなら手伝うけども、あるかわかんないけど」

「それでさ、嫌々手伝ってもらうのも嫌だなって思ったんだ」

「無視かよ!」


 とりあえず語りたいから黙ってて、気持ちは嬉しいけど。

 ソウルの気持ちはよくわかった。なんだかんだ言って優しいもんな、お前。


「あたしはもうユウトと契約してるから、嫌とか感じたことないけどね」


 なんか二人とも軽くない?

 これ結構大事な話だよ? まあ、アイアスは俺の武器になっているわけだからそのへんは曖昧だけど。

 とにかく、二人に確認をとりたい。成り行きで来てくれているわけじゃないと信じたい。


「だからさ、二人に確認を取りたいんだ。俺は世界平和を実現させたい。だから、手伝ってくれないか?」

「さっき言ったじゃん。僕だって英雄の子孫だからね、ユウトと会ったのは運命だと思ってるよ」

「めんどくさいけど、ユウトのためだから手伝うよ」

「……ありがとな」


 二人の気持ちがわかっただけでもだいぶ気持ちが変わるな。

 後ろめたいことを考えずに済みそうだ。あとは、ザンとイアにもこのことを話さないと。


「温泉でね、ユウトに説教したんだよー」

「温泉?」

「うん! おんせ……んん!?」


 おい待て、温泉で説教って、一緒に入ったって言ってるようなもんじゃねぇか。

 どうすんだよ、勘違いされちまうぞ。タオルを巻いていたとはいえ若い(片方は880歳)男女が同じ温泉に浸かったのだ。言い逃れはできない。


「え、えっと……目標が具体的じゃないーとか、自分勝手に動きすぎだーって説教したの」

「そうそう、だから今度どうやって世界を平和にするか話し合おうと思ってるんだ。ってことで寝ようか」

「温泉で説教ってことは二人が一緒にいた……?」


 アイアスはもう完全に気づいているな。

 もう何を言われようが無視だ無視、ミントを見ると俺の目とミントの布団を交互に見ている。

 やることはひとつだ。


 俺は瞬時に布団に潜り込む。

 ミントもドタバタと自分の布団に逃げ込み、二人揃って狸寝入り。このまま寝よう。


「おやすみ」

「おやすみー!」


 おやすみといえばだいたい話しかけてこないはずだ。多分。


「何かあったのか?」

「なんもない、寝るぞ」

「うーん、気になる」


 気にならなくていい。できれば永久に忘れ去ってほしい。


「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからお姉さんに教えて? 先っちょだけでいいから」

「嫌です、おやすみなさい」


 お前はセクハラで捕まれ。

 捕まれで思い出したがこの世界って法律がないんだよな、ある程度の決まり事があるくらいで。

 犯罪を犯したら街にはびこっている冒険者が捕まえるので、街の中はほぼ安全だ。

 街の外に魔物がいる時は少ない冒険者や、国の兵士が討伐に行くので、盗賊などの犯罪者を捕まえる人が少なくなり、犯罪が多くなっていた。


 だがまあ、今は魔物が現れるなんてことはほとんどないのでその心配は皆無だが。

 魔大陸で起こる事件が魔物の放出だった場合、街の警備を強化しなくてはならない。

 それか、外壁をさらに厚くするか。


 明日は朝一で魔大陸直行と思っていたが、この大陸についても調べなきゃいけないことが多そうだ。

 まずはエルフ、お城から旅館までの道で数人のエルフとすれ違った。そのエルフについて調べよう。


 計画を立てていると眠気が襲ってきた、もう今日は寝よう。泥のように寝よう。

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