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枝垂桜の湯

 高級カニ鍋を堪能した俺たちは、テーブルを壁に押しやり、布団を敷く準備をしていた。

 まずは敷き布団だな、ちょうど五つ置いてあるから山を崩してそれぞれで敷こう。


「これとこれとこれがアイアス、ミント、ムーンの敷き布団だ。俺とソウルかこのふたつな。女と男で離して敷けよ」

「なら僕たちは向こうだね」

「おう」


 俺も敷き布団を持って布団を敷く場所をある程度決める。

 そして、そこにぱぱっと敷き布団を敷く。


「敷くの上手くない?」

「お前が下手なんだろ」


 俺が広げた布団は、真っ直ぐ綺麗に敷かれている。

 一方、ソウルの広げた布団は斜めになり、端が内側に入り込んでしまっている。

 ソウルはすかさずそれを直した。


「そういえばさ、寝る準備ができたら王様のいる部屋に集合だとか言ってたよ」

「言うの遅くない?」


 敷き終わったら枝垂桜の湯に入ろうと思ってたのに。


「ほーい、ぐるぐるー!」

「うわーっ!」


 なんか女子陣がキャッキャッしてるな。

 見ると、アイアスが広げた布団でミントをぐるぐる巻きにしているところだった。


「何してんだお前ら」

「ユウトー、これ楽しいよ」

「はぁ……ムーンを見習え」


 ムーンを見ると、敷き布団、掛け布団、枕と全ての準備を終わらせて、そこに座っていた。

 偉いぞ。


「え? ムーンちゃんならさっきまで横で……あれ!?」

「終わっちゃった」


 なにその○○なら俺の隣で寝てるぞ。みたいなニュアンス。

 それにしても早いな、俺だってまだ敷き布団だけしか敷けてないぞ。

 俺も枕と掛け布団運ばないとな。


* * *


 なんとか布団を敷き終わった俺たちは、さっそくピース王のいる部屋に移動した。

 金髪ロングの女性が浴衣姿で座椅子に座っているのは見慣れないな、謎の違和感がある。


「おお、ゆっくり休めたか? 私の癖で宴が長くなってしまった、悪かったよ」

「いえいえ、楽しめたからいいですよ」

「ああ、私も楽しかったよ」


 確かに三日は長かったけど、楽しかったのは嘘じゃないので言っておく。


「さて、宴はこれにておしまいだ。明日の朝、起きたら解散だからな」

「はい、ありがとうございました! あ、マールボロ王に何か伝言はありますか?」

「そうだな……ユウト、耳をかせ——」


 ピース王が俺を引き寄せ耳元で喋る、やめて、耳弱いんだから。

 伝言を聞き終わり、耳をさする。


「よろしく頼むぞ」

「わかりました、それでは」


 他のみんなもピース王にお礼を言い、頭を下げる。

 立ち上がり、その場を去ろうとする。


「ムーン、またいつかな」

「うん、またいつか」


 ピース王はムーンと短く言葉を交わしたあと、背を向けて肘をついた。

 さて、部屋に戻るか。


「機嫌いいですね」

「久しぶりに面白い奴らに会えたからな」


 ドアを閉める瞬間、そんな声が聞こえてきた。

 面白い奴ら、ね。確かに面白い奴らかもしれないな、近いうちにもっと面白いことになるが。


* * *


 部屋に戻ってきた俺たちは、皆布団の中に入り、今までにあったことなどを語っていた。


「セブンスタの洞窟でさ、ユウトが——」

「そんな大きい魔物がいるんだぁ」


 ソウルは俺とザンとソウルの三人でゴーレムを倒したことを自慢していた。

 最後に守ってくれたのはアイアスだったけどな。


 そろそろ温泉に入りに行こうかな。


「ちょっと散歩してくるわ、先に寝てていいぞ」

「おう、おやすみー」


 ソウルが布団に潜りながらそう言った。


「あ、そうだ。ミント、一緒に行こうぜ」

「わ、私?」


 どうせだからミントも誘おう。

 多分女湯にも同じ道があるはずだ。


 廊下に出た俺とミントは百花の湯の方向に歩いていた。


「散歩って、何するの?」

「わりぃ、散歩は嘘だ。実はな、百花の湯の奥に枝垂桜の湯っていう温泉があるらしいんだよ」

「し、枝垂桜の湯!? でも旅館の人の話だと温泉の種類は三つだったはず……」

「旅館からは言わないんだとよ、常連のじいさんに教えて貰った」


 常連しか知らない温泉があるなんて、面白い旅館だ。それに初めての客が入るとは思わないだろうな。


「そこに入りに行くんだね」

「ああ、景色がいいらしい」

「楽しみだなぁ、枝垂桜かぁ」


 枝垂桜か、昔は枝垂桜なんてなかったのだがな。

 ソメイヨシノは作られてないにしてもそれ以外の桜はあったから、新しいのが生まれたのかもしれない。

 おっと、いつの間にか百花の湯の前についたな。


「じゃあ俺はこっちだから、また後でな」

「うん! じゃーね!」


 ミントは手を振りながら女湯に入った。

 俺も入るか。


 前と同じように脱衣所で服を脱ごうとしたが、夜道を裸で移動したくないので、思いとどまる。

 わざわざこの浴衣を脱ぐ必要はないな。


 服を置く棚に置いてあったのは、体を拭く用のバスタオルだった。

 それを持って、温泉の奥に進んでいく。

 本当に道があった、入った時には気にしてなかったが、明らかに奥に何かある道だ。


「さっむ」


 春の大陸に近いとはいえ、夜は寒い。

 寒さの耐性があるとは言っても、寒さを感じなくなる訳では無いため、普通に寒い。

 坂を登っていく、寒さで自然と早歩きになってしまうな。


「あれか」


 坂を登った先には、月明かりに照らされている桜がちらほらと見える温泉があった。

 お、ラッキー、誰もいないじゃん。

 寒いので早く入ろう。


 温泉の近くには服を置く用の棚が置かれていた。

 よかった、あそこに置こう。

 服を脱ぎ、温泉に入る。


「あぁあぁあぁ……」


 漏れた声にビブラートがかかってしまった、そのくらいに気持ちがいい。

 寒い道を通った影響もあってか、暖かい温泉が体にしみる。


「来てよかったなぁ、またいつか来たいな」


 なんて独り言を言うくらいにはリラックスしていた、貸切状態だからな、このくらい許せ。

 そういや、枝垂桜の湯の効能ってなんだろ。

 確か温泉の端に立て札があったはずだ。


「えーっと、癒し、リラックス効果……」


 心が落ち着いているのは効能の効果か。

 癒し……自然回復が早くなるのかな。


 ザク、ザクと足音が聞こえた。

 あの時のじいさんかな? 貸切かと思ったのだが、まあいい。


「ユ、ユウト……?」

「……ミント?」


 振り向いた先に立っていたのは、浴衣姿でバスタオルを持つミントだった。

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