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魔術と魔法は紙一重

 灼熱の湯から上がった俺は、旅館から提供された灰色の浴衣のような服を着て、部屋まで歩いた。

 そして、ドアを開けて部屋に入る。


「やっと帰ってきたか」


 ソウルが呆れた顔をしながら言った。

 入りたかったんだ、仕方ないだろう。

 みんな揃ってるかな? ソウルとアイアスとムーンと……あれ?


「ミントは?」

「ミントちゃんも灼熱の湯に行くとか言ってたよ、絶対ふやけちゃうでしょあの子」

「楽しみにしてたからな。まぁ、そろそろ帰ってくるだろ」


 もうすぐ料理も運ばれてくるだろうし、部屋でゆっくりしていよう。

 和風建築はいいね、畳職人とかいるのかな。

 ここの畳を作った人から同じ畳を買っておこう。


 ドアを閉めながら部屋に入ろうとした瞬間、廊下からドタドタと足音が聞こえてきた。

 廊下を走ってはいけませんって小学生の頃に習わなかったの? そもそも小学校がありませんでしたね。


「ま、間に合った?」

「ああ、まだ夕飯じゃないぞ」

「よかったぁ」


 膝に手を当てながら息を整えるミント、お風呂入ったあとなのに汗かいてない? 意味無いでしょそれ。


「ユウトー、暇だからなんか見せてよ」

「人をおもちゃ箱みたいな扱いすんな」


 でもまあ実際にすることもないので、アイアスの言う通り魔袋の中でも見るか。

 荷物の山から魔袋を取り出し、手を突っ込む。

 とりあえずランダムで取り出そう。何が出るかな、何が出るかな、テレレテンテンテレレレ。

 何かを掴む感触、そのまま魔袋から引っ張り出す。

 ごきげんよう、と出てきたのはライオン……ではなくゴツゴツした見た目の分厚い本だ。

 なんだっけこれ。


「本?」

「魔法の本じゃない?」

「なんか赤い宝石が埋め込まれてるよ」


 赤い宝石、確かこれは魔術に使う錬金石だ。

 ってことは魔術の本か、この世界には馴染みのないことが書かれているはずだ。


「これは魔術の本だな、魔術は魔法と違ってあんまり派手な技は使えない。代わりに使いやすい技が多いんだ」

「魔術ってなに?」


 ミントが顎に手を当て、首をかしげながら問う。


「えっとだな、魔術は基本的にはその空間にある魔素を消費して使うから、光魔法が使えない人でも洞窟を照らす光源なら出せるんだよ。こんなふうに」


 俺は久しぶりに魔術を使い、指先を光らせる。

 枝でも持ってれば先端を光らせてライトにできたんだけどな。


「マジか! ちょっと見せてくれよ!」

「いいけど、意味無いぞ」


 ソウルは俺の話を聞かずに本を奪い取ると早速パラパラとページをめくる。

 だが、そのページは、文字が一文字も書かれていない無地の紙だった。


「なにも書いてない」

「そりゃあな」


 この魔術の本はある魔術を使わないと読むことができない。

 つまり、ソウルたちには読めない。

 アイアスも読めないだろう。


「かしてみろ」


 ソウルから本を受け取る。

 ずしりと重いその本は、錬金石や錬金鉄で装飾されたカバーがつけられており、とても禍々しい雰囲気を醸し出していた。


 俺は中心にある大きな赤い錬金石に手をかざし、魔術を使う。

 錬金石が光り、その光は錬金鉄に伝わり広がっていく。全ての錬金鉄が光ったと同時に光が弾け、錬金石の色が青へと変わる。

 イメージによって書かれる文字も変わるので、今回はライ文字で浮かばせた。これでみんなも読めるだろう。

 さて、なんの本だったか。


「ウォルクスの爪……?」

「上錬金草……知らない単語だらけだね」


 俺にも読ませていただこう。

 ふむふむ、上錬金草、ウォルクスの爪、フェイルシードの葉を組み合わせることによって、ウォルクスの研磨剤が手に入る……と。

 錬金のレシピ本じゃんこれ。


「錬金の本だな」

「あ、このウォルクスの研磨剤ってジョワイユーズに使ったやつだよね?」

「そんなこともあったな、斬れ味は良くなったけどヌメヌメして気持ち悪いとか言ってた気がする」


 ヌメヌメはフェイルシードの葉の影響だな、研磨する時にくっついてくれるから便利だけどされる側からしたらとても気持ち悪いらしい。


「へぇ、剣とかも作れるのか!」


 ソウルはレシピ本に夢中のようだ。

 俺もちょっとわかるよ、ゲームの攻略サイトでアイテムの作り方とか眺めるの楽しいよな。


「隠蔽マント……!」


 ムーンは隠蔽マントという単語に反応している。

 これ以上認識されにくくなってどうするつもりだ。


「ボーンシールドねぇ、あたしの方が硬いわね」

「そりゃそうだろ」


 アイアスの盾だぞ、硬いに決まってんだろ。

 ヘクトールの槍を受け止めたんだぞ。


 人の気配を感じ、ドアを見ると、コンコンコン、とノックが三回鳴った。


「お夕飯をお持ちいたしました」

「ありがとうございます!」


 ミントがお礼を言い、従業員さんを部屋に通す。

 数人がかりで運ばれてきたのは鍋、旅館の料理の定番だな。

 宴の時のはとりあえず美味いものを盛り付けたって感じだったからな、ゆっくり食べるのは久しぶりかもしれない。

 てか傍から見たらほぼ日本だなこれ。どう考えても修学旅行のそれだろ。


「それでは、ごゆっくりどうぞ」


 仕事を終えた旅館の人はそそくさと帰っていった。

 さて、なんの鍋だ?

 蓋を掴み、パカッと開ける。

 白い湯気がぶわっと広がり、鍋の中身が見えるようになる。


「カニだ」

「カニ!!」

「カニ」


 鍋の中にあったのは色とりどりの野菜と新鮮な肉、そして真っ赤なカニだった。

 カニ鍋とか最高だな。


「おー! カニじゃん!」

「こんな大きいカニはじめて見たよ」


 ミントは見たことないらしい、港で取れるのは小さめのカニだけなのかな?

 これ食ったら布団の準備だな、布団の準備が終わったら枝垂桜の湯にでも行こうかね。


 その後は、皆終始無言になりながらカニを食べたのだった。

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