温泉巡り
覗きに失敗したソウルたちの元へ戻った俺は、意気消沈してしまっているソウルたちと共に百花の湯に入った。
おかげでお肌スベスベである。
だが、そこにいた全員が『なんか違う』という意見を言ったことで数分で上がってしまう。
そして、繚乱の湯に移動した俺たちはソウルの愚痴を聞きながら湯船に浸かるのだった。
あー、繚乱の湯は気持ちいいな、大英雄でも肩は凝るんだよ。
「ふぃー……」
「もう少しで見えるところだったのにさぁ……」
「さっきも聞いたぞ」
もう少しで見えるところだった、このワードを百花の湯で一回、移動中に一回聞いていたのだ。
「いやほんと凄かったんだって、あんなに湯気が濃いとは思わなかったよ。ありゃセブンスタよりも濃かったな」
「セブンスタは霧だろ、ん? 湯気と霧はだいたい同じだっけか?」
どっちも水蒸気だから同じか。
でも発生の仕方は違うな、あっちは魔物だし。
「おうボウズ、どうだここの湯は」
「最高ですね、俺はこのあと灼熱の湯にも行くんですけど、一緒にどうですか?」
「いんや、俺は先に飯が食いたいのでな、部屋に戻らせてもらう」
「そっすか」
ソウルも部屋に戻るって言ってたし、俺一人で行こうかね。
遅くなってもあれなので、もう少ししたら上がろうと思う。
「ガキィ、お前ヒョロっちぃな」
「誰がガキだ誰が!」
隊長さんがソウルの腕を触りながらそう言う。
俺もそう思うぞ、もっと筋トレしろ。ザンを見習え。
しかし隊長さんもなかなかの筋肉をしている。ザンほどの身長ではないが、いい感じのガチムチだ。
ザンと隊長さんよレスリングとか見てみたい、やっぱ見たくない。絶対空耳とか聞こえるってそれ。
「筋トレも魔力を高めるのに繋がるんだから、ちゃんとやれよ?」
「ユウトくらいの筋肉が理想かなぁ、腹筋が深くは割れてなくても引き締まってる筋肉」
「ある程度鍛えればこのくらいにはなるだろ」
俺に筋肉がついているのは中学の頃にサッカー部だったからだろう、その時の筋トレが習慣になってたから高校でも続けてたんだ。
このおかげで17歳に戻されてもそこまで苦労はしなかったのだ。
贅肉ダメ絶対。
「今頃あいつらどうしてるんだろうねぇ……」
「港にでもいるんじゃねぇの?」
「うーん、もう船で移動してるんじゃないかな?」
え、マジか。
ってことは明後日には到着してるかもしれないのか。
船の移動はまあまあ時間かかるだろうし、明日魔大陸で何かが起こってもすぐに飛んでいけば間に合うだろう。
俺が一人で魔大陸まで最高速度で飛んで、その後で他のみんなを転移させればいい。
え、なら西大陸にも東大陸にも俺一人で行けばよかっただろって?
飛行魔法でザンとかと一緒に飛んだのは他のみんなを飛行魔法に慣れさせるためだ、緊急じゃないんだからこれでいいだろうという俺の判断だ。
ちょっと長く入りすぎたかな、そろそろ上がるか。
「あれ、もう上がんの?」
「おう、灼熱の湯にも入りたくてな、夕飯前には戻るから安心しろ」
「絶対熱いでしょその温泉」
別に本当に水が沸騰してる温度でも俺なら入れるからな、旅館の人の説明から考えるに泡風呂みたいな感じだろうよ。
ちょっぴり名残惜しいが、俺は繚乱の湯から出て灼熱の湯に向かった。
* * *
灼熱の湯、そう書かれた看板の奥には下から泡がふつふつと湧き出てくる温泉があった。
ここが灼熱の湯か、見た目すごい暑そうだな。
近くで見てみる、自動でボタン切り替えされる直前の電気ケトルを覗いた時みたいな沸騰のしかたしてるな。
「そこの若いの、入らないと体が冷えてしまうぞ」
「先客がいたか」
声がした方を見ると、白髪の目立つ80歳ほどのおじいちゃんが温泉に浸かりながらこちらを見ていた。
ぐつぐつしてる温泉に入るおじいちゃんとかちょっと怖い、どこかの地獄にこんな絵面ありそう。
地獄に行くなら楽しい地獄がいいな、あるのかそんなの。
「熱くねぇの?」
「繚乱の湯に比べたら少し熱いがの、このくらいが丁度いいのじゃよ」
「へぇ」
早速入ろう、今更ながら不安になってきた、入ったらユウトの水煮とかになったりしない?
足を突っ込む、つま先が沸騰したお湯にゆっくりと入っていく。
泡が当たり少しくすぐったい、本当に熱くないんだな、このまま肩まで浸かろう。
「ふぅ……じいさんはここの常連か?」
「まあ、常連を名乗ってもいいぐらいには通っておるの」
「一番よかった温泉ってどれだ?」
百花の湯、繚乱の湯、灼熱の湯。どの温泉がおすすめなのだろうか。
「そうじゃな……枝垂桜の湯じゃろうな」
「枝垂桜の湯? 旅館の人はそんなこと言ってなかったけど……」
常連しか知らない温泉とか? 何それ胸熱じゃん、めっちゃ気になるぞ。
「旅館からは言わないんじゃよ。百花の湯があるじゃろ? あそこの奥にさらに坂道があるんじゃよ、その坂道を登った先にあるのが枝垂桜の湯じゃ」
「そんなものが……」
だが、流石に連続で入るとのぼせてしまう。
寝る前に行こうかな。
「それで、若いのはなぜこの旅館に来ておるんじゃ? 観光かの?」
「観光って言えば観光だけど、外交っていえば外交なんだよな……よくわかんねぇや」
外交はほとんどできてないし、この大陸には遊びに来ただけだったな。
まあ元々外交するつもりなんてなかったし、いいんだけどね。
「ほっほっほ、まあピースを楽しんでくれるならワシからしたら嬉しい限りじゃよ」
「むしろ楽しみすぎた感あるけどな」
宴とか宴とか……あと宴とかな!
なんだよ三日間宴って、実質二日間だったけど。
「それじゃ、ワシは上がらせてもらおうかの」
「後でじいさんが言ってた温泉に入ることにするよ」
「あそこは景色がいいんじゃぞ、ちょうど今日が綺麗じゃな、雨上がりの雲の少ない日は絶景じゃ」
「楽しみにしとくよ」
じいさんは笑顔で灼熱の湯を上がっていった。
ふと空を見る。もう随分暗くなったな、もう少ししたら俺も上がろう。
背中に登ってくる泡にゾクゾクしながら、湯船に浸かった俺は、満足したあと灼熱の湯から上がったのだった。




