夢のためなら
武器を村長宅の倉庫に置いた俺は、みんなと合流するために緑の道具屋に戻ってきた。
カウンターの後ろにあるドアを開けようと、ドアノブに手をかける。
聞き取れないが、中がなにやらガヤガヤしている。お、仲良くなれたかな?
参加しようかなとドアを開けると、ドア越しでこもっていた声がはっきり聞こえるようになる。
「えへへぇ……」
「ただい……うわっ、何があったんだ?」
マジでビビった、ミント顔赤くね?
イア辺りにいじめられたのかな。
きっと百合百合しい空間だったんだろうな、あとでソウルとザンに感想を聞こう。
「ユ、ユウ……ひゃあああ!」
「誰だユウヒャアって」
赤い彗星みたいな名前だな。
それはシャ○か。
ミントはアイアスと会話しているが、内容がよくわからないので気にしないことにした。
赤い仮面……それはV3だ。
一文字も合ってねぇな。
「なんの話してたんだ?」
「さっきミントが……」
「わああああああああああ!! 何でもないから! 気にしないでね!!」
「誤魔化し方がユウトそっくりですよぉ」
「うぇ!?」
え、俺そんなに大声出して誤魔化したりしたことあった?
と、いうわけで思い出してみよう。
まず、俺が大声出す時は戦いの時と知られたくないことを言われそうになった時だ。
……今朝か。
「ユウトくんについて話をしてたのよ!」
「居たんですか、キウィさん」
この人のセリフには必ずエクスクラメーションマークが付いている気がする。
そのくらい元気なのだ、旦那の情報が入ってからさらに元気になった気がする。
てか俺の話かよ、みんなして陰口とか笑えないんですけど。
「ソウル、何について聞いた?」
「アイアスとユウトについてとか、ミントとユウトが初めて会った時の話とかだけど」
絶対面白くないじゃんそれ。
「絶対面白くないじゃんそれ」
声に出てしまった。
アイアスと俺の話ねぇ、ろくなことなかったなぁ。
「僕的には今まであったユウトへの不満をぶちまけたかったんだけどね」
「ほう? 怒らないから言ってみろ」
「え、マジ? じゃあ……朝起きるのが遅い」
それはどうしようもない、何故か自力で起きるのが億劫なのだ。
何年も魔王討伐をしていた疲れが出てきてるのかな?
「それ以外は?」
「それ以外? うーん……うーん? あ! 僕をいじめてくるとか!」
「そんな褒めんなよ」
「褒めてねぇよ!?」
褒めてなかったのか。
まあ不満話で褒めるとかありえないわな。
「ユウトくんも帰ってきたし、みんなでご飯食べよう!」
キウィさん、全員分の食事を作ってたのか。
ここまでくると予知能力でもあるのではないかと疑ってしまう。
女の勘はよく当たるって聞くし、それなのかもしれない。
俺たちはパンとスープ、野菜炒めの食事をした。
このパンは上質な小麦粉を使っているこの村の特権だな。
イアも喜んでた。
「パン美味しかったです」
「仕事がないって素晴らしいな」
俺はこんな風に毎日まったり過ごしたいんだ。
その為に働いてるんだけども。
「でも僕たちってそのうち西大陸とか北大陸に行くんでしょ? 北大陸はあんまりいい噂聞かないし、行きたくないなぁ」
「どんなところなんだ?」
「北大陸と魔大陸は奴隷制度があるんだよ。それに、北は犯罪も多いらしいし」
「奴隷ねぇ……」
奴隷にいい思い出はないな。
一度は俺も奴隷になったことがあったし、その辛さもわかる。
解放してやろうと奴隷を買ったところ、魔法を解いた瞬間に襲いかかってきたこともあった。
だから俺は奴隷が嫌いだ。
「その点西はいいよな! 食べ物は美味いし、エルフの美女がいるし、温泉もあるし!」
「詳しく!」
「落ち着けミント」
案の定ミントが温泉に反応した。
温泉行きてぇな、やっぱ次は西大陸行こう、そうしよう。
ってんん?
「エルフだと?」
「エルフと人間が共存する国だぜ」
エルフといえば魔族の血がどうとか人間に煙たがられるので、森に隠れて暮らしていた種族だったはずだ。
そんなエルフが人間と共存だと? 俺の理想の第一歩を踏み出している国じゃないかそれは。
「次は西大陸にしよう」
「マジ? やったー!」
「楽ならなんでもいいよ」
「ちょっと!? イアこの間まで西大陸にいたんですけど!」
え、イアもついてくる予定なの?
「わ、私も行きたい!」
「え?」
ミントも? まあ確かにミントはお風呂好きだからその気持ちもわかるが……さすがにその為に空を飛ばせるのは……
「気持ちはわかるけどな、移動だって結構危険なんだぞ」
「……それでも行きたい。小さい頃からの夢、だから……」
「そうか……」
夢か、俺の夢ってなんだろう。
世界を平和にすること? 静かに暮らすこと?
わからない。
夢を持つってことは大事なことだ、その為なら何かの行動をする理由になる。
「わかった」
「本気か!?」
ソウルが目を丸くして驚く。
あの空の旅についていけなかったソウルだからこその反応だろう。
「ほんと!?」
「ただし、俺のそばから絶対に離れないこと。これが条件だ」
「ユウトのそば……ユウトのそばにいればいいんだね!」
なんで二回言ったんだ。
ミントの同行が決定したな。
でもさすがに親の許可なしにそれはダメだよな。
聞かないでもわかるが一応聞いておこう。
「キウィさ」
「全然いいよ!」
「だろうと思いました」
またこの人は相変わらずだ。
こんな変わらない日常を守れるようにしたい。
「じゃあミントをアイコスの街に連れて行ってもいいですか?」
「もちろん! あ、同じ部屋で寝てね?」
「逆でしょ、普通」
普通は別々の部屋で寝てね? っていうところのはずだが、キウィさんは違う。
この人は、本気でミントと俺が結ばれることを望んでやがる。
ミントからしたら迷惑だろうな。
「ミントちゃんのお母さん、インパクトあるな……」
「どうやったらこんな可愛らしい子が生まれてくるんですかね……お父様の血筋でしょうか」
ザンとイアがコソコソ話をしているが、俺には丸聞こえだ。
俺の予想だと顔が母親似で中身が父親似だな。
「いーじゃんユウト、一緒の部屋で寝ちゃえー!」
「アイアスは味方だと思ってた」
「同じ部屋だなんてそんな……いや、でも……」
あ、ミントが動かなくなった。
畜生味方が誰もいねぇ!
「なあユウト」
「あ? なんだよ」
「爆発しろ」
爆発? 溜まってた鬱憤を吐き出したのか。
うまく言葉にできないから直球で悪口を言ったと、なかなかやるじゃん。
直球の悪口は結構心にくるもんだ、陰口なら知らなければ無いも同然だから気にならない。
「そろそろ出るか」
「お、もう帰るの? いつでも遊びきていいよー」
「ありがとうございます。じゃ、また今度」
みんなもキウィさんにお礼を言い、俺たちは緑の道具屋の外に出た。
見慣れた広場に巨大なかまど。
かまどが妙に懐かしく感じる。
もう小麦村への要はないな。
レッドたちの家に寄ってから帰ろう。




